第35話 魔物の氾濫5

 卵の場所まで、アウレリアさん達を案内する。

 時々、ドーラさんが発砲する。その現場に冒険者が駆け寄って、素材を回収する。

 冒険者達は、歓喜を浮かべていた。


「すげーっすよ、ドーラさん! 幻覚鳥じゃないですか。売ったら、金貨数枚になりますよ!」


「お~。マジックバッグは持ってるな? 持ち帰って資金にしとけ」


「ありーす。ドーラ姐さん!」


 いいのかな……。ノアの捜索隊は資金難じゃないのかな?

 アウレリアさんを見る。


「S級冒険者にもなると、小銭を稼いただけで文句を言われる事もあるんです。

 大物が出た場合だけ、私達が貰う事になります」


 S級冒険者というのも大変なんだな。

 その後、数度の襲撃があったけど、今度は冒険者達が討伐する。

 アウレリアさんとドーラさんは、私の後に続いていて、手を出さなかった。


『任せる時は、任せるんだな……。荷物持ちにはしないんだ』


 正直、三人でもいいんじゃないかと思ったけど、二人にも考えはあるみたいだ。

 集団を率いる……。私も見ながら覚えようと思う。

 そんな事を考えていると、急に森が開けた。目的の場所に着いたのだ。


「あっ! あれです。あれから放たれる魔力が異常かなって思いました!」


 振り向くと、全員が絶句している?

 あれ? あれは、『異常』には当たらない?


「あれは、魔物の氾濫スタンピードの原因ではないですか?」


「……あれは、竜の卵ですね。初めて見ました。リディアさん、大手柄ですよ」


「凄いね。孵化前か……。封印して、王家に献上したら、どんな褒美が貰えるんだ?」


「姐さん達でも、価値の分からないお宝ゲットっすか? 凄すぎっす、リディア姐さん!!」


 ちょっと、私を『姐さん』呼ばわりしないでよ!!

 その後、アウレリアさんとドーラさんで卵を調査する。

 冒険者達は、周囲の警戒だ。

 私は、魔力を観察する。


「……孵化は、明日以降だね。アウレリア、封印しちまいな」


「……わかりました。大規模術式を展開します。全員離れてください」


 即座に離れる。

 アウレリアさんが、魔法の構築を始めた。


「え? 魔方陣の多重展開?」


 ドッペルゲンガーは、魔法陣一つで封印したのに……。そんな大がかりな魔法が必要なの?

 魔方陣が収縮して行って、光が集まって行く……。

 最後に、大きめの宝石みたいなのが出来上がった。あれも魔力石だと思う。

 アウレリアさんが、確認する。


「……封印成功ですね。今日は帰りましょう。

 それと、ドーラとリディアさんは、今日中に王都に私と共に戻って貰います」


「私は、パス。手柄はリディアに付けといて」


「……そうは言ってもですね」


「また、魔物が来る可能性もあるだろう?」


 この言い合いは、アウレリアさんが折れた。ドーラさんは街に残ることになったのだ。





 街に戻ると、賑わっていた。


「あれは、商人の馬車ですか? 随分と多く来ていますね」


「稼ぎ時ですからね。魔物の氾濫スタンピードに襲われた街の近くに待機していて、収まったら即素材を買い取りに来る。王国の商人は、逞しいですよね。それと、別な街への運搬にも冒険者が雇われるので、経済を回してくれている。

 王国は、今好景気なので、商人達は大忙しですね」


 そうなんだ? 辺境に住んでたので、知らなかったな。そっか、運ぶだけで儲かるのなら、私は冒険者じゃなくても生きていけたのかもしれない。

 剣と魔法で生きて行こうとしか考えていなかった。視野狭窄と言われても仕方がない。


「さて、ドーラ、街は任せましたよ」


「おうよ」


「では、リディアさん。王都に行きましょう」


「はい!」


 飛空艇に乗り込む。


「今回は、『ドッペルゲンガー』と『竜の卵』ですからね。宮廷錬金術師や生物学者、または、他国の研究者が大騒ぎしそうです。楽しみですね」


「もしかしてですけど、かなり貴重な物なんですか?」


 アウレリアさんの頭に?マークが浮かぶ。


「十年に一度あるかないかという獲物ですね。いえ、もっとかな?

 リディアさんのA級冒険者認定は確実ですね。もし、私達が関わっていなければ、一気にS級冒険者だったかもしれません」


「え?」


「国家予算クラスのお金が動きそうです。楽しみですね」


 冷汗しか出ないんだけど?


「……そんなの見つけちゃったんだ」


「ノアになにかされているのかもしれませんね。幸運アップとか言われませんでした?」


「ないです!」



 ……ないよね?

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