第45話 侯爵との再会4

 次の日に、宝物庫を案内される。待っていたらしい。

 別に、なにも要らないんだけどな……。


 扉を潜ると、様々な武器防具、アクセサリーが飾られていた。それも膨大な数だ。

 侯爵家ともなると、こんなに財産を築けるのかな?

 いや……、戦場での戦利品なのかもしれない。


『なんでも持って行っていいと言っていた。普通の人が見たら、歓喜を浮かべそうだな。怪我をした時の私だったら、どんな表情を浮かべていたか……』


 精霊の目で、全体を見る。

 魔力の宿っている物が、見える……。ここで、一つ気になった物があった。

 その場に移動する。


「この胸当て……。ノアの魔力の流れに似ている」


 手に取ってみる……。

 解る。背負っている剣と同じだ『自動修復』が付与されている。


「これは……、ダンジョン産かな。これをノアが真似て剣を作ったと考えれば、つじつまが合う。

 でも、なんでここにあるのかな? これほどの性能の武器防具が複数あるとも考えられないんだけど」


 執事が、目録を開いて、説明してくれる。


「それは、戦場で手に入れた物ですな。敵将を凍らせた後に戦利品として回収した物でございます。傷が付いても、魔力を与えれば元に戻る性能となります。その性能の物は、年に数個は産出されています。武器であれば、遊んで暮らせる程の値が付く一品でございます」


 目録を見せてくれた。20年以上前に回収されたのか……。

 全身鎧もしくは、重鎧ならば価値があったのかもしれない。


「あいつは……、優れた鍛冶師でもあるのよね」


 どうしようか……。私にはサイズが合わない。


「鍛冶師と錬金術師に頼れば、元となる形を変えることも可能でしょうな」


 この執事さん……、有能なだ。私の思考を読んでくれている。


「では、これを貰って行くわ」


「かしこまりました。お伝えしておきます。それでは、調整いたします」


 その場で、鍛冶師が宝物庫に入って来た。待っていたの?


「彼等は?」


「武器防具の職人達です。ここは、辺境なので、人材を集めております。ほぼ全ての分野でスペシャリストが集まっております。薬師も錬金術師もおりますので、材料さえあれば、独立も可能です。アイスメイル王国ですな」


「アイスメイル侯爵様は、独立を画策しているの?」


「……いえ。戦場のみを求める方なので、野心はありません。私見となりますので、本心は分かりませんが」


 的を得ていると思う。

 独立なんてしたら、3国から攻められて、こんな辺境など火の海にされると思う。

 だからこそ、王家もアイスメイル侯爵様に任せたんだと思う。独立した軍隊まで許可して……。


「信頼は、されているんだな……」


「侯爵様と、国王陛下は幼少期よりの親友です。そういう関係もあったのでしょう。それと、謀反を囁いて来た家臣は、氷漬けにして王都に送ったので、野心のある家臣は、他家に行き仕官すらして来ません」


 そうだったんだ……。私は、修行ばかりで、アイスメイル侯爵様を見ていなかったことを実感した。


「……良いところもあるんだな」


「有能な家臣は、優遇されておりますので。下級兵士の士気も高いです。手柄を立てて成り上がろうと、練習に身が入っております」


 それは、知っているわよ。私もその一人だったのだし。

 それに、兵士だけじゃない。功績を挙げた文官にも厚遇を与えていた。

 第三都市カシアナよりも、この侯爵領は、発展しているのも事実だ。

 まあ、物資不足は否めないけど。輸送隊や、商人も優遇している。


「雑談は、ここまでとして鍛冶場に行きましょう。見学するのも知識となるでしょうから」


 鍛冶場か……。そういえば、見たことなかったな。

 でも、ダンジョン産の防具の改造ってできるのかな?



 ──カンカン


 鍛冶場に行くと、先ほどの胸当てを打ち直していた。魔術師も数人いる。


「ご説明しますと、魔力で、元の形状を一時的に封印してその間に形を変えます。

 王都で技術として確立されているか怪しいですな。彼等は本当に優秀です」


 ここで思う。


「近くに迷宮ダンジョンがあるの?」


「はい、ここから、5キロメートルと言ったところにあります」


 知らなかった……。アイスメイル領にも迷宮ダンジョンがあったんだ。

 ここで、胸当ての修正が終わった。粗熱を取り磨いて終わりだと思う。


「随分と早いですね」


「……不壊程度なら、こんなモノです。ただし……、竜種の素材となると、かなりの日数がかかります」


 家令は、私の風竜の剣を見た。見透かされているんだな。

 その後、胸当てを装備してみてサイズ確認を行った。この鍛冶師さんは、優秀だな。私のバストサイズを目測で測ったのだ。

 将来、胸が膨らんだら、また頼みに来よう。膨らんだら……。



 その後、領地の話を聞いた。

 アイスメイル侯爵様は、視察に向かわれたとのこと。前線で異変があったらしい。妹じゃないといいな。そうなると、この屋敷には、もう用事がない。

 こうして、私はアイスメイル家を後にした。

 アイスメイル侯爵様とは、和解出来たとは思っていない。

 でも、幸せそうな母親を見て、安心してしまった私もいる。


 それと、妹のウェンディとは会えなかった……。

 戦争に参加しているみたいだけど、元気かな……。心を壊していないといいのだけど。

 会っておきたかったけど、怖いという感情もある。

 思案の末、王城で情報を集めてから会う事にした。


「……いきなり攻撃してくるような娘に育っていたら、どうしよう。それと、兄二人にも会っておかないとな」


 兄達は、王都にいるので、手紙でも出してみよう。

 もう、アイスメイル家とは、遺恨はない。

 兄妹とは、連絡を取り合うくらいはしたいと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る