第14話 新しい日常2

 朝食を食べながら、ノアの話を聞くことにした。


「まず、防具の説明からだね。

 前にも説明したけど、それらはリディアの潜在能力を引き出すだけなんだ。使い続けていると、リディアの技能も上がって行って、そのうち効果もなくなる。

 まあ、不要になった頃には、達人と言われているだろうけどね」


「……モグモグ。今の私は無駄が多いってこと?」


「イメージと体裁きにズレがあるね。それの修正って考えて」


 ……反論はできないな。

 私は、幼少期から剣術を習っていたけど、中級位程度の認定しか受けていない。

 家を出てからは、我流で磨いて来た。

 それでも、師範役の動きを真似ようと必死に剣を振るっていた。

 才能はなかったかもしれないけど、イメージはあったんだ。それを、装備で補ってくれる……。

 かなりのズルじゃない……。


「それと、魔力の相性が悪いね。氷は、風の動きを封じるんだ。

 今は、風魔法だけを使い続けていて、成長に悪影響が出てるね」


 それは……。分かっているわよ。

 でも、求められたのは、氷魔法だけだったし……。

 家を出てからは、使いやすい風魔法を使い始めたけど、正直、全くと言っていいほど魔法は成長していなかった。

 きっかけでもあれば、また違ったのかもしれなかったけど、大怪我負っちゃってそれどころでもなかったし……。

 自分自身に言い訳をする。


「それで、思ったんだけど、氷と風の混合魔法を覚えよう。いや、作り出そう」


「ごふ!? ゴホゴゴ……」


「わっ!? 大丈夫?」


 吹き出してしまった。水を飲む。

 ノアは、なにを言っているのだろうか……。

 混合魔法? 聞いたことがない。

 いや……。私は見たことがある……。


「妹の、水と氷の混合魔法……」


「へえ? 知っているんだ。それに水と氷は相性が良いね。凄い使い手に会っているんだね。

 それならば、イメージもしやすいよね」


 私にとっては、トラウマなんだけどな。

 才能の違いを見せられた、あの時の苦い思い出が蘇る。そして、嬉々として喜んでいた父親の顔も……。


「ねえ……。どうして、私にそんな話をするの?」


「うん? 今のままだと、リディアはまた怪我をしそうだからね。お節介かもしれないけど、独り立ちできるまでは見ようかなって思っただけだよ。迷惑?」


「……迷惑ではないわ」


「良かった」


 その笑顔は、ずるいと思う。


「……ありがとう(ぼそ)」





 その後、冒険者ギルドへ寄る。昨日の事件の経緯を聞くためだ。

 まず、ゲラシウス率いる『餓狼の爪』は、解散とのこと。

 古参の5人は、冒険者ライセンスを剥奪の上、労役が課されるらしい。

 特に、ゲラシウスには重い処分が科せられるとのこと。明言をしないのは、まだ決まっていないのか、とても口にできないほどの重い罪を償う労役になるのかだと思う。

 一応、死刑制度はないのだけれど、あのバカの実家であるウィスラー家にも話を通してから処分を決定するらしい……。

 まあ、叩けば埃どころか、鉱石ぐらいの罪がボロボロ出て来る奴なんだ。

 重罪は免れないだろう。

 そして、一つ気になった……。


『私が罪を犯したら、実家であるアイスメイル家に連絡が行くんだな……』


 あの父親が、どういう行動に出てくるかは想像できない。

 擁護して欲しいとも思えないけど、最悪、罪を金で解決させられて、連れ戻されると思う。


『そうなると、政略結婚の道具にされそうだな……』


 考えすぎかもしれないけど、縁は完全には切れていない。

 ギルド長にも家名は名乗っていないけど、私の家庭の事は知られていると思う。

 そして、定期連絡されている……。


『考えすぎかな……』


 私が思案していると、ノアが顔を覗き込んで来た。

 ちょっと、自分の世界に入り過ぎてしまっていた。


「……一応教えておくね。アイスメイル侯爵は、なにもしていないよ」


 カッと頭に血が上る。


「調べたの!?」


「……うん。昨晩、ギルド長に話を聞いたよ。ギルド長が、冒険者登録時に確認の使者を送ったんだけど、返信はなかったんだって。リディアがなにを考えているかは分からないけど、侯爵家からは接触はして来ないね。

 リディアから家に帰る場合は……、分からないけどね」




 心を見透かされている様だ。

 証拠もなく、信用するには説得力がない。

 ギルド長と口裏を合わせているだけかもしれない。

 それでも……、安心してしまった。


「……そう、分かったわ」


 そうか……。もう父親は、私に興味すら持っていなかったんだ。自意識過剰も甚だしい。

 ……いや、心のどこかで貴族令嬢に返りたいと思っていたのかな。

 そうか……、もう退路はないんだ。


「それとアイスメイル侯爵は、片手片足を失っているでしょう? ちょっと人としては強すぎたので、僕も余裕がなくてさ。本気出しちゃったんだ」


「え? ノアが、アイスメイル侯爵様に深手を負わせたってこと?」


「そそ。帝国が蹂躙されそうだったから、手を貸したんだけど、予想外に強くてさ。あの人も人類最高峰の一人だよね」


 信じられないけど、嘘でもないと思う。

 そうか、ノアはアイスメイル侯爵様より強いんだ。でも、そうなると……。


「ノアは、どうして私に力を貸してくれるの? 因縁はないの?」


 今持っている、一番の疑問をぶつける。


「……死んで欲しくないから。まだ、若葉なのに怪我をして蕾すら付けていない花に、咲いて欲しいから。それと僕には、帝国も王国も関係ないからね。助けたい人を助けるだけだよ」


「私は、……咲けるのかな」


「それは、リディア次第だよ。根を張る場所も、花の色も大きさも自由なんだ。侯爵を見返したいでもいいと思う。

 でも、そんな小さなことよりも、大きく花開いたリディアが僕みたいに人を助ける姿が見たいかな。

 僕もね、昔助けて貰ったから、それを色んな人に返している最中なんだ」


 私の理想とした冒険者の姿が、そこあった。

 ……不覚にも涙が出てしまった。

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