第43話 侯爵との再会2

 侯爵が、魔導具を使い周囲の私兵の魔力を奪って行く……。

 こうやって、大規模魔法を連発するのが、アイスメイル侯爵様の戦術だ。

 私も、ノアから貰ったエンチャント武器を使っているんだし、魔導具を使われる事に不満はない。

 問題は、それに気が付かれる前に一撃を入れられるかだ。


「……次だ。行くぞ」


 大地が鳴動する。大気も震えている。

 瞬時に背丈くらいの壁が複数生えて来た。

 一瞬見えたけど、運動場の半分は、氷の壁が生えているみたいだ。

 言ってみれば、迷路の形成だ。

 私の強みである、機動力を奪われた状態となる。

 この状態で、上下から攻撃されたら受けるしかない。

 相手の強みを消し、選択肢を奪って行く……。前線を退いたとはいえ、私の相手は熟練の戦士だった。


 選択肢はない。私は飛翔した。

 そこで待っていたのは、氷の槍の包囲網だ。20本くらいかな。

 一斉に私に襲いかかって来る。


「ふん!」


 私は、全ての氷の槍を剣で切り裂いた。

 ノアの魔法に比べれば、遅すぎる。スピードが出ないのが氷魔法の欠点でもある。

 雷魔法の使い手に比べれば、どうってこともない。数だけだ。

 上空から、アイスメイル侯爵は確認済み。

 私は突撃した。


 ──ガキン


 アイスメイル侯爵様の義手と私の剣が、火花を散らす。

 アイスメイル侯爵様と近接戦闘を行った相手の情報は得ている。数秒で凍らされるのだ。

 だけど、わたしの霰魔法で、それは無効化出来る。

 そして、風魔法を纏わせた風竜剣は、義手を切り裂いた。


「……ほう」


 アイスメイル侯爵様に、動揺は見られない。余裕だな。

 それと、私に油断も慢心もない。

 でも、これで私の勝ちじゃない? そう言おうとしたのだけど、攻撃がさらに続いた。

 侯爵様は、明らかに楽しんでいる。アドレナリンドバドバだろう。脳汁垂れ流し?

 地面に着地すると、追撃に移行する。ここで、闇魔法の妖霧ダークネスを発動する。今回は、剣のみとする。見えない斬撃を繰り出してやる!

 義手があった右側を中心に攻撃しようとした時だった。

 空中に浮かぶ、〈結晶の盾〉が見えた。

 あれは、聞いていない。

 そして、私の直感が危険と判断した。

 追撃は中止して、即座に距離を取る。


「ほう……。勘も鋭いな。ますます、将兵として欲しくなった」


「ふぅ~」


 あれは、触れてはいけない。私の霰魔法でもだ。

 危険な魔道具の可能性がある。

 アイスメイル侯爵の奥の手の可能性……。魔導具?


 私は、剣を正面に構えた。

 近接戦闘は、避けた方がいいと判断する。


 私は、霰魔法の付与を変えた。今度は暗闇ブラインだ。視界を奪うために、アイスメイル侯爵に霰を飛ばした。

 だけど、結晶の盾の触れると、霰魔法は霧散して行く。


「あれは…、知識にないな。ノアにも聞いていない」


 アイスメイル侯爵様が笑う。


「この盾の謎が解けるか? それが、分水嶺となるであろうな。まあ、初戦で見破ったのは、極僅かだが」


 ギリっと奥歯を噛み締める。

 まず、魔法吸収ドレイン等の闇魔法ではないと思う。そうなると、氷魔法のはずだ。

 そして、あの結晶の盾は、ダンジョン産の魔導具だと推測出来る。

 ノアの授業を思い出す。氷魔法のデバフ効果……、『麻痺』?

 魔法ですら、コントロールを失わせる麻痺効果を発生させられる?

 そうなると、対処方法は……。

 私は、霰魔法の属性を変えて、再度、結晶の盾に霰魔法を襲わせた。

 霰魔法が、盾に触れると炎が舞い上がる。以前に吸収していた火魔法を付与した霰を放ってみたのだ。


「……どうかな?」


 煙が晴れる……。

 結晶の盾は、無傷だった。

 だけど、霰魔法は霧散しなかった。

 アイスメイル侯爵の表情は、無表情になっている。

 謎が解けて来た。もう少しの創意工夫で、突破出来そうだ。


 アイスメイル侯爵様は、動かない。いや、動けないと考えよう。

 私は、風魔法を剣に纏わせて、飛ぶ斬撃を放った。

 また、結晶の盾に防がれる。斬撃は、明後日の方向に飛んで行った。

 そして、霰魔法は霧散しなかった。


「少し、分かって来たかな……」


 多分、弱点である火魔法と同族性の氷魔法以外は、魔法のコントロールを失わせるのだと思う。

 アイスメイル侯爵の表情が、それを物語っている。

 ここで、氷の壁が動き出した。

 私を潰そうと動き出したのだ。

 動きが遅いので、躱す分には問題ない。だけど、アイスメイル侯爵様から離れさせられる。

 私には、遠距離攻撃の決め手がない。

 銃を教えて貰えれば、一発で決められた可能性もあったのだけど……。王都で購入しなかった事が、悔やまれる。

 でも、今の私の戦闘スタイルを変える気はない。

 今の私の実力で、アイスメイル侯爵様に勝って始めて意味がある。

 次の瞬間に、侯爵様が消えた。瞬間移動だ!

 精霊の目を発動させたのだけど、背後にいた……。まずい、攻撃が避けられない。


「ぐっ!!」


 私は、ノアに貰った剣を背負っていたので、身をよじって攻撃を防いだ。


「む? 背中に防具を装備していたか……」


 防具じゃなく剣なんだけど。今のは、危なかった。

 私は、再度飛翔した。


「これが、私の最高の一撃!」


 私は一直線に突撃した。


 ──キン


 私の一撃は、結晶の盾をすり抜けて、アイスメイル侯爵様の胸鎧を切り裂いた。

 妖霧ダークネスによる、幻影の斬撃は〈結晶の盾〉が防いだけど、本物の剣は、侯爵様に届いたんだ。

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