第3話 修羅場

がやがやとした喧噪の中、俺は目の前にある大きいステーキと麦酒を目の前にハッピーだった。ただ飯というのも嬉しいが一緒に食べている相手がより料理を美味しくしてくれるのだ。



「レインのおかげで助かったよ。やはり貴公は頼りになるなぁ。うふふ、私たちの救世主だよ。今日はおごりだ。遠慮なく食べてくれ」



 俺の前でいつもは凛々しい顔を珍しくほころばせているのは団長である。バーバラの聖水を入手したことにより、騎士達のアンデッド狩りがスムーズにいったため彼女の気苦労もだいぶ少なくなったからだろうか。いつもより酒が進んでおりテンションが高い。

 まあ、俺がなにかやったというわけではなく、バーバラの聖水のおかげなのだが美女に褒められて悪い気はしない。



「いえいえ、俺としても団長とこうやってご飯をご一緒できて光栄ですよ。それで……よかったら次も俺に聖女様から聖水をもらう仕事をやらせてもらえないでしょうか?」

「ああ、もちろんだとも!! むしろ貴公にしかできない仕事だからな。そう言ってもらえると助かる」



 そう言うと団長は嬉しそうにビールを飲み干す。大人の女性が美味しそうに何か飲んだりするのってなんかセクシーだよね。特に普段は気を張っているからか、表情が硬い美人な女性が俺の前では柔らかく微笑んでいるっているのが素晴らしい。

 それに……これからもバーバラに会う事ができるようにで嬉しい。騎士の仕事をしていると休みが不定期になるため気軽には会えなかったからな。



「ウフフ、労働後のお酒は美味しいなぁ……」

「でも、団長がこんなに飲むのはちょっと意外ですね。いつもは乾杯の一杯くらいじゃないですか」

「当たり前だろう? 私は団長だからな。だらしないところも見せられないし、弱みを握られるわけにはいかない。信頼している貴公だから見せるんだよ。勤務態度も良好だし、剣の腕前も上がってきている上に私の愚痴もこうして聞いてくれているからね」



 そう言うと彼女はちょっと照れくさそうに笑いながらウインクをする。やっばいな、これ。団長が可愛すぎる。

 仕事が順調にいっているのと料理が美味しいからか無茶苦茶機嫌がいい。今ならあの言葉を言ってくれるかもしれない。



「それにしてもこんなことがご褒美でいいなんて変わった奴だな。私なんかと食事をしてもつまらないだろうに……それに、レインは大丈夫なのか? 彼女とかいたら誤解をされてしまうぞ」

「いえいえ、彼女なんていないですよ。それに団長とこうしてお話しできることがなによりのご褒美です」

「お世辞でもそう言われるのは悪い気はしないな」



 俺の言葉にまんざらでもなさそうに微笑む団長。おお、なんかむっちゃいい雰囲気だな。今なら言えるかもしれない。



「ああ、でも、団長……せっかくなんでお願いがあるんですが……ちょっと悔しそうに『くっ殺せ』っていってくれませんか?」

「何を言っているんだ貴公は……それよりも……後ろで貴公を恨めしそうに睨んでいる少女は知り合いかな?」

「え……一体何の話を……ひぇぇぇ!?」


 

 お化けでもいんのか? って思って振り返るとそこには頬を膨らましてすごい不満そうな顔のバーバラがいた。



「ふーん、デートですか? ずいぶんと楽しそうですね。レインお兄さん」



 バーバラと目が合うと彼女はにっこりと……だけど、目は一切笑っていないまま俺を見つめる。なにこれ、無茶苦茶こわいんだけど!!



「うん? もしかして貴公の恋人かな? 私は恋人はいないと聞いたので食事を一緒にしたのだが……どういうことかな?」



 団長が怪訝そうな顔をしながら……だけどわずかな殺気をにじませながら言った。



「え……あ……う……くっころせ」



 別に何も悪い事はしていないのだが、恐怖のあまり思わず口から出たのがこの言葉だった。





「おーい、バーバラ機嫌を直してくれよ、あ、そうだ。飴食う? 飴?」

「私を何歳だと思っているんですか!! まあ、もらいますけど……でも、団長さんは放っておいてもいいんですか?」

「まあ、団長は俺より強いしな。不審者にあっても返り討ちにするだろ。それにバーバラのほうが心配だしな」

「へぇー、私の方が大事……うふふ、あ、この飴甘くておいしい♪」



 俺の言葉になぜか嬉しそうにニコニコとしながらバーバラは飴を口にする。結局食べるんかいと心の中でつっ込む。

 結局あのあとは、団長とバーバラがなぜかそれぞれを俺の彼女と勘違いしていたので、団長と聖女であると誤解を解いたあと、三人で食事を一緒にして、解散したのだ。 

 そして、団長の命令で聖女である彼女の護衛をすることになったのだ。



「でも……団長さんには悪い事をしてしまいましたね……その……レイン兄さんとデートをしていたんですよね?」

「いや、だからデートじゃないって 飯をおごってもらっていただけなんだよ」

「レイン兄さん……まさかヒモじゃ……」

「ちげえよ!! 騎士だって言ってるだろ」



 少ししゅんとした様子のバーバラに事情を説明すると失礼な誤解をされたので突込みを入れる。まあ、バーバラなりの冗談だという事はわかってるんだけどな。冗談だよね?

 少し歩いているとなぜか彼女はもじもじとし始めた。どうしたんだろうか、おしっこかな?



「その……私めんどくさいですよね……さっきも別に彼女でもないのに変な風に絡んでしましましたし……」

「ん? 気にするなって俺はめんどくさいバーバラも知ってるからさ。それにバーバラにならめんどくさい事を言われても俺は大丈夫だぞ」



 どうやら彼女なりに気にしていたらしい。俺は少しへこんでいるバーバラの頭をポンポンとたたいてやる。昔っからこうすると喜ぶのだ。



「もう……レイン兄さんは優しすぎます」



 そう言ってまだ拗ねているような、でも嬉しそうな複雑な顔をしてからバーバラはちょっと間をおいて言った。


「じゃあ、もっと我儘を言ってもいいでしょうか? その……私もレイン兄さんと外でご飯を一緒に食べたいです……ダメでしょうか?」



 別に食事くらい誘われれば行くんだが……彼女はまるで一世一代の大勝負のように少し緊張した面持ちでそう言った。


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