第12話 事後処理4

「この武器防具は、国宝級の魔導具なの?」


 私からも聞いてみることにした。


「そんなのが? リディア用に調整しただけだよ。靴は、速度アップ。篭手は、筋力アップ。肩鎧が体力アップ。

 それと、バレッタが思考速度アップ……程度かな。

 今のリディアが、最高のパフォーマンスを発揮できる状態を作り出す装備になるんだよ。意識の深層にあるイメージを魔力を消費して再現したと言えば伝わるかな?

 バフ効果はあるけど、外部補正はないからね。それほど大した物じゃないんだよ」


 バフ効果って、エンチャント装備じゃない。

 迷宮ダンジョン産が有名だけど、僅かな効果があるだけで、金貨数十枚はするのに。

 でも、聞いたことがある……。王都では、最近になって作成が可能になったとか。

 こいつが、技術提供したとしたら。時期は、現国王の即位後と仮定して……。


『矛盾が出ないし……』


 ゴクリと唾を飲み込む。


「剣は……。この剣も普通じゃなかったんだけど?」


「うん? それ? 折れにくいだけだよ。刃こぼれしても回復する程度」


 絶句してしまう。

 私は、武器防具の整備に、毎月大量の資金をつぎ込んでいたと言うのに……。

 こんなのが普及したら、鍛冶屋がいなくなっちゃうじゃない。


「その程度……か。その言い方だと、もっと良い武具を持っていそうじゃの?」


 上手いな、ギルド長。

 おだてながら、相手の力量を図ろうとしている。


「う~ん。それじゃあ、こんなのどう?」


 ノアが、カバンからマントを取り出した。


「リディア。着てみて」


「う、うん……」


 マントを羽織る。


「どんな効果があるのじゃ?」


「飛べるマント。まだ試作品の段階だけど、実用性はあるかな」


 3人が私を見る。いきなり実演しろと?

 私は、心を落ち着かせて、マントに魔力を送った。

 浮遊感が、私を襲う……。

 私の足は、床から離れていた。


「うん、いいね。そのマントを使いこなせれば、S級冒険者なんて目じゃないよ」


 満面の笑みの、ノア。

 ギルド長は、してやったりと言った表情だ。

 私は、魔力を切り、マントをノアに返す。


「気に入らない?」


「……装備は借りただけだから。明日、洗って返すわ」


「剣はともかくとして、防具は、リディア用に調整してしまったから、返して貰っても、もう誰も使えないんだよね……」


 この後、私はなにを要求されるのだろうか……。




 とりあえず、解散となった。

 私は、疲れたので冒険者ギルドを後にする。

 装備は……、マントを含めて全て持って来てしまった。

 特に剣だ。手放したら二度と手に入らないと思う。

 ……欲望に負けてしまった自分が恥ずかしい。


「返さなくてもいいよ。それよりも、もう少し使ってみて。感想を聞きたいかな」


 ノアにそう言われてしまった。

 最高以外の感想が出ないのだけどな……。

 分かっている……。ノアは、対価など要求して来ないんだろうな。

 腕や顔の治療費すら、話に出て来なかった。


「困っている人を助けながら旅をしてるのかな……」


 正直、羨ましい。

 あれが皆の憧れる冒険者の姿なのだと思う。

 いや、あれが英雄なのかもしれない。


「う~……」


 我慢できなかった。

 マントに魔力を通わせる。

 地面を蹴ると、私は飛び上がった。3階建ての建物よりも高く……。

 風が、頬を撫でる。


「……気持ちいい」


 私は今飛べている。それほどの速度は出ていない。高度も全然だ。実戦では狙い撃ちされる程度でしかない。

 それでも、鳥にでもなったような感覚だ。

 精霊の眼と耳が反応する。今は夜中でも、視界がハッキリと広がっており、遠くの音まで拾える……。

 飛翔魔法の使い手は少ない。魔力消費に対して、使用時間が余りにも短いからだと聞いたことがある。

 飛翔魔法で名を馳せているのは、王都のS級冒険者パーティーリーダーくらいだとか。

 風魔法使いの、最終目標でもある……と。


 私は、氷と風魔法を使える。父親が求めて来たのは、氷魔法のみだった。

 でも、今の私は風魔法の上級者と言えるんじゃないかしら。

 こんなにも、自由に飛べているのだから。

 ノアの魔導具のおかげだと言う事は分かっているけど、自分の中の可能性に気が付けたので、頬が緩む。


 その晩は、魔力が尽きるまで飛び回った。

 2時間くらいで、魔力が尽きたので、宿に戻る。

 バレッタを外したら、とてつもない頭痛が襲って来た。

 そのまま、ベットへダイブ。


 頭痛が酷かったけど、私はとても満足感のある疲労を感じながら、そのまま眠ってしまった。

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