第19話 街の異変1
次の日に、ミラから街の異変を聞いた。
「……ギルドの解体施設が襲われたの?」
「そうなんです。根こそぎ持って行かれちゃって……。これじゃ、街の経済が破綻しちゃいます。
物資不足にもなって、物の値段が……」
絶句してしまう。ギルドに喧嘩売るバカがいるなんて。
「変異種も盗まれたの?」
「……はい」
「はぁ~……」
頭を抱えてしまう。あれは、大きな町での競売所行きが決まっていたのだ。
つまり、私には一銭も入って来ない事が決まった事になる。
「でも、リディアさんには、ギルドから多少の賠償金は出ると思います。保管義務及び過失はこちらにあるので……」
「それはいいんだけど、どうやって運んだのかしら。数十体分よね?」
「魔法かスキルか、マジックバッグの可能性もあります」
……ありえない。そんな有用な魔法や技能を持っているのなら、こんな田舎町のギルドを襲う意味がない。
マジックバッグ等の高級品にしてもそうだ。そんな容量の魔導具は、貴族が持つ物だ。
「もしかすると、変異種が狙いだったのかも……。あれは、素材として最高級品ですし」
「……準備が良すぎるでしょう? そんな襲撃準備なんか、何日もかけないと事前にバレちゃうわよ。それに、変異種の加工品が市場に出れば、足が付くし……。変異種狙いはないかな。
それと昨日は、偶然狩れて、たまたま街を上げてのお祭り騒ぎになったのだから、盗賊が前々から狙っていたんじゃない?」
「そうとも取れますけど……」
「冒険者ギルド以外の盗難はなかったの?」
「なかったらしいです」
それは、ちょっと変かな? 多少高額な、薬品や魔道具を扱うお店もあるのに……。解体現場だけ、セキュリティ対策が甘かったとは、とても思えない。
そんな事を話していると、ノアが来た。
◇
「ふ~ん。ギルドで窃盗ね……。リディアは、盗賊が犯人と考えていると?」
「……今の心配事は、昨日の飲み代なんだけど。請求額がいくらになるか……。一気に赤字になっちゃったじゃない」
ノアが、ポケットからなにかを取り出す。
「あ! 魔力石! それがあった!」
「まあ、お金は僕の方でなんとかするよ。それよりも、リディアは、今日は宿屋で休んでね」
「……訓練はなし?」
「今日は、なしで。僕は少し野暮用を済ませて来るよ。それと今日は、装備を外さないでね。あと……、これから待ち合わせ場所は街の外にしようか」
ノアの野暮用? 何時も暇そうにしていたけど、今日はなにかあるのかな?
「まあ、いいけど……。魔導書でも読んでいるわ」
「それよりも、魔法の二重起動を覚えよう。いや、安定かな。右手で風魔法を起動させながら、左手で氷魔法ね」
痛いところをつくな~。できることは、できるんだけど、安定しないんだな、これが。何年も練習したけど、属性の相性が悪くて維持が難しいのよ。
二重起動が、できるようになれば応用の幅が広がるんだけど……、難しいのよね。
妹は、誰に教わるわけでもなく発現させていたけど。
「まあ、そのバレッタを着けていれば、いずれ覚えられていたかな。それと、魔力が乱れているね。寝不足みたいだから、無理しないでね」
見透かされている……。
「……分かったわよ」
◇
宿屋で、魔法の二重起動を試みる。
「右手で、風魔法で動の性質を……、左手で、氷魔法の静の性質を……」
魔力が、グラグラ揺れる。
──パン
魔力が霧散してしまった……。
「もう一度……」
分かっている。ここから先に進むためには、なにかしらの工夫が必要だ。それが、分からない。
その日は、日暮れまで練習を続けた。
「お腹空いたな……。それと、結局できなかったな~」
今は、メグのお店に向かっている。もう、日も暮れて月明りだ。魔法による、光も見える。
結局は、上手く行かなかったけど、朝よりは手応えがあった気もする。
ここで、背後からの視線に気が付いた。
『なんだろう……』
明らかに私の後を付けている。ゲラシウスみたいなのだったら、街中でも魔法を撃って来る。他人の迷惑などお構いなしだ。
それと、冒険者じゃなかった場合……。
このまま、メグのお店に行って、迷惑かけるわけにもいかない。
私は、裏路地に入った。
前後を塞がれる……。
「なんの用? 私、お腹空いてるんだけど?」
「……変異種から取れた、魔力石を渡して貰おうか」
あれか……。
もしかして、冒険者ギルドの解体現場を襲ったのはこいつら?
「私の事は調べてるのよね? 今パーティーを組んでいる男が持っているわ」
ひそひそと話し始めた。
まあ、逃がす気はないんだけどね。
私は、剣を抜いた。
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