第44話 侯爵との再会3

「最後の一撃の説明をせよ」


 今は、練習場にテーブルと椅子を設置して、お茶を飲んでいる。


「……私の剣は、闇魔法の妖霧ダークネスを組み合わせた、幻影になります。目で見えた斬撃は、フェイクで、本当の斬撃は、影に隠れていました。霰魔法と組み合わせて私の体全ての認識をずらしました」


 私の最強魔法の、光魔法の反射リフレクションを使わなかったことは言わない。奥の手を見せる理由がないからだ。

 正直、アイスメイル侯爵様は、そこまで手強くなかった。

 私の成長の方が、上回ったと実感したのだ。まあ、アイスメイル侯爵様も本気ではなかったと思うし、お互い様か。


「ほう……。面白い魔法だ。それと、随分と質の良い魔道具を持っているのだな。迷宮ダンジョンにでも篭ったか? それとも買ったのか?」


「……侯爵様の右手を奪った相手に師事しました」


 場の空気が凍る。


「……"連邦の死神"に出会ったのか?」


「その仇名は、使われていませんでした。でも、侯爵様と対戦した話は、嬉々として話されていましたね」


 ここでアイスメイル侯爵が笑い出した。


「はは。そうか……。あいつと会ったのか。なるほどな。その背負っている剣も装備も貰い物と言う事か」


 当てられた……。侯爵とノアはどんな関係だったんだろう。


「大怪我を治して貰って、武器防具を頂き、才能の開花まで面倒を見て貰いました。

 ……侯爵様への謝罪はありませんでしたけど」


「わははは! 戦場での出来事に、恨みなどありはせんよ」


 大笑いし出した。

 こんな、アイスメイル侯爵様は、初めて見る。


「良かろう。母親を連れて行け。それと路銀を持って行け。いや、家宝でも、何でも持って行って良いぞ」


 呆気に取られる。なにを言われているのだろう……。


「母親とは、話し合います。ですが、路銀と家宝?」


「よくぞそこまで、高みに達した。褒めてやる。

 儂は、実力のある者には、称賛を送る。指揮官として学んだことだ。

 今の、リディアであれば、妹のウェンディとも対峙出来るであろう」


 良く分らなけど、認めてくれたのよね……。

 それと、聞いておきたいことがある。


「あの、結晶でできた盾を頂けますか?」


 かまをかけてみる。

 アイスメイル侯爵は、更に笑う。


「わはは、あれは勘弁してくれ。ダンジョン産でな。当時の侯爵家の全財産を使って購入した物なのだ」


「では、効果をお教えください」


「推測出来ているのではないか? 衝撃と魔力を狂わせる効果を持つ。まあ、『麻痺』させるが正しいか」


 大まかな推測は、当たっていたみたいね。


「それでは、母親に会って来ます」


「うむ。宝物庫も開けておく。見て行くだけでもいい。それと、食事を運ばせよう。必要な物があれば、メイドにでも伝えろ」


 ここが、こいつの気にくわないところだ。母親には、全くと言っていいほど興味を示さなかったのに……。

 正直むかついたので、私は睨んでその場を後にした。





 母親が住む、離宮に来た。

 緊張する。

 数年前に、私が捨てたと言ってもいい相手だ。

 ノックして、ドアを開けた。


 驚いてしまった。

 そこにいたのは、妊娠した母親だった……。


「お母さま、ご無沙汰しております」


「……リディア? どうしたの急に。A級冒険者になったと聞いていたのだけど?」


「生活が安定しましたので、お迎えに上がりました。今は、王城で部屋を貰っています。一緒にこの家を出ましょう」


 母親は、困惑の表情を浮かべた。


「見ての通り、懐妊しているの……。ここから移動する気はないわ」


 なにが起きているの?


「えっと……。アイスメイル侯爵様の子ですか?」


「もちろんよ」


 ありえない。私がこの屋敷に住んでいた時には、年に数度しか会わなかったと言うのに……。


「リディアがね、A級冒険者になったと聞いたら、あの人が嬉しそうにこの離れに来たの……。そしてこの子を授かった。

 子供の成長を喜ぶ事を知ったのね。義務から解放された顔をしていたわ。

 それと……、歳の離れた弟か妹になるけど、生れたら顔を見に来て欲しいわ」


 え~。もう、訳わかんないよ~。

 その後、話を聞く。

 どうやら、私を監視していた家臣がいたみたいだ。B級冒険者に上がった当たりから、報告を受けていたらしい。


「そっか、本当に認めて貰えたのかな……」


「今なら、籍を戻せると思うわ。あの人も最近機嫌がいいし、一緒に暮らせるわよ?」


 それも、一つの道かもしれない。

 でも、私にもこの数ヵ月で譲れない事が出来たのだ。


「ごめんなさい。どうしても探し出さなきゃならない人がいるの。アイスメイル家には戻れないわ。仲間も出来たし。

 侯爵様にも認めて貰えたし、手紙だけでなく、たまには顔を出すのからそれで許して」


 母親は、残念といった表情を浮かべた。

 でも、数年前の人形みたいな表情で暮らしていた頃に比べれば、生き生きしていると言える。


 その日は、母親と夕食を摂った。

 冒険者時代には、考えられない手の込んだ料理が次々に運ばれて来る。料理は王城とも異なるな。そっか……、貴族令嬢してた時は、こんなのを食べてたんだ。しかも、宴会用の料理だ。

 これも、アイスメイル侯爵様の配慮なんだろうな。本当に認めてくれたみたい。


『無能には、関心を示さずに、有能な人材には厚遇を与える。

 為政者としては、正しいのかもしれないけど、親としてはどうなのかな……』


 その日は、眠りに就くまで母親と深夜まで会話をした。

 なんか、肩の荷が下りた感じだな~。

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