第13話 新しい日常1

「う~ん……。朝か……。眩しいな」


「もう、お昼だよ?」


 ガバッと、上体を上げる。

 私は、驚愕の表情でそいつを見た。余裕で読書してるんだけど……。


「……ここ私の部屋なんだけど? なんでいるの?」


「ん? 昨晩飛び回っていて、魔力切れ起こしたよね? それで、朝になっても返事がないので、ドアを開けて貰ったんだ。

 ギルド長と宿屋の主人にも立ち会って貰ってね。それと、外着のまま寝るのは良くないよ? 最低でも剣は外しておこうよ。腰の短剣もね」


 分かる……。赤面している。

 顔が、熱い。

 違う、そうじゃない!


 私は枕を投げつけた。


 ──パフ


 こいつ、避けようともしない。それが余計に腹が立つ。


「それじゃ、遅めの朝ごはんにしよう。顔を洗ってね。下で待ってるから」


 ──パタン


 ノアが、部屋から出て行ってしまった。

 自分の服装を確認する。

 外着のままだった。でも、胸当てやノアに貰った防具は、外して貰っている。コートは壁にかけられていた。


「……悪戯されていないわよね」


 分かっている。ノアはそんな人ではない事を。

 信用し過ぎかもしれないけど、欲というものを感じない。

 それが逆に不安にもさせるのだけど……。

 それに、『ギルド長と宿屋の主人にも立ち会って貰た』と言った。嘘じゃないと思う。


「……紳士過ぎない。ちょっとはあっても良かったんだけどな」


 私は、桶に汲まれた水で顔を洗った。

 鏡を見て、髪をとかす。寝ぐせは付いていなかった。

 本当は、体を洗いたいけど、風魔法で汚れを飛ばす程度に留める。


「今日は、ちょっとだけオシャレしよう」


 薄い色の口紅を塗って、準備は終了。


「貴族令嬢してた時は、毎日一時間は準備に取られていたのにな……」


 今は、外見など最低限の準備しかしない。

 顔に火傷を負ってからは、もはや他人の目など気にする余裕もなかった。

 もう一度、鏡で自分の姿を確認する。

 本当に顔の火傷の痕は消えていた。頬に触れてみると、感触も確かめられた。昔の自分の顔が鏡の中にある。自慢の髪も生えそろっていた。

 それと、気が付いた。


「瞳の色が違うな……。オッドアイになっちゃたけど、贅沢は言えないか」


 鏡から少し離れて、自分の全身の姿を確認する。


「変なところはないわよね……」


 服には、皺ができてしまっているけど、マントで隠せばいい。明日、洗濯に出そう。今日は、着替えている時間がない。

 私は、防具を装備し、剣を携えて、宿屋の一階に降りて行った。





「……おはよう。てっ、何しているの?」


 宿屋の一階は、広い公共スペースがある。そこでノアが待っていたのだけど……。

 ノアは、私の折れた愛剣を見ていた。飾っていたのに、持ち出されていたんだ。

 身なりに気を取られ過ぎて、気が付かなかったんだ。


「……これ、貰ってもいい? 今のままでは使えないでしょう?」


「ダメ。お金が貯まったら直すんだから」


「じゃあ、直して良い?」


 ……落ち着こう。

 昨日から、異常な事が起き続けている。

 ここでの返事は、慎重にしよう。

 きっと、予想の斜め上の更に十歩くらい先の事をしでかすと思う。


「直してくれるのなら嬉しいけど、原型も残らないほどの改造をするんでしょう?」


 どうだ! この完璧な回答!

 エンチャントとか付けて、驚かそうって言ったって、もう驚いてあげない!


「そんな事はしないよ~」


 そう言って、ノアが折れた面を合わせた。

 パキっと言う音と共に、剣が直っていた……。

 ノアが、素振りをしても、剣はビクともしない。目にも止まらないほどの剣速だったのにも関わらずだ。

 愛剣を受け取る……。そして、振ってみた。


「……本当に直っているじゃない。どうやったの?」


「時間回帰だよ。綺麗に折れていたからね。折れる前の状態まで戻したんだよ。

 刃こぼれが少しあるから、きちんと研いでね。それと、錆止めを忘れないように」


 頭痛い。頭痛がぶり返して来た。予想外過ぎる……。


『時間回帰は、どの属性の魔法になるんだろうか……』


 その疑問を口にしたら、私の負けのような気がした。

 私は、黙って愛剣を鞘に納めて、席に着いた。

 本当は、嬉しいんだけど……、なんか素直に喜べないな。


 ここで、朝食が運ばれて来た。

 ウェイトレスが、朝食を残しておいてくれたみたいだ。

 それが運ばれて来る。ありがたいな。


「それじゃあ、これからの事を話し合おうか。食べながら聞いてね」


 ノアが、なにを言っているのか、とても分からない……。

 これからの事?

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