第34話 魔物の氾濫4

「その魔物の詳細は、知っているんですか?」


 とりあえず、聞いてみる。


「ドッペルゲンガーの魔物……、でしょうか。この後、私達3人に災難が訪れるかもしれません」


「災難?」


「まあ、災難に関しては、逸話になるので、気にしなくてもいいです。

 成長すれば、天災級の魔物にも数えられますか……、被害が出る前に拘束できたので、最小限の災難で抑えられるでしょうしね」


 良く分らないな。

 後で、ギルドで『ドッペルゲンガー』という名前の魔物を調べてみよう。


「……まあ、あれだ。この世界の生まれじゃなくて、突然現れる災害みたいなもんさ。

 異世界から来ているとも言われているが、詳細は誰も知らない。だが、時々出る魔物でもある」


 ドーラさんを見る。

 誰も詳細が分からないのに、妙に詳しくない?


「もしかして、倒したことがあるんですか?」


 二人が、顔を合わせた。


「……知られていないのですね。今連邦がある土地にとある国があったのですけど、『破滅級』の魔物が現れて、倒されています。それが、ドッペルゲンガーの魔物だと言われています。

 どんな攻撃も効かず、兵士の姿を次々に真似て行って、その技能スキルをコピーする……。

 軍隊を退けた、ドッペルゲンガーは、国を滅ぼしました。

 その後、独立自治を主張し出した各地の領主が集まって、連邦制が樹立されました。

 ……そして、多分ですが、歴史上始めてノアが表舞台に上がった話にもなります。破滅級の単独撃破ですからね……」


「え!? ノアが倒したんですか?」


「ドッペルゲンガーは、ノアの姿を真似られなかったらしい。そして……、逆に、ドッペルゲンガーを取り込んだという噂だ。

 真相は誰も分からない。だけど、ノアなら可能とも考えられているね」


 ノアなら……、か。


「ノアは、その後連邦の樹立に協力して、姿を消したらしい。まあ、短期間で復興を行ったのと、見た事もない技術の提供をしたと言われている。それと……、地形を変えたとも伝わっているね。交通の便を良くしたと考えな」


 もう、言葉もないな。

 地形を変えたって、なに?


「昔話はそこまでにして、この魔物の処遇を決めましょうよ?」


「……厳重に結界を施して、宝物庫で眠って貰う以外になにかあるのかい?」


「ノアを釣り出すのに使えないかと考えています」


「はあ~。アウレリアらしくないね。危険すぎるよ。最悪、この一帯が消し飛ぶよ? なんと言ったっけ? 旧ラトリニア帝国の惨劇を繰り返すつもりかい?」


 アウレリアさんが、地図を広げた。


「各国の国境に不干渉地帯があります。そこで解き放てば……」


 先に考えていたんだな。

 なるほどと、思ってしまう。


「……反対だね。ノアは来るかもしれないけど、それまでにどれだけの被害が出るかも分からない。

 まだ生まれたての状態だと思う程度なのに、3人でギリギリだったじゃないか。コピーされた技能スキルを使われ出したら、手に負えなくなるのは明白だよ。

 アウレリア……、焦り過ぎじゃないかい?」


「……そうですね。私も、長年探しているので、焦っているのかもしれません。私達3人の技能スキルをコピーしているのですから、人族では誰も相手にできないでしょうし……。いえ、でも『あの人』ならば……、……。

 利用するのは止めましょうか……」


「ちっ……。私は、10年だからね! それと、『あの人』に頼るんなら、私は王国から逃げるからね! "王国の最悪の日"には、付き合わないよ!!」


 話に着いていけないな……。


「それと、魔物の氾濫スタンピードだ。原因調査しないとね。今回は小規模だったとは言え、本当に面倒だ」


「それについては、人選を済ませてあります。明日から調査しますよ」


 ここで、二人が私を見た。


「え? なんですか?」


「期待してます」「期待してるよ」


 ……冷汗が出た。明日は、なにをさせられるのだろう?





 今私は、森の上空を飛んでいる。精霊の目を使い、魔力を探っているのだ。

 半日程度は、自分の魔力だけで飛べるけど、保険で魔力石も貰っている。戦闘に発展しても魔力切れはしないと思う。


「……負傷した魔物が、休んでいるくらいかな……。原因調査って言われても、なにを見つければいいんだろう?」


 あの二人からの依頼は、『上空から俯瞰して、異常なところを報告して欲しい』だったのだけど……。異常ってなに?

 愚痴をこぼしながら、森の奥へ進んで行く。


「あれ?」


 私の魔力感知に、何かが引っかかった。


「この感じ……、変異種かな? でも、変な形だ?」


 私はその場所に向かった。



「卵だ……。随分と大きいな」


 生まれるまで、まだ時間はあると思う。卵の中の魔力が、まだ渦巻いている。肉体の形成が未成熟な証拠だ。

 それと、怖い魔力を放っている。周囲に魔物はいなかった。


「……これも、異常と捉えてもいいわよね。二人に報告しよう。その前に……」


 私は、卵に霰を纏わらせた。


「うん。これで移されても私には感知できる。追跡魔法もどき……、霰魔法は使い勝手がいいな。

 私は、剣士アタッカー向きじゃなかったのかもしれない……。バフとデバフ効果を覚えたら、パーティーを組むのもいいかもしれないな」


 アウレリアさんとドーラさんとなら、パーティーを組んでみたいとも思う。学べる事も多そうだし。

 大きな卵を見つけただけだけど、思案しながら、街へ戻る事にした。



 森の途中で、冒険者の一団を見かける。ドーラさんが、私に向けて一発撃って来た!

 精霊の目の効果で、弾道は見える。

 霰魔法の氷を集中させて、瞬時に盾を形成する。


 ──キン


 弾丸の軌道を逸らして、防衛してみせる。2発目が来たら……、高度を取ろうかな。

 そんな事を考えていたんだけど、アウレリアさん達の方から近づいて来てくれた。

 私は、地上に降りた。



「……大きな卵ですか?」


「はい、追跡魔法を付けたので、その場所まで案内できます」


 ザワザワし出した。なんだろう?


「……それ、竜の卵じゃね?」


「え!?」

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