第32話 魔物の氾濫2

「皆の者~! 腹は満たされたか~!」


「おお~~!」


 アウレリアさんが、冒険者と城の兵士達を鼓舞する。

 アウレリアさんに応じると、なにかしらのバフ効果が付与されるのが見て取れる。


「あの人数に、バフをかけるのは、凄いですね」


「ああ。人族の中でもアウレリアくらいじゃないか? 他にできるとしたら、英雄や勇者、魔王とかか? 他種族は知らんがね」


 絶句してしまう。

 アウレリアさんは、思った以上に優秀な人だったようだ。


「巨兵や、レベルの高い魔物は、ドーラが事前に倒してくれているぞ!

 小規模な魔物の氾濫スタンピードなんだ。残りは雑魚しかいないぞ~!」


「おお~~~!」


「素材は取り放題だぞ! 素材を集めて一財産築けるぞ~!」


「おお~~~~!!」


 アウレリアさんに鼓舞されている人達が、狂気に飲まれている気がする。


「あれ……、大丈夫ですか?」


「ああ。明日はバフ効果が切れて、デバフ効果が発動するようにしてある。強くなったと勘違いする馬鹿も多くてね。デバフの内容は……、筋肉痛だから、まあ、心配しなくていい。

 それよりも、私は一番高い建物に移動して、狙撃で援護する。

 リディアは、何処に行く?」


「私も、ドーラさんと同じ場所に。それと、街の防衛を頼まれたので、飛翔しながら迎撃を行います」


 昨日貰った、魔力石を握り締める。


「リディアは飛べるんだね。羨ましいよ……」


 いやいや、S級冒険者に羨ましがられても……。それに、魔導具を使って飛んでいるんだし。

 ドーラさんくらいならば、買えるんじゃないのかな?

 その後、アウレリアさんに合図を送って、二人で移動した。





「ふぅ~」


 大きく息を吐き出す。

 今私は、霰魔法を発動させて、上空から眺めている。

 下には、この街で一番高い建物にいるドーラさん。

 アウレリアさんは、城門の前で待機中だ。

 魔力石を握り締めて、霰魔法の範囲を広げて行く。

 私の、領域フィールドが広がって行く……。

 魔力量が平均的な私でも、魔力石を使えば、大規模魔法も発動出来るんだ……。こんな方法もあったんだな。

 ズルなのかもしれないけど、今は自分の役目を果たそうと思う。

 私の生み出した氷が、街を包み込んだ。街よりも広がり、魔物の位置まで包み込む。

 氷の密度は薄いけど、この領域内であれば、私は全てを感知できる。〈スキル:索敵〉に近い使い方だ。

 手を上げて、アウレリアさんに合図を送る。


 アウレリアさんが、撃って出た。



「一方的だな~」


 アウレリアさんに率いられた一団が、魔物を屠って行く。

 この街の冒険者のレベルは、高いのかもしれない。


「危なそうなのはいないかい?」


 ドーラさんからの質問だ。


「今は見当たりませんね。それと、地面を掘っている魔物がいました。城壁の真下まで来ています。狩って来ますね」


「待ちな。何処だい?」


 私は、北西の城壁を指差した。


 ──ドン


 ドーラさんが、銃を撃った。そして、地中に潜っていた魔物に命中する……。


「見えていたんですか?」


「見えてはいないよ。ただ、僅かだけど土煙が上がっていたね。

 教えておくと、私の目は、風の流れとわずかな未来が見えるだけさ。

 まあ、狙撃には最適なんだけど、見たくないものも見えちまう事がある」


「その目をノアに?」


「そういうこと。高すぎる性能に苦労させられているよ。それよりも、レベルの高い魔物はいないかい? アウレリアがいると言っても、魔物相手の白兵戦では死者が出かねない」


 アウレリアさんを見る。冒険者達が密集陣形を取って、次々に魔物を狩っている。

 突出する者はいない。

 同じ指揮官でも、ゲラシウスとは雲泥の差だ。


「!?」


 ここで私の氷がなにかを感知した。

 私は、北東を指差した。


「大きなムカデに乗っている、人型のなにか……。あれは、なんだろう?」


「ちっ!」


 ──ドン


 ドーラさんの2発目が放たれた。だけど、ムカデが吹き飛んだだけで、人型のなにかは、平然と立っていた。

 当たったと思うんだけど……。

 見ていると、笑ったのが分かった。


「リディア。他はいい、あれの足止めをしてくれ!」


「分かりました!」


 私は、北東に向けて、移動を開始した。霰魔法も収束させる。

 私の勘も警鐘を鳴らしている。いや、精霊の目が、まがまがしい魔力を見せてくれて、精霊の耳が、その膂力を教えてくれた。


「あれは、危ないな……」

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