第36話 王都3

 あれから一ヵ月が過ぎた。

 私は、王城に軟禁されている……。


 まず、経緯からかな。

 飛空艇で王城に降り立って、国王陛下との謁見になった。

 私は、アウレリアさんの後ろで隠れているだけだったけど、『竜の卵』の話になり、発見者として紹介された。

 その場で、A級冒険者の認定を受ける……。

 それと、男爵位まで貰ってしまった。領地はなしで、名誉貴族といったとこかな。騎士爵位の話もあったけど、アイスメイル家に問い合わせが必要との事で断った。


「これからも、王国に貢献して欲しい」


 そう国王陛下からお言葉を賜った。なんて返事すればいいのよ。

 もう、貴族時代の礼儀なんて覚えていないのに。とりあえず、「はい」とだけ答えておいたけど……。


 アウレリアさんは、狙ってやったな……。まあ、A級冒険者にはそのうちなろうとは思っていたけど。

 ちょっと予定より早かったかな~。


 そして、王城で社交界デビューだ。

 王妃様にドレスを借りて、久々のメイク。高そうな宝石も借りて、いざ出陣!

 だったのだけど……。

 王子様に言い寄られてしまった。帝国の第一王子の王子様ですよ。

 王子様は、11歳だ……。留学中らしい。

 私は、俺様系男子って苦手なのよね……。

 アウレリアさんに助けを求めようとするけど、あっちはあっちで、物凄い人の輪が出来上がっているし……。

 最終的に、王妃様に助けて貰った。

 王太子様は、見かけなかったな。謹慎中なのかもしれない。


 社交界って怖いな……。

 それと、親戚に会った……。私の叔父に当たる人だ。

 モーゼス・アイスシールド伯爵様。


 スカートを少し持ち上げて、挨拶をする。


「息災だったか。家を出たと聞いた時には、驚いたものだ。それにしても、兄上も困ったお人だ。末子以外の面倒を見ないなど……。話があれば、儂の家で養ったものを」


 政略結婚の道具にはなりません。

 でも、この叔父様は嫌いじゃないんだよな……。

 父親と真逆で、面倒見の良すぎる人だ。何組もの婚姻を纏めて仲人になっている。

 この人がいたから、一族から侯爵家が出たと言ってもいいかもしれない。

 怪我を負った父親を引き留めるために、奔走した話も聞いたことがある。なんでも、最終的に国王陛下にまで直談判して、防衛任務に留まらせたのだとか……。


「自分の意思で、家を出ましたので……。それでお願いがございます」


「……アイスメイル侯爵家には、連絡せぬよ。何か欲しい物はあるか? それと、家名を考えねばな」


 察してくれるんだ。ありがたいな。

 それと家名か……。


「……ヘイルストーム。いえ、ヘイルレイン……。ヘイルミスト」


「む? 考えておったのか?」


 咄嗟に出てしまった。今の自分を形容する言葉が自然と出たのだ。


「あ、いえ……。追って考えます」


「いいじゃないですか。リディア・ヘイルストームで」


 アウレリアさんがいつの間にか近くにいた。

 まずい……、決まってしまう。


「ストームは……、荒々しい気が……」


「では、リディア・ヘイルミストですね」


 え~と……。私が固まっていると拍手が鳴り始めた。

 数秒後、盛大な拍手が会場から鳴り響く。

 国王様が、サラッと署名して、ヘイルミスト男爵家の誕生だ。


『わ~い。こんな簡単に決まるんだ~(棒)』


 絶叫してでも、止めたかったけど、もう無理だった……。

 まあ、家名なんてなんでもいいんだけどね……。





 『ドッペルゲンガー』と『竜の卵』の捕獲は、世界各国へ連絡された。

 そして、王城に買い手が集まる事になる。

 話し合いが持たれて、一ヵ月後にオークションが開かれるのだそうだ。

 私は、その間は動けないらしい。三人での討伐という事で、誰かが王城にいないとけないらしい。ドーラさんは、まず来ないし、アウレリアさんは、飛空艇で各地を回っている。

 私は、特訓だ。それと、たまに王妃様とお茶会がある。


 霰魔法のバリエーションを増やすため、闇魔法の習得を目指す。

 今出来るのは、魔法吸収ドレイン暗闇ブライン妖霧ダークネスだけだけど、攻撃系が欲しいな。

 闇魔法の魔導書を読んで行く。


「う~ん。腐食コロージョン即死デス苦痛ペインとか、強そうだけど、分類上は上級なのよね~」


 明日にも使いたいけど、これは無理かな。

 背伸びし過ぎだ。もっと、簡単な魔法にしよう。



闇付与エンダーク!」


 私の右手から、闇が生成される。右手で石を握りしばらく待つと、割れて地面に落ちた。

 闇付与エンダークは、時間はかかるけど、触れた物質を破壊して行く魔法なのだ。


腐食コロージョンの下位互換だけど、まあいいかな。武器破壊、もしくは防具破壊になるし、同じ個所を攻撃し続ければ、効果も蓄積されて行く。霰魔法を陣にすれば、私に近づいただけで、ダメージを受ける事になるし。

 とりあえず、4種類の確認から始めよう」


 霰魔法に、妖霧ダークネスを付与して、分身や幻影を作り出そうとした時だった。


「リディアさん。なにしてるんですか?」


 振り返ると、アウレリアさんがいた。


「お帰りなさい、アウレリアさん」

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