第53話 その後

 王城に帰ると、盛大な歓迎を受ける。

 そして久々登場の、モーゼス・アイスシールド伯爵様……。叔父様だ。

 私の見合い写真が、欲しいとか言い出して来た。

 それと、ウェンディの写真もだとか……。

 ウェンディは、断らないんだな。もう私と生きている世界が違う。礼儀作法もバッチリだし、何処に行っても貴族令嬢として生きて行けそうだ。後は、眼に光が戻れば……、この娘は心配ないと思う。

 でも、今日だけは姉妹でいたい。

 その日は、夜遅くまで言葉を交わした。



 次の日に、王太子様が来た。

 ウェンディが目当てみたいだ。プロポーズの言葉を送ったのだけど、その場で凍らされる……。


 ──パキン、グラ……、ガシャン


「ちょっと、ウェンディ!? 王太子様が砕けちゃったわよ!?」


 王族殺し? 王家と侯爵家で全面戦争?

 私は、瞬時に怖い未来を想像したんだけど、ウェンディは微笑で王太子様を見ている……。

 あれ? 私だけが心配し過ぎ? 周囲も騒いでないし?


「私はお金に興味がありません。王太子様……、私にご興味があるのであれば、魔法戦で挑んで来てくださいね」


 ウェンディがそう言うと。凍った王太子様をメイド達が運んで行った。破片も丁寧に集めて……。そうか、元に戻せると知っているんだ。私だけが知らなかったんだな。多分、エリクサー?

 それと……、王妃様がとても興味深い目でウェンディを見ていたな。


 余り長居は出来ないとのことなので、昼食を摂ったらウェンディが、帰りを催促させられた。

 アイスメイル家の護衛からだ。

 ウェンディは、とても残念そうな顔をしたけど、頷いてしまった。ウェンディが飛竜に乗る。

 私達は、見送りを行った。


「リディア姉さま。もうすぐ、弟か妹が生れます。顔を見に来てくださいね。待っています!」


「うん。必ず帰るわ!」


 こうして、ウェンディは、アイスメイル侯爵家に帰って行った。

 それと、逃げていないで、私も会いに行こうと思う。


「兄上さま達は、学園なのよね……」


 時間が出来たら、会いに行ってみるか……。もしくは、王城に呼んでもいいわよね? 私は、学生じゃないし、王妃様の親衛隊なんだもん。

 そうだ、今の私は男爵位を貰っているのだ。横暴な態度を取る気はないけど、貴族としての地位は示さないと、王家に恥をかかせてしまう。


「……どんな態度で、兄上さま達に会うのが、正解なんだろう?

 アウレリアさんにでも聞いてから、会っても遅くはないよね……」





 土竜種討伐から、数ヵ月が過ぎた。


 ドーラさんは、弟子を取り出した。

 銃の指導を行うんだそうだ。まあ、伯爵位も持ってるし、王家としても家を用意すれば、S級冒険者に何時でも依頼を出せるんだから、いい話になるのかな?

 若い子ばかり面倒を見ているのは気になるけど、数年後には、A級冒険者になりそうな逸材もいるらしい。

 まあ、腰を落ち着かせてくれたので良かったと思う。

 王国の緊急時に、ドーラさんと弟子が向かうのであれば、安心だ。安心……、だよね?



 アウレリアさんは、今日も飛空艇で各都市を回っている。

 正直、アウレリアさんには、男っ気がない。

 やっぱり、ノア狙いなのかな……。

 でも見ちゃったんだよね~。変装して、王都で男の人とお酒飲んでるところ。たまに会っているみたい。私の魔力感知が高すぎるせいで、たまたま、本当に偶然に見つけちゃっただけだけど。

 まあ、無粋な事は止めよう。詮索はしない。

 私だって……、いないんだし。

 A級冒険者になると、貴族くらいしか言い寄ってこないな。王太子は……、苦手だ。

 私は……、もう少しノアに恋していたい……。それが本音だ。



 マーサさんは、凄い錬金術師だった。

 品質が最高級な薬品を大量生産し続けている。特に薬品だ。

 ラケド王国の医療技術が、一気に発展したと言われるほどの天才だった。

 そういえば、ノアがレシピを作った『エリクサー』だったけど、土竜種の素材が使えるみたいで、量産化に成功したのだとか。

 少し先の話になるけど、民間人にも使われ出す事になる。

 これは、嬉しいかな。

 私が大怪我を負った時に、望んだ薬品になるんだと思う。それが買えるのであれば、今燻っている冒険者達も動き出せると思う。

 マーサさん一人で、王国が変わったのかもしれない。



 レナード王太子様は……、魔法の特訓を始めた。

 本気で、ウェンディ狙いになったみたいだ。

 本気なのはいいんだけど、正直相手にならないと思う。

 まあ、数年後に期待かな。

 ノアみたいな、家庭教師が付けば、将来は分からない。私自身が、そうだったんだし。

 でも、レナード王太子様を応援する気はないかな。

 最悪、『妹二人に手を出すのであれば、私を倒してからにしてください!』と言えば、王族とはいえ引き下がるだろう。

 引き下がらないのなら、切り刻んでやろうと思う。本気で……。王家との全面戦争になっても、妹達を守ってみせる!



 それと、兄二人が私に会いに来てくれた……。私から出向く決心が着く前に、兄達から会いにきてくれたのだ。正直、嬉しかった。

 長兄は、政治学を専攻しているとの事。産業の育成を行いたいらしい。

 次兄は、軍事学だそうだ……。

 ウェンディのみに負担をかけたくないとのこと。剣と魔法以外で、ウェンディを支えて行きたいらしい。侯爵様は、朝から晩まで働いていた。領地内の全ての物事に目を通していたので、家庭をないがしろにしていた。その事に憤りを感じていたのは私だけじゃなかったみたいだ。

 3人で手を取り合って、将来は侯爵領を運営して行きたいと言われてしまった。私は、自分の事しか考えていなかったんだな……。私も、自分が出来そうな仕事を探せば良かったのかもしれない。家を出たのは、短慮だったのかな……。

 それと、兄達の学友から私を紹介して欲しいと頼まれているらしい。それだけは、断った。

 私達は、まだ5人兄弟だった。私から縁を切った形だったけど、兄と妹はそうは考えていなかったらしい。それが確認出来ただけでも嬉しかった。

 それと……、もっと兄弟が増えるかもしれない。いや、らしい……。これには、兄達も苦笑いを浮かべながら話してくれた。アイスメイル侯爵様は、何をしてるんだろう……。私が原因らしいので、強くは言えないけど……。



 私はと言うと、各地を回っていた。魔物の討伐依頼が多いのよ……。

 各地の冒険者ギルドに顔を出して、素材を引き取って貰う。

 緊急時には、王妃様から直接の連絡が各地の冒険者ギルドに届くようになったので、少しだけど自由な時間を手に入れられるようになった。

 まあ、監視されないだけでも気が楽かな。緊急時には、飛竜が来るけど、年に数回だ。許容範囲かな。


 そして……、私は空き時間を使いノアを探していた。


「私には、魔力が見えるんだもの。絶対、ぜ~ったい、見つけてやるんだから。

 あいつは、誰を教育したのか、もう一度思い知らせてやるんだから!」


 私は、決意を言葉にして、飛翔した。

 目的地は、『困っている街』だ。王妃様の依頼とも被る。

 あのお人好しは、必ず人助けをしている。常にしている。断言できる!


「待ってなさいね。お人好しのノア! いえアラン! アレン!」

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