第28話 ノアの過去

 以下、アウレリア・グリーンフィールドの話


 昔、ある青年……人物が、冒険者登録をした。

 青年には、才能がなかったが、常に努力をし続けたそうだ。

 手の皮が破けても、剣と槍を振り続け、体力が尽きるまで走り続けた。

 毎日、魔物の討伐を行い、また、野山を駆け回り採集も熟したとか。

 たまにパーティーを組む事もあったらしいが、ほぼソロでの活動記録しかない。

 それは、魔物の氾濫スタンピードであっても、ソロで貢献していたと記録されている。


 だけど、C級冒険者以上にはなれなかった。

 どう足掻いても、上級の魔物を倒せなかったと、記録されていた。

 そして、次第に怪我が増えて行き、年齢も30歳を超えたあたりで、活動が止まった。

 それからは、家に籠り、薬学や錬金術に励み出したらしい。


 青年……、いや壮年の男がなにを考えていたかは、当時誰も分からなかった。

 人里から少し離れた場所に住んでおり、他人とは極力関わらなかった人物と記載されている。

 そして、数年ぶりにその人物を見た人が驚いたらしい。

 若返っていたからだ。

 この話は、瞬く間に国中に伝わる。

 そして、王家の使者が噂を確かめに、その人物の元へ訪れた。

 その王家の使者は、帰って来なかったらしい。また、その人物もその日から消えた……。


 10年の月日が経った。

 その国は、魔物の脅威に怯える事態となっていた。同時多発的な、魔物の氾濫スタンピードだ。

 変異種の同時多発が起こり、国を揺るがし始めたのだ。

 街は、門を閉ざして、人の流れが止まった。

 討伐隊も組まれたそうだが、多大な被害を出してやっと一匹の変異種を討伐できたとのこと……。

 ここで、事態が急変する。

 変異種が次々に討伐され始め、国中で起きていた魔物の氾濫スタンピードが収まって行ったのだ。

 先遣隊が組まれて、状況を確認して行くと、変異種の死骸の一部が見つかるばかりであった。


 そして、一つの噂が流れた。


「変異種と変異種が戦っているのを見た……」


 その報告は、一つではなかった。

 だが、共通点もあった。


「3~4メートルの身長に、角と翼を持った黒い体表の変異種……」


 それだけは、共通だったと記録されているらしい。


 ある日、王族の娘が、兵隊を連れて物資の輸送を行おうとしたところ、魔物に囲まれたそうだ。

 兵士達は、次々に倒れて行き、物資も荒され始めた時だった。

 そこに、黒い体の人型のなにかが現れたのだ。

 腕を振るうと、魔物が吹き飛んで行く……。

 『異形のなにか』が王族の娘を助けた事になる。

 ここで、あり得ない事を、王族の娘がしでかした。『異形のなにか』に抱き着いて、引き留めたのだ。

 兵士達は焦ったが、実力差は明白だ。動けなかった。

 そして、王族の娘は、『それ』を屋敷に連れ帰った……。





「……その続きは?」


「この話は、当時の各地の人々から集めた内容となります。王城では、緘口令が敷かれて、その後の話は伝わっておりません。

 ですが……、ある日から、王城に一人の男性が出歩くことになります。

 歳の頃は、30歳前後であり、眼鏡をかけた学者風の人物だったそうです。名前は……、アレンと名乗ったそうです。

 王家に雇用された、宮廷治癒士に着いたそうです。怪我人を治療して、未知の技術を授け、ダンジョン産よりも高性能な魔道具を作り出す。

 肩書は、宮廷治癒士ですが……、なんでもできたそうです」


「それが……、ノア?」


「推測ですが、そうなります」


「始めの、C級冒険者と繋がらないと思うのだけど?」


「王城に知り合いがいたんですよ。同郷の者だったみたいです。アレンというのも、本名かもしれません。顔と名前の一致から、壮年の男が浮かび上がりました。それは、アレンが王城を出た後に調べられた事になります」


 ……話は、繋がると思う。

 ノアは、体を変えてまで強さを求めたんだろうな。でも、人間離れした姿となって、絶望したんだと思う。

 それでも、隠れて人助けを行っていたのは、推測できる。


「それが、50年以上前の話なんですよね?」


「……王家の特定は止めてくださいね。まあ、分ってしまうとは思うのですが。

 その時の、『王族の娘』は存命です。そして、私がS級冒険者に任命された時に、出会いました。

 どうやって、人型に戻ったのかは、教えてくれませんでした。

 私を指導してくれた人物とは、姿形が違う……。

 ですが、困っている人を見捨てない。そして、不思議な治療術を使い、ありえない魔道具を扱う……。同一人物の可能性は、高いと思いました」


 ……私も、ノアだと思うな。


「そして、ラケド王国やトイシュ帝国にも、不思議な人物が現れて、混乱を収めてくれた話に繋がって行きます」


 あれか、王様を助けた泉の精霊の話だ。


「それと……、定住を好まなかったみたいです。各国で聖女の位を作り消えたらしいです。聖女の話では、『世界の運命をいい方向に導く事が、僕の役目』とか言ったらしいです。キザすぎますよね」


 世界の運命? 大きすぎない?


「なに言っているか分からないんだけど」


「それと、姿を消す前に、聖女と決闘を行い、教会を半壊させたとか……。王国と帝国共にです」


 そこが分からないんだよな。武闘派聖女?

 でも、聖女に関しては、私がノアから直接聞いている。


「聖女の話は、ノアから直接聞きました。これで、話が繋がると思います。アレンと名乗った人物は、ノアだと思います」


 少しだけど、確証が取れた。


「聖女は、国を守る最後の砦とも言えるので……、治癒能力のみではなく、色々な才能を求められます。その最たるものが、鈍器術であり……、聖女育成機関は……、国の軍隊の中でも優秀な人材で構成されていると言うか……」


 ん? 鈍器術ってなに? 軍隊の中? 聖女育成機関は聞いたことないんだけど? 僧侶学校の間違いじゃない?

 それと、『国を守る最後の砦』が、なんで先の竜種との戦闘に参加しなかったのかな?

 王妃様との確執でもあるのかな? それとも王家?

 聖女って、余り表舞台に立たないから、実際のところ知らないのよね。


「リディアさんは、聖女には近づかないでくださいね。教会にもです。かなり危ないので……」


 ノアは、どんな育成機関を作ったんだろう?

 気になるけど、藪蛇になりそうだな。


「……分かりました。教会には近寄りません」


 分かったのは、ノアを探している人は多い事だけだ。多分、初代聖女様も探しているんだろう。

 ……もう一度ノアに会いたいな。会ってお礼を言いたい。


 そうか……。その難しさが、分った気がする。

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