第51話 討伐依頼4

 飛空艇は、少し離れた場所に降り立った。

 ここは、補給基地かな? それと、兵士達の休憩所でもあるみたいだ。

 テントが並んでいる。

 ここで、先ほど戦っていた"聖女重歩兵団"が戻って来た。

 負傷兵も目立つな……。


「報告します! 死者なし! 負傷兵多数以上!」


 簡単すぎない?


「……ご苦労様。各自治療に専念なさい」


 報告を受けた人物を見る。貴婦人と言えそうな女性だった……。かなり年上だけど、気品がある。

 もしかして……。

 私の身長くらいのある、バトルメイスも持ってるし……。あれが……、噂の……。

 ここで、ドーラさんに口を塞がれた。

 そのまま、後方に連れて行かれる。


「ん~、ん~、ぷは……。なんですか? ドーラさん?」


「いいかい、リディア。あの聖女には近づくんじゃないよ? 特に今は、緊急事態なんだ。『妹弟子の実力が知りたい』とか言い出して、ボコボコにされたらアウレリアの作戦も開始前に破綻しちまう」


 ……このドーラさん。お酒が抜けている時のドーラさんだ。

 目が、超真剣なんだけど。

 そして、予想通りあれが『聖女様』なのか。

 少し見ただけど、私には分った。


『今の私では、手も足も出ない……』


 近接戦闘も魔力も、格上過ぎる。多分、遠距離攻撃なども出来そうだ。

 あれが、世界最高峰なのかもしれないな。S級冒険者の頂点。

 アウレリアさんとドーラさんでも良くて互角くらいだろう。


「交渉は、アウレリアに任せる。リディアは飛空艇に戻ってな。

 いいかい? ちょっとのミスで、ミンチになるからね!」


「……はい」


 こうして私は飛空艇で待つことになった。





 物資の荷下ろしが終わると、アウレリアさんが戻って来た。

 ドーラさんが聞く。


「聖女の反応は?」


「……今日は、負傷者が多かったので落ち着いていました。仕事に忙殺されています。

 私達は、準備ができ次第出発します」


「リディアの事は、聞かれなかったかい?」


「……王妃様が、先手を打ってくれていました。『雛鳥を殺すな』……っと」


 ドーラさんが、安堵の息を漏らす。

 私は、冷汗が流れた……。


「どういうことですか?」


「以前……、上がりたてのA級冒険者が生意気な口を聞いて、ミンチになりました。体は元に戻せたのですが、心が壊れてしまい……。そのまま引退でしたね」


 ……貴婦人に見えたんだけど? 私の人物評価が間違っている?


「……私は、暫くは挨拶に行かない方が良さそうですね」


「あらまあ。冷たいのね~。折角の妹弟子だと言うのに」


 全員が、声の方向を向いた。驚愕の表情でその人物を見る。

 ……いつの間にか、入り口に聖女様がいたのだ。

 私の魔力感知に反応しなかった? いや、精霊の目も耳も反応していない? どれほどの実力者なんだろう……。

 アウレリアさんが、私を庇う立ち位置に移動する。ドーラさんは、短銃に手をかけた。

 ここで思う。私が無礼を働かなければ、この場は収まるはずだ。

 一歩前に出る。

 スカートを少し持ち上げて、挨拶を述べる。


「初めまして、リディア・ヘイルミスト男爵になります。以後お見知りおきを」


「王国の聖女ですわ。名は、聖女の位を返還するまで名乗らない事にしています。以後も、『聖女』と呼んでください。それにしても、可愛らしいお嬢さんだこと……。アイスメイル家とアイスシールド家も何をしているのやら」


 挨拶を返してくれて来た。それと、私の事は調べられているんだ……。


「実家とは和解しました。それと、今は独立していますので……」


「王妃様もよ。男爵位じゃなくて、侯爵位にすれば良かったのに……。そうすれば逃げられなくなると言うのにね~」


 なんか怖い事言っていない?


「聖女様。王妃様は領地を与えて国を発展させるよりも、王国各地で起きている問題をリディアさんに解決して貰おうと考えておられます!」


 アウレリアさんが、反論して来た。

 ここで、聖女様の魔力が揺れる……。


「それでは、何時でも他国に逃げられるでしょう? 首輪をつけておかない理由が分からないかな? ねえ? ドーラさん」


 ドーラさんは、滝のような汗をかいている。


「……それは同意するけど。リディアは逃げないよ」


「うふふ。いい信頼関係ですのね」


 それだけ言って、聖女様は飛空艇から降りて行った。

 三人でへたり込む。


「……リディア分かるかい? あんたは、今生涯で一番の死地に立っていたんだよ? それにしても良く切り抜けたね。誉めてあげるよ」


 あのメイスが振り下されていたら、飛空艇が木っ端みじんだったんだろうな……。

 それと、精神を壊しているのが分かった。

 冷静を保っていたけど、私を見る目は凍っていたな。


「土竜種よりも怖く感じました……」


「その感覚は、間違いありません。土竜種に聖女をぶつければ、確実に聖女が勝ちます。ですが、万が一も起こせないので、"聖女重歩兵団"がまず戦ったのです」


「それだけじゃないだろう? この領地が平地に変わっちまうし。あの聖女がバトルメイスを振るう時が"王国の最悪の日"と決まっているんだ。王家もそれだけは避けたのが本音さ」


 姉弟子なんだよね? 強すぎるのも問題あるのかな?


「そんなに強いんですね……」


「私達三人が組んで、互角以下かな? それと、帝国の聖女とのバトルは聞いていないのかい? アイスメイル侯爵領の話だよ?」


 ……聞いたことないな?


「帝国との国境付近に関所がありますよね? その辺は平地ではありませんでしたか?」


 妹のウェンディがいる関所だな。

 でも、地形? 記憶を辿る……。


「……林すらない、平地でしたね」


「聖女決戦の地ですね。木々を吹き飛ばし、山を平らにした跡地になります。その戦闘を見た、当時の国王陛下と皇帝陛下が次の日に和睦交渉を行いました。そうですか、アイスメイル侯爵様は、秘匿しているのですね」


 ……私が生れる前の話なんだろうけど。秘匿?


「聖女様は、何であんなに怒っているのですか?」


「ノアに最強の修行をつけて貰ったのはいいんだけど、後継が見つからなくて、あの歳でもいまだ『聖女』なんだ。

 婚期を逃した最強のS級冒険者なんてあんなもんさ。だから私も焦ってるんだよ。それと、ノアを探したいけど探しに行けない……。仕事に忙殺もされている。壊れない方がおかしいよ」


 ……え?

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