第18話 変異した魔物

「これは、凄いね……」


「なんなの、この魔物……」


 先ほど倒した赤色熊クリムゾンベアが、子熊に見えるほどの巨体が目の前に現れた。

 長高は8メートルはあるんじゃないかな?

 しかも、紅い体液で全身が濡れている。


「これが、変異種?」


「うん。でもこれは、長期間放置され過ぎだね。それと、この森に異変が起きているのかもしれないね」


 ノア……。思索にふけないで!

 目の前の危機に目を向けてよ!!

 変異種が、ノアに攻撃して来た。

 前脚で、払って来たのだ。

 それを何事もなく受け止める、ノア。


「地面が割れてるんだけど?」


「うん。なかなかの大物だね。リディア、剣で切れそう?」


 いきなり振るな……。

 とりあえず、急降下してノアが抑えている前脚に斬撃を入れる。


「……ぐ。刃が通らない」


「それが本来の、赤色熊クリムゾンベアの毛皮の効果だね。

 今のリディアの風魔法では、倒せないよ」


 再度空中に飛び上がり、距離を取る。

 風魔法が効かない……。私の天敵かもしれない。

 変異種は、ノアに攻撃し出した。

 それを涼しい顔で受け流すノアもどうかしている。

 でも、観察していて分かってしまった。


「薄い魔力障壁が見える……。魔力のみの放出だけで、あそこまで強度を出せるんだ? いや……、属性が分からない? 無属性?」


 分かっている。あれを私に覚えさせるために見せている事を。

 私が観察していると、変化があった。

 変異種の攻撃が、止んだのだ。


「変異種の、前脚が潰れている」


 爪も砕けてる。

 そうしたら、今度は私の方に来た。


「……いきなりの魔力障壁は、形成できそうにないけど!」


 私は、氷魔法を展開する。

 私の目の前に、変異種の顎が迫っていた。





「はあはあ……。これ、なんだったの?」


「時間が経った変異種だけど……、5年くらいかな~。第三都市カシアナの冒険者の質の低下を物語っているね。後数年で、竜種に生まれ変わっていたかもしれないね」


 さらっと、とんでもないことを、ノアが言った。


「この魔物が、竜種になるの?」


「……リディアは、聞かされていなんだね。一言で『竜』といっても様々でね。生い立ちは、一頭ごとに違うんだ。先日狩った風竜は、栗鼠の変異種が進化した個体だったんだよ」


 目の前の変異種を見る。

 私の作った、"氷柱つらら"に頭から貫かれて、死亡している。


 私は、氷魔法で盾を作った。

 変異種は、その氷の盾に齧りついて来たので、更に魔力を送り形を変形させた。

 変異種の顎が外れるほど大きくしたら、顔が動かせなくなったので、そのまま氷柱つららを生やしたのだ。


「氷魔法の使い方は、分っているみたいだね」


 ノアを見る。


「……一応、家系だったんだし。手本は多かったし」


 次の瞬間に、変異種が消えた。ノアの手には、"魔力石"のみが握られている。

 魔力石とは、魔物の中に希に生まれる、魔力の塊だ。売れば、それなりのお金になる。

 ノアは、魔力石をポケットにしまった。


「今日は帰ろうか。成果は十分だよ」


「目標の50体は?」


「今のリディアなら、簡単に達成できることが分かったら、中止にしよう」


 ……正面切って、称賛しないで欲しいな。


「……まあ、いいけど」





 第三都市カシアナの冒険者ギルドに、今日の成果を報告する。

 まず、解体現場に移動して、ノアが魔物を出した。

 15体の魔物と、変異種1体だ。

 解体現場が、騒がしくなった。


「少し待っていろ」


 それだけ言われて、待っていると、ミラが来た。


「リディアさん。怪我は?」


「ないけど?」


「これ、A級冒険者パーティーでないと、倒せない変異種ですよ?」


「……そうなんだ?」


 この数日で、私の中の常識が壊れたのかもしれない。ノアの魔導具と使い方の特訓を受けただけだけど、見える世界が違っていた。それと、体がとても軽かった。疲れも感じない。

 その後、ギルド長が呼ばれて、『B級冒険者』のライセンスを発行して貰った。

 冒険者ギルドは、大騒ぎだ。

 ……それと、しきたりもある。


「……分かったわよ。今日の魔物の素材は、ギルドに献上する。そのお金で今日の飲食代はタダね」


 歓声が沸き上がった。

 私も、資金に余裕なんかないんだけどな……。

 盛り上がっていると、メグが料理を運んで来た。ちょっとまって、メグのお店代も私が持つの?

 この分だと、街中に知れ渡っているのかもしれない。



 夜中になり、やっと解放された。

 ノアは、途中から見ていない。あいつ、逃げたな……。

 宿屋に戻って、バレッタを外すと、頭痛と疲労感が私を襲った。


「そっか、この髪留めのおかげで、疲労を感じなくて済んでたんだな」


 そのまま、ベッドにダイブ。

 心地良い疲労感に襲われて、私は眠りに就いた。

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