第30話 風竜の剣

 王城に来てから、霞魔法の特訓を行って数日。

 連絡が来た。


「もう剣ができ上ったんですか?」


「最優先で作って貰ったので。武器職人も"国宝級の一品"と自慢げでした」


 え? 国宝級?

 そんなのを私が受け取るの?


「風竜の角を加工した剣になります。もう凄い以外の言葉が出ませんよ?」


 それは、そうなると思ったのだけど。こんな短期間で整形したと言うの?

 その後、簡易的な式典が行われた。

 剣の授与と、王妃様の親衛隊への入隊を兼ねた式典だ。


 忠誠を誓う言葉を述べる。王妃様が、剣で私の肩に触れた。

 これで私も、『騎士』と名乗ることができる。


 そして、風竜の剣の説明を受けた。竜の角を削り出し、剣の柄に、氷魔法の効果を増幅させる宝石を埋め込んだらしい。ただし、異なる属性が干渉しない様に、工夫も凝らしてあるとか。


「それでは、登録を行います。盗難防止と考えてください」


 言われるがまま指先を切り、剣の柄の宝石に血を垂らすと、少し光った。


「これで、風竜の剣は、リディア嬢のみしか使えなくなりました」


 宮廷錬金術師が、賛辞を送って来た。

 歓声と拍手が起きる。

 専用装備ということだろう。この技術もノアが残したものなんだな。まあ、ノアは血を垂らしたりはしなかったけど。

 そして、私に一つの欲求が生れた。


「ノアから貰ったこの剣も、私の専用装備にして貰えませんか?」


 驚く、宮廷錬金術師。


「リディア嬢は、二刀流で行かれるのかな? 腰の短剣も見えますが……」


「いえ、剣は二本装備しますが、同時には使いません。風竜の剣の方が、私に合ってはいますが、使い分けて行きたいと思います」


 宮廷錬金術師は、私の言葉には納得してくれなかったけど、ノアから貰った『折れにくい剣』にも、私以外が使えない機能を付与してくれた。二本の剣を抱きしめる。

 これから、私の冒険者生活が終わるまで、私の命を預けるに相応しい相棒ができた瞬間だった。





 その後、別室に移動する。

 晩餐会とか社交界が開かれると思ったのだけど、なんだろう?


「飛空艇の準備ができました。これからリディアにはアウレリアに付いて行き、討伐に協力して貰います」


 なんか、王妃様は真剣だな。

 まあ、私も親衛隊に入ったのだし、従うんだけど……。


「行くのはかまわないのですが、状況を説明して貰えますか?」


魔物の氾濫スタンピードが発生しています。今は持ちこたえています。王国から見れば小さな領地なのですが、城を破壊されると、防衛力のない内地まで侵入されて被害が拡大してしまうでしょう」


 魔物の氾濫スタンピード? もしかして、剣が急いで作られた理由って、この依頼があったから?

 それと、この言葉で分かる。王妃様は、国の防衛に関わっているんだな。いや、指揮を執っているのかもしれない。

 そうなると、国王様は内政だけかもしれないな。


「初任務ですね。行かせて貰います」


 私がそう言うと、王妃様は笑顔を見せた。


「正直、魔物の活性時期に入ってしまい、各地で防衛戦を展開しています。

 アウレリアに頑張って貰っているのですが、それでも間に合っていません。どうか力を貸してください」


「もちろんです。微力ですが、お力添えをします」


 こうして、私の初の任務が決まった。



「飛空艇の整備は終わったんですね」


「今は、物資の積み込みを行っています。籠城戦を行っているので、救援物資ですね。

 それと、姉弟子がいます。怒らせない様に注意してください」


 ん? 姉弟子?


「どんな人ですか?」


「……会えば分かります」


 言葉を濁らされた。まあ、会ってみよう。

 ここで、整備員が話しかけて来た。


「アウレリア嬢。準備が整いました。出発できます!」


「毎回ありがとうございます。幻想級の金属が手に入れば、整備の時間も短縮できるのですが、毎回手間をおかけします」


「いえ、これが俺達の仕事なので」


 信頼関係は、築けているんだな。


「さて、行きましょうか」


 私は風竜の剣を握り締めて、頷いた。

 そして飛空艇に乗り込む。


 向かうのは、第四都市パライカだ。

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