第26話 追手3

 次の日に、メグのお店で再度集合となった。

 ……特訓したいけど、ノアの事が最優先だ。

 今は、資金も十分にあるし、手応えもある。

 それとギルドと関係を悪化させて、私にメリットなんかない。

 ため息を吐いて、メグのお店に足を運んだ。



「……ノアが持ち込んだ風竜の素材を私に譲渡ですか?」


「うむ……、そういう手紙が残されていた。他の街に運ばれていて、近々競売にかけられる予定じゃったのじゃが。それと、大量の魔力石の譲渡依頼もある」


 私への手紙には、武器防具を作って欲しいとあったけど……。絶句してしまう。そんなの受け取ったら、一生遊んで暮らせるんじゃないのかな。

 魔力石は……、私の欠点でもあるんだ。理由は分かるかな。

 手紙を受け取って読んでみる。

 確かに私への譲渡依頼だ……。

 ここで、アウレリアさんが口を開いた。


「まず、素材の状態からね。竜の血は、抜き取られて、保管されていました。

 竜の血は、錬金術師が大金をはたいて買い求めます。知り合いがいないのであれば、王都の競売にかけるのが良いでしょう。

 次に、翼ですが、切り取られていました。こちらは、魔導具の材料になります。防具屋に持ち込めば、飛翔系の防具になるでしょう。リディアさんの着ているマントと同等の物ができ上がると思います。

 後は、鱗と肉ですかね。半分は潰れていました。解体は、この街では出来そうにないので、王都に運ぶ事を勧めます。鱗はスケイルアーマーの材料になりますし、肉はミンチにすれば、社交界で振舞われる、最上級肉にもなります。こちらも、料理人次第ですけどね。

 骨は砕けていましたが、薬師が喜んで買って行くと思います。

 それと、内臓は抜き取られていました。これは、錬金術師が欲しがり、竜の素材として一番の価値があるのですが。ノアは、内臓のみを欲したと推測します。

 最後に、爪と角、牙ですね……。ノアの手紙では、リディアさんの武器に加工して欲しいと書かれていました。

 今であれば、受け取りを拒否する選択肢もありますが、受け取る事を勧めます」


 再度、絶句する。全部売り払えば、貴族位も買えると思う。


「それでなのですが、勧誘しに来ました」


え? なに、勧誘?


「ノアを捜索するのにも、資金がかかります。三国のお妃様達でも資金難に直面しています」


 S級冒険者を雇っているんだ。それもそうか。


「それで素材を、献上して欲しいのです。無理を言っているのは分かってますが、我々もあの放蕩野郎に、少しだけでも関わった者達で構成されています。是非協力して欲しいのです」


「それは、私に捜索隊に入れと言うこと?」


「そこまでは強要しません。でもそうですね……。風竜で作られた装備をお贈ります。それも、王国一の武器防具職人に加工させて。それで、残りは献上して頂けないでしょうか?」


 一生遊んで暮らせるお金を献上か。それと最高級の武具となりえそうな魔導具……。選択肢はなかな。


「……ノアの話を聞かせてください。昔なにしていたのか教えてください。

 それと、魔道具の作成をお願いします。他の部位は献上します。

 あと……、私もその捜索隊に入隊させてください!」


 アウレリアさんは、いい笑顔だ。

 そして、剣を抜いて私に見せて来た。

 解る……。ノアの武器には、破格の性能がある。それを、アウレリアさんが持っている事実……。


「アウレリアさんも、ノアに助けられたのですか?」


「……そうですね。助けられました。

 私は、魔法剣の使い手なのですが、私の魔力に耐えられる剣が見つからなくて、燻っていました。そんな時に、ノアと出会って、オリハルコン製の武器防具を譲って貰ったんです」


「え? オリハルコン?」


 おとぎ話に出て来る、金属じゃない。不滅の金属の代表格……。

 たまにダンジョン産で聞くけど、指輪一個で国家予算クラスのお金が動くとか。


「……私用に調整したので、もう私以外に使えないと言われて渡されてしまいました。

 使い続けていたら、あっという間にS級冒険者になって……、ノアにお礼と文句を言いたくなって個人で探していたのです。

 でも、S級冒険者は、なにかと忙しく……、思うように動けなくなりました。

 そして、冒険者ライセンスを返納しようとした時に、同じ想いを持っている人達に出会いました」


「それが、昨日から出ている、各国のお姫様……」


 アウレリアさんが頷いて、肯定した。


「だいぶ前から探しているみたいです。それと今は、皆嫁がれていて妃になられていますよ。お姫様呼ばわりは……、避けてくださいね。不敬罪に当たります」


 ため息が出た。

 もう二度と、ノアには会えないのかもしれない。

 皆、悔しいんだろうな。一方的に助けておいて、お礼も言わさずに消えるなんて……。


「まず、リディアさんは、A級冒険者の資格を取って貰いましょうか。風竜の素材の加工は、私が引き受けます。出来上がり次第お持ちます。それと……素材は、本当に献上でいいですか?」


 私は、左手で右肩をギュッと握った。


「献上します! 私は、お金よりもノアに教わった技術の習得を目指したいと思います。それが今の私の目標です!

 それと……、ノアを一発ぶん殴ってやりたいです!」


 一方的に助けて、お礼も言わさずに逃げるなんて……。しかも、それを繰り返している。

 ノアは、『人の心が分からない』と言った。

 私の想いを、思い知らせてやるんだ。





 メグとミラにお別れを言って、第三都市カシアナを離れる。オースティンさんは……、顔に『絶望』と書かれていたけど、誰かに任せよう。


 今は、飛空艇で移動中だ。S級冒険者になると、飛空艇を自由に使えるんだな。

 アウレリアさんに、捜索隊を率いているお妃様に会って欲しいと言われたので、移動中だ。

 それと、風竜の素材の運搬でもある。

 この間に、アウレリアさんの話を聞けた。


 アウレリアさんは、ノアに一ヵ月程師事していたらしい。

 アウレリアさんは、珍しい光魔法の使い手だけど、武器が見つからなく困っていた時があった。

 最終的に、補助・回復役としてパーティーに入っていたけど、魔法剣が使いたかったとのこと。

 剣の素振りは、毎日欠かさずに行っていた時に、ノアに声をかけられたらしい。


『このまま行くと、君のパーティーは全滅するね』


「そう言われて、ノアに抗議しました。侮辱が過ぎると。その後手合わせをしたのですが、武器防具を全て破壊されて降参しました。参りましたよ。木の枝に光魔法を纏わせた魔法剣での惨敗でしたからね」


「……酷いですね」


「その後、パーティーを脱退して、ノアに教えを請いました。実際のところ、光魔法の使い方が間違っていたことを痛感させられましたよ。ノアは、露店で買った短剣に光魔法を纏わせて、なんでも切り裂きましたからね。

 私は、魔力操作の重要性を説かれて、武器を破壊しない技術を習得したのです。

 そして、この武器防具を譲り受けました。ノアが私の前からいなくなり、調べたらオリハルコン製と分かり……」


「盗まれませんでしたか?」


「何度か、盗まれそうになったのですけど、私以外に使えないみたいです。最終的に私の元に帰って来ました」


 アウレリアさんの剣は、専用装備でもあるんだ。

 私は、ノアに貰った剣を握り締める。これは、私専用の装備じゃないんだ。気を付けよう。


「昔のパーティーは、一度壊滅的な被害を出しましたが、今も活動しています。今思うと、背伸びし過ぎていたのかもしれませんね。私が治療魔法を施してたので、遺恨も残っていません」


 昔の自分を思い出す。


「アウレリアさんが、後衛にいたから、背伸びもできたんじゃないですか?」


「……返す言葉もありませんね。今思うと、私のバフ効果が結果的にパーティーに無理をさせていました。それをノアが見抜いていた。意地を張っていたら、本当に全滅もありえたでしょう」


 この人、優秀なんだな。


「それと、私と同じ事をされた人が数人見つかりました。いえ……、名乗り出ていない姉弟子や、妹弟子がどれだけいるのかも把握しきれていません。冒険者だけでなく、錬金術師や僧侶、技術士などもいますし」


「……聖女」


「あ~。聖女と会う事があるなら、ノアの話はしない方が身のためですよ? 治療のみならず、格闘もできますので……。

 彼女達の獲物は、鈍器なので剣では不利かもしれません。暴れ出したら逃げることを勧めます」


 ……良く分らないな。聖女のイメージが崩れたんだけど。ノアの育てた聖女ってどんな人達なんだろう?

 ここで、飛空艇の高度が下り始めた。


「さあ、王都にもうすぐ着きます。準備しましょうか」

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