第50話 討伐依頼3

「"土蜘蛛"ですか?」


 まだ、待機中だったので、竜種について聞いてみた。

 聞いたことがある。昔国を滅ぼした魔物の名前だ。

 討伐出来ずに、封印というか、眠らせたとか聞いたな。

 それが、活動を再開したのか。


「土竜種にもなります。10メートル程度の巨大な六足歩行型の魔物と思ってください」


 土竜種?

 危なそうだな……。


「もしかしてですけど、破滅級になりますか?」


「まだですね。ほとんど動かないのですが、過去の記録から天災級には認定されました。

 動き出したり、怒らせた場合に、どうなるか……。過去の記録だと、毒をまき散らして水や土を汚染させたのだとか……」


「眠っていたのですよね? 動いていないのであれば、放置で良くないですか?

 また、眠りに就きそうだし」


「前回は……、いえ、記録として残っている内容ですが、突然暴れ出したと。そして、後手に回った国が滅びました」


 それは、有名な話だけど……。

 豊饒な土地を、一日で不毛な土地に変えてしまった、魔物。

 語り継がれてはいる……。

 先手を取ったとしても、そんなのを討伐できるの?


「ちょっと……、自信がないですね。私では、足手まといかも」


「作戦としては、私が飛空艇を守り、ドーラが牽制。そして、リディアさんが止めを刺す形になります。

 いいですか? リディアさん。自在に空を飛べて、姿も消せる。そして、風竜の剣をも装備しているのに『自信がない』とか言ったら、国民から白い目で見られますよ?」


 え~と……。私ってそんなに有名なの?

 それと、国民からって……。『冒険者から』じゃないのかな?

 この数十日は、王妃様の依頼で討伐を行っていたけど、今の私はどれくらい強くなっているのかな……。自覚がないのかもしれないけど、そこそこいい線は行ってそうに思うんだけどな。

 A級に認定されてから、忙しすぎて良く分ってないや。


「……目標と言うか、指標が欲しいな」


 ノアだったら、今の私を何て言うんだろう……。





 今私は、飛空艇に乗り込んで移動中だ。

 アウレリアさんは、備品の確認。ドーラさんは、絡み酒中だ……。

 矛先がこちらに来そうなので、私は近寄らない。


「自分で飛翔している時や、飛竜に乗っている時とは、また違った風景になるんだな……」


 眼下の王国を眺めながら、感傷に浸っていた。

 そして、遠くに煙が見えた。


「やっぱり飛空艇は速いな。飛竜の倍くらいスピードが出ているのかもしれない」


 その場所を、精霊の目と耳で観察する。


「大きな魔物に、集団戦を仕掛けている?」


 武装集団が、突撃して行った。あれはなんだろう?

 王国には、あんな軍隊がいたんだ?

 しかも、善戦している。練兵された精鋭だと思う。

 ここで、アウレリアさんが来た。


「見えるのですか?」


「数十人規模で戦っていますね。土蜘蛛を観察していたのですけど、戦闘が行われているみたいです。あれは、何処の兵ですか?」


「……危機を嗅ぎ付けて、先行されていましたか。王国最強の軍隊が相手しているみたいですね」


 王国最強? そんな部隊がいたいんだ。

 アウレリアさんが、魔導具を取り出す。あれは遠くを見る魔導具だな。『望遠鏡』とかいうやつだ。


「あの装備は……、教団が横撃を行ってくれています。"聖女重歩兵団"ですね。土蜘蛛の外骨格は硬いので切れないのですが、彼女の配下の兵達なら……。それと、土蜘蛛とは違うかもしれませんね。土竜種みたいですが……」


 物凄い、破裂音を轟かせながら、土竜種の外骨格を叩き割っている。

 あの鈍器……、メイス? は怖いな。それと、聖女重歩兵団じゃなくて、『破戒僧集団』とかの方が分かりやすいと思う。そんな装備だ。

 だけど、聖女の養成機関出身なのよね? 回復職というか、後衛職じゃないんだ?

 ノアは、どんな養成機関を作ったのだろう?

 考えていると、土竜種が動いた。黙ってはいなかったのだ。

 まず、紫色の煙を吐き出したのだ。


「……あれが、酸性の気体になります。溶解というかな? 吸い込むと危険ですね。

 聖女重歩兵団も迅速に距離を取っています。一糸乱れぬ動き。さすが、聖女の率いる歩兵団ですね」


 あれ? 聖女って治療専門じゃないの?

 そんな事を考えていると、土竜種に変化があった。

 移動して、川に陣取ったのだ。


「……これで、あの川の水が汚染されてしまいました。この土地は、しばらく住めなくなりましたね」


 蜘蛛のイメージが異なるな……。


「巣は作らないのですか?」


「大地から、魔力を吸収する魔物なのです。捕食はしないみたいです。

 川の中に居座ると、魔力供給が絶たれるのですが、今は十分な魔力量を保持しているのでしょう。

 それに、あの地形だと、聖女重歩兵団は泳ぐ必要があります。

 近接特化の重歩兵団ですからね。攻撃手段が絶たれてしまいました」


 魔物に知能がある? 糸を使わない蜘蛛型の魔物?

 いや、外敵から身を守る本能かもしれない。

 それにしても、聖女直属部隊が"近接特化の重歩兵団"なのか……。

 色々と疑問があるけど、置いておこう。

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