第31話 魔物の氾濫1

 辺境都市の第四都市パライカに降り立つと、飛空艇に街の人達が群がって来た。なんだろう?


「支援物資をお持ちました。まず、炊き出しから始めてください!」


 アウレリアさんがそう言うと、大歓声が上がった。

 アウレリアさんは、役人みたいな人に囲まれて、次々に握手している。あれは……、手を握りたいだけじゃないのかな?

 セクハラにならないんだろうか?

 アウレリアさんを見ると、一人ひとり丁寧に挨拶している。


「S級冒険者という立場……、しかもとびきりの美人ともなると大変なんだな」


「ちっ! 私には手も握って来ないってのによ! スケベ野郎共が……」


 声を拾った。その場所に行く。

 その人物は、1メートルくらいの鉄の筒……、銃を持っていた。


『あんな大きな、銃は見たことないんだけど……。どうやって使うんだろう?』


 その人物も、私の視線に気が付いたようだ。


「あんた、だれ? 私になんの用?」


「え~と、お妃様の『探し人』に最近まで指導を受けていました。リディ……」


 全部言い終わる前に、額に銃口を当てられた!?

 慌てて躱すと、背後から、爆発音が聞こえたんだけど?

 すぐさま、霰魔法を起動。剣を抜き、構える。


『2射目が来る前に、制圧しないと!』


 数秒の対峙……。


『隙がないじゃない……。わずかでも動いたら、撃たれてしまうのが分かる』


 現状、圧倒的に不利だ。暗闇ブラインで視界を遮って躱すか、妖霧ダークネスで幻影を見せるか……。

 そんな事を考えていた時だった。


「ちょっと!? ドーラさん! なにしてるんですか!?」


 アウレリアさんが、駆けつけてくれた。

 先ほどの爆発音を聞いて、駆けつけてくれたんだろう。

 それと……。私達の周囲には誰もいなくなっていた。





「ごほん。では、改めて紹介しますね。私の姉弟子に当たる、ドーラさんです」


「リディアです。よろしくお願いします」


「……」


 無言って……。

 第一印象が決まった。感じ悪い……。


「えーと、ドーラさんもS級冒険者になります。視力を失っていた時に、ノアに『鷹の目』を与えて貰い、銃を手にしてからというもの、厄災級の魔物を狩り続けています」


「ドーラ・セーガンさん……」


「……なんだ、知ってるんだ」


 そりゃ、S級冒険者は有名ですもの。当然聞いたことくらいありますよ。

 一代で、伯爵位まで受けている、冒険者の憧れ。その、目指すべき姿……だったんだけど。

 イメージが崩れたな。


「それで、今はノアと名乗ってんだね。捕まえられた?」


「……逃げられました」


 ドーラさんが、ため息を吐く。


「はぁ~。私の視界に入れば、撃ち抜いてやるのにな……」


 怖すぎない、この人?

 そして、ドーラさんが、私の顔を覗き込んで来た。


「……あんたも目を貰ったみたいだね。リディアだったね。話を聞かせて貰うよ」


 そう言って、ドーラさんが建物の中に入って行った。

 私と、アウレリアさんが後に続く。

 後ろを振り返ると、街の人達が料理の準備を始めていた。





「……なるほどね。怪我を治して貰って、装備を受け取ったと。それと、B級冒険者に上がりたてか。

 正直、お妃様の『想い人』を探すには、荷が重いんじゃないかい?」


 アウレリアさんが反論する。


「私が、邪魔をしてしまいましたから、S級冒険者になるまでは、面倒を見ます」


「そこがスタートラインだけど、その先がありそうなの?」


「……素質は十分かと。ノアが認めた相手ですし」


 緊張してしまう。各国に名を轟かせているS級冒険者が私の話をしている……。


「まあ、任せるよ。それよりも、魔物の氾濫スタンピードを終わらせよう。知能のありそうなのと、巨大な魔物。それと、空を飛ぶ魔物は、全部撃ち落しておいた。アウレリアは、撃って出てくれ。援護する。まあ、もう雑魚しかいないはずだ。それに、規模もそれほどじゃないし、今日明日あたりで終わると思う」


「不在の間、そこまでしてくれたのですね。ありがとうございます」


「何度も言うが、礼は不要だよ。……ノアを探しているのは、私も同じだからね」


 ドーラさんも、ノアに会いたいんだな。


「それと、また妹弟子を増やしているし。いい加減に捕まえないと、あいつの毒牙にかかる奴が際限なく増えてくしね」


 ……毒牙って。まあ、ノアには魔性とも言える魅力があったけど。


「それでは、具体的な迎撃について、詰めて行きましょう」



 この、魔物の氾濫スタンピードが終わったら、ドーラさんの話も聞きたいな。

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