第49話 討伐依頼2

 この後、ある錬金術師と面会となる。

 話を聞くと、ノアから風竜の素材を受け取った人物と言う事が分かった。

 その素材で、ある地域の風土病を完治させたのだとか。


 この後、王様から、宮廷錬金術師の称号を受けるみたいだ。

 挨拶をする。


「リディア・ヘイルミスト男爵になります」


 スカートを少し持ち上げて、名乗り出る。


「初めまして、錬金術師のマーサ・グランヴィル子爵令嬢になります」


 グランヴィル子爵……。聞いたことがないな。遠い所か、小さい領地かなんだろう。


「あなたですか? 風竜の素材を献上された方は……」


 いきなりの質問……。

 う~ん。間違ってはいないな。


「ノアから譲渡されて、王妃様の親衛隊に入れて貰うために、献上しました」


「ノアとは、どんな関係なのですか?」


 この娘にも、『ノア』の偽名を使ってたんだな……。私と同時期にノアに出会っているから、考えるのが面倒だったんだろう。

 それと、ちょっと敵対的だ。


「……ノアに怪我を治して貰って、武器防具を譲り受けました。それと、修行を見て貰ったくらいかな」


「そうですか……。親しい関係ではないのですね。安心しました」


 ……ここで怒っては、話が進まない。王妃様以下、皆同じ想いなんだ。飲み込もう。


「治療薬を完成させたのですよね?」


「はい……。素材が集まらずに人が死んで行くのを見守るしかなかったのですが、ノアが竜種の素材を持って来て……。『これで試してみて』って」


 呆れて言葉も出ない。


「その後、一日程度ですが薬の作成に付き合って貰い、完成させられました。そして、この本を譲り受けました」


 その本を見る。私には読めない文字だ。


「どんな内容が書かれているのですか?」


「……私が欲しいとイメージした薬の情報が浮き出るのです。薬学全書といったところでしょうか。なんでも『いんたーねっと』とか言うのに繋がっているとか。王城に召喚された時に調べて貰ったのですが、情報がなく……。それと、私以外には使えないんです」


 ……良く分らないけど、薬の情報が膨大に納められているらしい。

 私だって、冒険者の端くれだし、情報の大切さは身に染みている。情報さえ正確だったら、大怪我も負わずに済んだんだし。

 今度、実際に使って見せて貰おう。


 ここで、アウレリアさんが、割って入って来た。隣には、王妃様もいる。


「挨拶はその程度にして、本題に入りましょう。新しい竜種が見つかりました。長期間眠っていたらしく、かなり手強いです。

 この後、ドーラと共に現地に向かいます」


「……私もですか?」


「もちろんです」


 そこまで戦力を集中させる必要のある魔物か……。


「ちなみにですけど、南の伯爵領が一日で消し飛びました。今も動いている可能性があるので、急ぐ必要があります」


 え……。そんなのと戦うの?


「もしかして、災禍級ですか? ちょっと自信がないかな」


「……最上級の破滅級までは行かないまでも、その下の天災級かもしれません。放置すると、国が傾く程の損害が出るでしょう」


 風竜はノアが狩ってくれたので、被害は出なかったけど、今回はもう被害が出てしまっている。

 だけど、自信がないな……。


「他のS級冒険者には、依頼を出さないのですか?」


 王妃様が、前に出て来た。


「正直、リディアさんよりも劣ります。実績があり、人望もあるのですが……。膂力という点では、足手まといとなるでしょう。

 ここは、3人で竜種の討伐をお願いしたいのです。

 それが一番被害が少ないでしょうから。

 ちなみにマーサさんには、これから錬金術師として王城でアトリエを開いて貰います」


 色々と突っ込みたい。王妃様は、どうして私の実力を知っているのかな?

 そう思ったら、王妃様の目が輝いた……。


「私は、〈精霊の目と耳〉をノアから頂きました。言葉の真偽判定や、実力等も測れます」


 驚いてしまった。私と同じだけど、練度が違う。特に、言葉の真偽判定って凄くない?

 私は、魔力の流れを見たり聞いたりしか出来ていない。

 そうか、極めると、相手の実力も分かるんだ……。〈精霊の目と耳〉は、魔力感知にしか使っていなかった。応用を考えよう。

 目の前に、お手本がいる。

 教えて貰うのもいいかもしれない。

 ちょっと、不敬かな? まあ、良くお茶に誘われるし、大丈夫よね?


「それと、他国には動きはありませんか?」


 王妃様が、ため息を吐く。


「戦争の心配は、ありません。王国と帝国、連邦で今後10年は争わないと各国の首脳に署名させたので」


 署名させたってなに?

 この王妃様は、どんな権限を持っているんだろう?


「それならば、他国にも応援を要請してみては?」


「天災級の魔物が、どう動くかで各国の対応が分かれます。

 ただし、正直他国の冒険者との連携は取れないと考えてください。まあ、兵士同士なら連携もできるのでしょうけど……」


 言いたいことは分かる。

 私だってソロなら、天災級の魔物が来ると分かれば、逃げるだろうし。

 冒険者に、魔物の氾濫スタンピードの時の様な強制参加を命令しても、今回は無理だろうな。

 領地一つを消し飛ばしたとか、言っているし。


「分かりました、私も同行します。でも……、アウレリアさんとドーラさんがいれば、この国の最高戦力でしょうし。

 私は必要ないかもしれませんが、お手伝いくらいはします」


「……リディアさんは、自分の実力が分かっていないみたいですね」


 ん? なんだろう?


「それと、マーサさんには、必要な物資を作って貰いました。今、飛空艇に積み込んでいるのでもうしばらく、休憩していてください」


「飛空艇の整備は、必要ないんですか?」


 今は整備中のはずだ。もしかして、未整備のまま出発なのかな?


「商人に貸し出していた飛空艇を緊急徴収しました。整備中で助かりましたよ」


 うわ~い。怖い笑顔の、アウレリアさんだ。

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