第33話 魔物の氾濫3

 私は、その前に辿り着いた。

 人型のなにか……、フード付きのコートを着ているようにも見えるけど、布じゃないな。

 魔力が形作ったなにか……。

 それが、収束して行く。


「ふぅ~。こんな感じかな……」


 絶句してしまう。私と同じ顔になったからだ。

 いや、肌の色や髪の色は、再現できていない。外見だけ私に似せた?

 それと、装備まで再現されている。裸じゃなくて良かったけど。それと、私はもう少し胸あるんですけど?


 目の前の私に似たなにかは、体中の関節を動かしながら、確認している様だ。

 ここで、ドーラさんの狙撃が再度襲った。


「……酷いな~。せっかく作ったのに」


 絶句してしまう。

 体を半分吹き飛ばされても、生きているのだ。

 それに……、内臓と血が見える。さっきまでのあやふやな存在じゃない。生物になっている。

 私は、纏わせている氷を、目の前の存在に襲わせた。


「あれ? 凍ってしまって体が動かなくなってるんだけど?」


 私の声まで真似し始めている。

 正直気持ち悪い。

 そのまま、氷の彫刻に変えた。

 ここで、ドーラさんの3発目が命中する。氷の破片が飛び散って原型を留めないほど粉々になった。


 私は、地上に降り立った。


「……なんだったの?」


 ここで、アウレリアさんが来た。


「リディアさん。なにと戦っていたのですか?」


「私もわからないんです。始めは、魔力の塊みたいだったのですけど、近づいたら私の姿を真似だして……。私が凍らせて、ドーラさんが破壊してくれました」


 凍った破片を取ってみる。

 間違いなく、生物の一部分だ。

 ここで、私の精霊の目が反応した。慌てて破片を手放す。

 そうすると、破片が集まり出した。

 また、人型になる……。


「今度は、ドーラさんの姿に……」


 顔が決まり、体が8割出来上がった時点で、アウレリアさんが動いた。袈裟切りで真っ二つにする。

 だけど、今度は液体の体みたいだ。

 スライムに近いと思う。

 切っても、体を繋げてしまう。アウレリアさんの連撃が襲うけど、ダメージは見て取れない。


 アウレリアさんが、無意味と判断して距離を取った。

 ドーラさんの狙撃も来ない。

 グニョグニョと蠢いている。

 そして、今度は、アウレリアさんの顔ができ上がった。


「……なんなのこれ? 変異種?」


「リディアさん。結界を!」


 ハッとする。まず私は氷魔法で、目の前のアウレリアさんの顔をしたスライムもどきを凍らせた。

 そして、風魔法で竜巻を発生させて周囲から孤立させた。

 ここで、アウレリアさんが動く。

 光の魔法陣を発動させて、空間を光で満たして行く。

 一瞬、まぶしい光を放ったと思ったら、その光量が消えて行く……。


「リディアさん。魔法を止めてください」


 風と氷魔法を止めると、そこに宝石が一個転がっていた。白い魔力石だと思う。


「倒せたんですか?」


「……いえ、この魔力石の中に閉じ込めました。まだ、生きていますね」


 ここで、精霊の耳が働いた。そちらを向く。

 ドーラさんが、他の魔物を狙撃したみたいだ。


「行きましょう。まず、魔物の氾濫スタンピードを終わらせてから、これの話をしましょう」


 私は頷いて、飛翔した。





 今私達は、ドーラさんが狙撃を行った建物で食事をしている。街で一番高い建物だ。

 私は、速く食事が終わったので、窓辺で街を眺めていた。


 あの後は、簡単だった。魔物が撤退を始めて、冒険者達が背を撃つ。兵士達も協力していて、鮮やかな集団戦が見て取れた。

 指揮官が優秀だと、魔物の氾濫スタンピードもこんなに簡単に終わるんだな。ゲラシウスに見せて説教したかった。

 それと、ドーラさんの狙撃も百発百中だったし、援護射撃も頼もし過ぎだ。

 私は、遊撃して一撃離脱を繰り返した。それだけで、魔物は統率を失い四散し始めたのだ。

 怪我人多数だけど、死者なし。戦利品多数。

 これ以上の結果はないと思う。


 今は、冒険者ギルドと商人が魔物の素材の査定で、大忙しだ。

 冒険者と兵士は、宴会状態だし。

 領主は、労いながら各宴会場を回っている。


「……いい街だな」


 ポツリと零れた。


「それはいいのですけど、そろそろ話し合いを始めませんか?」


 アウレリアさんを見る。

 アウレリアさんは、食事の量が多かった……。私の3倍は食べたと思う。S級冒険者の盾役だと、あんなに食べるんだな。

 カロリーの消費が違うんだろう。指揮官でもあったし、頭も使ったんだろうな。

 それでいて、美しいプロポーションを維持しているのだから、羨ましい。

 私も食べれば、あのくらいの胸になれるのかな……。


 その隣では、ドーラさんが肉をツマミにして、お酒を煽っていた。

 酒豪みたいだ……。

 私は、感覚が鈍るので嗜む程度にしている。

 まあ、今日くらいは飲んでもいいのかもしれないけどね。


 それよりも気になる事がある。

 私は、窓辺から移動して、席に着いた。


「その、魔力石の中の……魔物? どうしますか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る