第19話 街の異変1

 次の日に、ミラから街の異変を聞いた。


「……ギルドの解体施設が襲われたの?」


「そうなんです。根こそぎ持って行かれちゃって……。これじゃ、街の経済が破綻しちゃいます。

 物資不足にもなって、物の値段が……」


 絶句してしまう。ギルドに喧嘩売るバカがいるなんて。


「変異種も盗まれたの?」


「……はい」


「はぁ~……」


 頭を抱えてしまう。あれは、大きな町での競売所行きが決まっていたのだ。

 つまり、私には一銭も入って来ない事が決まった事になる。


「でも、リディアさんには、ギルドから多少の賠償金は出ると思います。保管義務及び過失はこちらにあるので……」


「それはいいんだけど、どうやって運んだのかしら。数十体分よね?」


「魔法かスキルか、マジックバッグの可能性もあります」


 ……ありえない。そんな有用な魔法や技能を持っているのなら、こんな田舎町のギルドを襲う意味がない。

 マジックバッグ等の高級品にしてもそうだ。そんな容量の魔導具は、貴族が持つ物だ。


「もしかすると、変異種が狙いだったのかも……。あれは、素材として最高級品ですし」


「……準備が良すぎるでしょう? そんな襲撃準備なんか、何日もかけないと事前にバレちゃうわよ。それに、変異種の加工品が市場に出れば、足が付くし……。変異種狙いはないかな。

 それと昨日は、偶然狩れて、たまたま街を上げてのお祭り騒ぎになったのだから、盗賊が前々から狙っていたんじゃない?」


「そうとも取れますけど……」


「冒険者ギルド以外の盗難はなかったの?」


「なかったらしいです」


 それは、ちょっと変かな? 多少高額な、薬品や魔道具を扱うお店もあるのに……。解体現場だけ、セキュリティ対策が甘かったとは、とても思えない。

 そんな事を話していると、ノアが来た。





「ふ~ん。ギルドで窃盗ね……。リディアは、盗賊が犯人と考えていると?」


「……今の心配事は、昨日の飲み代なんだけど。請求額がいくらになるか……。一気に赤字になっちゃったじゃない」


 ノアが、ポケットからなにかを取り出す。


「あ! 魔力石! それがあった!」


「まあ、お金は僕の方でなんとかするよ。それよりも、リディアは、今日は宿屋で休んでね」


「……訓練はなし?」


「今日は、なしで。僕は少し野暮用を済ませて来るよ。それと今日は、装備を外さないでね。あと……、これから待ち合わせ場所は街の外にしようか」


 ノアの野暮用? 何時も暇そうにしていたけど、今日はなにかあるのかな?


「まあ、いいけど……。魔導書でも読んでいるわ」


「それよりも、魔法の二重起動を覚えよう。いや、安定かな。右手で風魔法を起動させながら、左手で氷魔法ね」


 痛いところをつくな~。できることは、できるんだけど、安定しないんだな、これが。何年も練習したけど、属性の相性が悪くて維持が難しいのよ。

 二重起動が、できるようになれば応用の幅が広がるんだけど……、難しいのよね。

 妹は、誰に教わるわけでもなく発現させていたけど。


「まあ、そのバレッタを着けていれば、いずれ覚えられていたかな。それと、魔力が乱れているね。寝不足みたいだから、無理しないでね」


 見透かされている……。


「……分かったわよ」





 宿屋で、魔法の二重起動を試みる。


「右手で、風魔法で動の性質を……、左手で、氷魔法の静の性質を……」


 魔力が、グラグラ揺れる。


 ──パン


 魔力が霧散してしまった……。


「もう一度……」


 分かっている。ここから先に進むためには、なにかしらの工夫が必要だ。それが、分からない。

 その日は、日暮れまで練習を続けた。



「お腹空いたな……。それと、結局できなかったな~」


 今は、メグのお店に向かっている。もう、日も暮れて月明りだ。魔法による、光も見える。

 結局は、上手く行かなかったけど、朝よりは手応えがあった気もする。

 ここで、背後からの視線に気が付いた。


『なんだろう……』


 明らかに私の後を付けている。ゲラシウスみたいなのだったら、街中でも魔法を撃って来る。他人の迷惑などお構いなしだ。

 それと、冒険者じゃなかった場合……。

 このまま、メグのお店に行って、迷惑かけるわけにもいかない。

 私は、裏路地に入った。



 前後を塞がれる……。


「なんの用? 私、お腹空いてるんだけど?」


「……変異種から取れた、魔力石を渡して貰おうか」


 あれか……。

 もしかして、冒険者ギルドの解体現場を襲ったのはこいつら?


「私の事は調べてるのよね? 今パーティーを組んでいる男が持っているわ」


 ひそひそと話し始めた。

 まあ、逃がす気はないんだけどね。

 私は、剣を抜いた。

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