第24話 追手1

 何時もの様に街の外で、ノアを待っていたのだけど、来なかったので不思議に思っていた時だった。

 ミラが来た。

 冒険者ギルドの受付嬢だ。そして、もう一人……。

 輝く重鎧を纏った女性が、ミラの隣を歩いている。


『……なんだろう? それと誰だろう?』


 冒険者ギルドは、朝が一番忙しいはずだ。

 この時間に、ミラがギルドから離れる意味……。


『重要案件……』


 私が思案していると、ミラが話しかけて来た。


「おはようございます。リディアさん」


「おはよう、ミラ。こんな時間にどうしたの?」


 ミラが、隣の女性を見る。


「初めまして、リディアさん。アウレリア・グリーンフィールドと言います」


「……え?」


 一瞬、息が止まった。

 冒険者なら、誰もが知っている名前……。


「S級冒険者!?」


 アウレリアさんは、いい笑顔だ。





 街に戻り、メグのお店を使わせて貰う。

 メグの父親は、アウレリアさんを見ると、「今日は閉店とする」とだけ言って、奥に行ってしまった。

 アウレリアさんは、一礼で返す。


『メグのお父さんって何者なんだろう?』


 S級冒険者にも顔が効くんだ? 後で聞いてみよう。でも、答えてくれるのかな?

 それよりも……だ。


 ミラと私、アウレリアさん、そしてメグでテーブルを囲む。

 なんで、メグが同席しているのかは、突っ込まない。父親に報告するためなのかもしれないし。お店を閉店にさせてしまったのもあるし、文句はないかな。


「まず、リディアさん。この数十日間一緒にいた男性について聞かせて貰ってもいいですか? 私は、その男性に会いに来ました」


 そうか……、アウレリアさんは、ノアに用事があるんだ。でも今日は、ノアと会っていない。話すより、会わせたかったんだけど……。

 ここで、なにか違和感を感じた。


「ノアの事で合っていますか?」


「……ノア。この街では、そう名乗っていたのですね」


 やっぱり、偽名だった。いや、まだアウレリアさんの目的の人物がノアだと決まった訳じゃない。

 その後、ノアの話を始めた。

 魔物を引き連れていた話。私の怪我を治してくれた話。魔道具の話。

 私の教育を買って出てくれた話を伝えてみた。


 アウレリアさんは、微動だにもせずに聞いてくれた。

 素敵な大人の女性だと思う。

 グリーンフィールド公爵家の令嬢でもあるんだ。礼儀作法も完璧なんだな。

 私は……、覚えてはいるけど、今社交界なんかに出たら、大恥をかきそうだ。


「ふぅ~……」


 全てを聞き終えた、アウレリアさんがため息を吐いた。

 その仕草も美しいと思う。正直、同性でも見惚れてしまう。


「間違いありませんね。私達が探している人でした……。風竜討伐の話を聞いたので、来てみたのですが、逃げられてしまいましたね。リディアさんには、悪いことをしてしまいました。まさか教え子が、いたなんて……。時間を奪ってしまった形となり、謝罪させてください」


 アウレリアさんが、頭を下げて来た。

 頭が付いて行かない。逃げられたって……、なに?

 ノアは、もうこの街にいないってこと?

 それとノアは、追われているの? いや……、『探している』と言った。


「ノアは、なにか罪を犯したのですか?」


「……いえ。昔、王族を助けたのです。宮廷治癒士として働いていたのですけどね。その時のお姫様や帝国の貴族、連邦の王妃様が集まって、捜索隊が組まれました。もう、何年も前の話です」


 絶句してしまう……。

 ノアの話とは矛盾しないんだけど……、捜索隊? お姫様に王妃様?


「仮に捕まえたとして、なにをするんですか?」


「う~ん。難しい質問ですね。当初は、『お礼をしたい』だったのですけど、最近は狂気じみて来ましたし……。

 ここは、『愛でたい』とでも答えておきましょうか」


 うわ~。ノアが過去になにをしたのか、予想できた……。

 私も、今ノアに会ったら、ギュッとしたい。

 今のところ、肩に担がれたのと、手を握って貰っただけだし。

 そう思わせる、魔性がノアにはあった。


「何年くらい探しているんですか?」


「……50年とか聞いています」


 ……もう、会えそうにないな。

 そうか、私が教えを乞いた相手は、そんな人だったんだ。幸せな時間だったけど、唐突に終わりを告げられた気分だな。それに、まだまだ教えて欲しいと言うか、成長を見て貰いたかった……。

 あの笑顔が、遠く感じる。


 私が俯くと、ミラがなにかを差し出して来た。

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