第16話 飛翔訓練2

「次は20発ね」


 そう言って、ノアから魔法が放たれる。

 直進するだけの魔法もあれば、追尾型も混ざっている。そして、最も面倒なのが任意の弾道を取る魔法だ。

 躱したと思ったら、戻って来る魔法なんて聞いたことがないんだけど?

 躱し続けていると、さらに変化を付けられる。

 弾速に緩急を付けられた時は、また撃ち落されてしまった。

 その後の、「あはは。まだまだだね」と言ったノアの笑顔は、一生忘れない……。

 私は、「つぎ!」と言って、訓練を続けた。



 十日くらい経過した。

 私の飛翔魔法も大分様になって来た。

 速度も出て、高度も実用的な高さまで取ることができた。

 正直、ノアから借りたマントが凄すぎるのだけどね。

 風魔法だけで、この動きを実現しようとしたら、膨大な魔力が必要だと思う。

 多分だけど、風系の魔物の素材が使われているんだろうな。

 そうか、魔導具を使うと効果だけでなく、魔力の消費も抑えられるんだ。

 貴族だった時は、基礎訓練だけで終わってしまったので、魔導具は扱わなかった。  

 冒険者になってからは、常に資金不足で考えもしなかったし……。

 考えながら、ノアの魔法を回避と迎撃を行っていると、ノアから声がかかった。


「リディア、終わりにしよう」


 周囲を見渡すと、もう日暮れだった。

 私は、地上に降り立つ。


「ふう。半日飛び続けていると、重力を強く感じるわ。ちょっと、クラクラする。頭に血が上ってこないのかな?」


 私の独り言を聞いたノアが笑い出す。


「あはは。リディアは、今の自分の実力が分かっていないね」


 え? どういうこと?


「実力って? 私は成長してるってこと?」


「う~ん。まだ、日暮れには少し時間あるし、魔物を狩って帰ろうか」


 この数日、飛翔訓練だけだったけど、私に変化がある?

 考えていると、ノアが猪を一匹連れて来てくれた。


「リディア。倒してみて」


 剣で? 魔法で?

 聞き返そうとした時には、猪が迫っていた。

 私は剣を抜いて、猪の突進を受け止める。

 そして……、猪がスパッと切れた?


「え?」


 猪の魔物は、頭から尻尾まで真っ二つだ。

 私は、風魔法を纏っていたので、返り血も浴びていない。

 理解が追い付かない。

 自分が持っている、剣の魔力を眼で追った。


「……凄いスムーズに流れている」


 私の魔力は、その魔力操作に変化が起きていた。ロスのない、いや、少ない魔力の流れ……。これが私の魔力?


「う~ん。まだ中級って程度だけど、この数日でそこまで上達したのなら、合格点だね。

 今なら、大木も切れるんじゃない?」


 この数日、夢中で飛んでただけだけど、私が中級? B級冒険者クラスってこと?

 目の前の大木を見る。

 そして、魔力を剣に集めた……。


「はっ!!」


 私の剣は、何の手応えもなく大木をすり抜けた。そして、気が付いた……、剣速が以前よりも上がってる。


 ──ズズ……ズシン


 ……本当に大木が切れた。

 自分自身で行った事だけど、信じられない。


「う~ん。まだA級冒険者には届かないかな。今だと大災害レベルの魔物に出会ったら逃げるしかないか……。

 明日からは、飛翔・回避・防御・迎撃だけでなく、『攻撃』や『反撃』も混ぜて行こう」


 魔物は、街への脅威度で『災害<大災害<厄災<災禍<天災<破滅』に分類される。災害より下は、区別されていない。

 大災害は、街一丸となって対応する必要がある魔物のことだ。

 ……どうやら、私はこの数日でかなり成長していたみたいだ。





 メグのお店に移って、食事を済ませた。

 ノアが食後のお茶を楽しんでいる。聞いてみるか。


「ねえ……。今の私は、B級認定される魔物を狩れるの?」


「調べてみたけどB級の認定は、『軽い変異を起こした魔物の討伐』だよね? 災害レベルの魔物であれば、連戦も可能だね。災害より下の、警戒レベルなら、大量に狩れるんじゃない?」


 表情が緩んでしまう。

 才能の限界を感じて伸び悩んでいた時は、撤退しか選択肢がなかった魔物だ。

 怪我を負い絶望していた時期は、考えてもいなかったな。

 警戒レベルの討伐……。行けるんだ。あの魔狐の群れ……、リベンジしたいな。


「ぷっ、あはは……」


 ここで、ノアが真剣な眼差しを送って来た。


「油断大敵だよ? リディアは確かに成長しているけど、上はキリがないからね。それと数の暴力は脅威だよ? いくら飛翔できるからって油断していると、あっという間に魔物の餌だからね」


「わ……、分かってるわよ」


「……A級冒険者が相手する、大災害や厄災レベル。S級冒険者が依頼される、天災や破滅レベルと出会ったら、逃げることもできないで死亡するレベルなのを自覚してね。

 まだ、成長途中なんだ。慢心はしないように」


 絶句してしまう。


「……ノアは、私がS級冒険者になれると思っているの?」


「リディアは、才能があるからね。天災レベルならソロ討伐できるくらいにはなれると思う。その先は……、リディア次第だね」


 ここまでしてくれるノアの言葉を疑う事はないけど……、私が天災レベルを討伐?

 S級冒険者になれるってこと?


 それにしても、『才能がある』か……。初めて言われたかもしれない。

 ノアには、私がどう視えているのかな。

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