第15話 飛翔訓練1

「リディア。次行くよ!」


 今私は飛んでいる。マントの魔導具を使用した飛翔魔法の訓練中だ。

 そして、ノアが地上から魔法を撃って来た。

 それを躱す。


「……ぐっ!」


 なんとか空中で移動しながら躱して行く。でも、自動追尾の魔法は、正直キツイ。

 躱しきれないので、魔法で迎撃を行う。

 そうすると、背後から魔法が飛んで来た。背中に直撃を受ける。

 ……そして、墜落した。


「う~ん。五発が限界か……。イメージが追い付いていないね」


「はあはあ……」


 墜落した私は、這いつくばっている。その私にノアが、辛辣な言葉をかけてきた。

 ここで今日一日の疑問を、ぶつけてみる。


「……ねえ、なんで剣と魔法の練習じゃないの? いきなり魔導具の練習なのは納得がいかないんだけど?」


「まず、魔力の扱いが雑すぎるからね。魔力をスムーズに流せるようになれば、剣と魔法も変化があるよ」


 正論過ぎて反論できない。

 私は、貴族時代にとにかく威力を重視した練習しかしなかった。

 だけど、潜在的な魔力量は平均くらいしかない事を知る……。

 とにかく魔力量を求めたのだけど、結局は全てが中途半端で終わってしまっていた。

 正直、魔力のコントロールは苦手なまま、今まで来てしまっていたのだ。


「それと、その服だけど、似合っているよ」


 ……赤面してしまう。

 昨日は、夜中だと油断していた。ノアは、見ていたのよね……。


 「スカートで飛ぶと、下着が見えちゃうよ?」と言われて、パンツルックの衣装を渡された……。ノアの趣味なのかもしれないけど、体のラインが出てしまう服を着ている。これも何かしらのエンチャントが付いていそうだ。

 でも、私に拒否権はない。ノアが着ろと言うのであれば、水着で街を歩く覚悟くらいは持つ気でいる。

 ……ビキニアーマーの冒険者もいるし、強くなれるのであれば、羞恥心など捨ててやる!

 私が考えていると、ノアが私の肩に触った。そして、魔力が注がれる。


「その服は、『清潔クリーンの魔法』が付与されてるんだ。破けても、魔力で戻るしね。リディアは、濃い色の服を好んで着ていたみたいだけど、僕的には淡い色や白が似合うと思うな」


 ノアには冒険者としての常識がないみたいだ。

 魔物を捌く時に、返り血をどうしても浴びる。その都度洗濯していたら、服などあっという間にボロボロだ。

 だから、返り血が染みついても目立たない色の服が選ばれる。

 濃い色を着ない冒険者は、B級以上の証でもあるんだ。


「ふぅ~」


 結構休憩できた。魔力を絞り出す。


「もう一回お願いします」


「うん。もう日暮れだし、次が最後ね」


 そう言われて、私は再度飛翔した。





「うう、全身筋肉痛だ……」


 空中でバランスを取るために、普段使わない筋肉を使った結果、私は全身に激痛を抱えることになった。

 でも、気持ちいい疲労感でもある。

 苦手であり、目を背けていた魔力操作が、半日で向上した感覚を得られたのだから。

 このまま、ノアの特訓を受けられるなら、短期間で急成長できるかもしれない。

 それほど手応えがある、一日だった。


「リディアさん。大丈夫ですか?」


 メグが、心配そうに私を見ている。

 先ほど顔の怪我が治った私を見た時には、涙を流して喜んでくれた。

 本当は、抱き合って喜びたかったけど、今は触られるだけで痛い。

 感動的な場面だったけど、私の絶叫で台無しにしてしまった。

 ごめんね、メグ。そして、いつもありがとう。


「うん、ありがとう。今日は……、お肉をお願い」


「かしこまりました。そちらの男性は?」


 ノアが、不思議そうな表情を浮かべている。


「疲労した時には、甘い物じゃないの?」


「……精神疲労には、そうだけど、今日は慣れない動きをして筋肉痛なの。だから、お肉を食べるの」


「へぇ……。そうなんだ。まあ、僕には分からないので任せるよ。……僕は、ピザをお願い。そうだね、お肉の乗ってるのを頼もうかな」


「かしこまりました」


 メグが、注文票に書き込んで厨房へ向かった。

 メグのお店も、この時間になると人が多いな。

 私は、この時間は避けていた。

 でも、今日はノアもいるし、絡まれることもないと思う。

 そう思ったら、元『餓狼の爪』メンバーが、ノアに話しかけて来た。


 ノアは、彼等にも治療を施していたみたいだ。

 動けるメンバーで、新規にパーティーを組んで活動を始めたとのこと。

 今日は、数匹の魔物を狩れたらしい。飲食代で赤字になるみたいだけど、彼等はとても嬉しそうだ。

 感謝の言葉を、ノアに送っている。


 メグが料理を運んで来てくれた。

 ここで、新規パーティーは自分達のテーブルに戻った。

 二人で食事を始める。

 ……聞いてみるか。


「あのパーティーには、魔導具をあげないの?」


「うん? 元々持っていた武器を整備しただけかな。彼等は、慎重に行動するだろうから、そこまでで十分だね。遠隔系の武器を揃えているし、矢は自分で買って貰おうと思う」


「……私は?」


「すぐに死にそうだったから、こうやって見てるんだよ? それに、間違った努力をしているのが分かったしね」


 その後は、無言で食べた。

 ノアは、時々デリカシーのない事を言うのが、玉に瑕かな……。

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