第11話 事後処理3

「それでは、最も需要な部分を聞かせて貰おうかの。リディアの傷をどうやって治したのじゃ?」


 応接室の空気が一気に引き締まった。

 オースティンさんも、真剣な表情だ。

 ノアは、お茶を一口飲む。


「ここって、ラケド王国の第三都市カシアナだよね? 辺境都市だけど、資源が豊富で、開発が進められてるって聞いたんだけど」


「うむ、合っている」


「ラケドの国王陛下って、昔大怪我しなかった?」


 全員が絶句する。

 余りにも有名な話だ。


「あれでしょ? 狩りに出かけて、第三王子が熊の魔物と出会った話。

 ほぼ、相打ちだったけど、泉の精霊に命を助けられて、協力を得られる。

 そこからは精霊の協力で、王位継承権争いを優位に進めて即位する。そして、泉の精霊を祭るって内容よね?

 王国では、子供に文字を教える時に使う物語絵本とかよ?」


「う~ん。そんな内容なんだね……」


 こいつ……。


「本当はね。鹿の突進を受けて、肩を貫かれたんだ。その角は、今は宝物庫にあるよ?

 それでね、たまたま僕が通りかかって治療を行ったんだ。

 その後は少し拘束されるんだけど、第三王子の欲しがる物を作り続けていたら、いつの間にか王様になってて、僕は宮廷治癒士の称号を貰ったんだ」


 絶句してしまう。

 そんな作り話、騎士に聞かれたら処刑台送りになるわよ?


「でも、面倒になったから、僧侶の中から優秀な人を育てて『聖女』の位を作った。

 あの娘は真面目でね。今も生徒を一杯抱えているよ。

 そうして僕はお役御免と言う事で、城を出たんだ。

 それと、同じ制度を帝国でも作ったけど……、帝国の聖女は、ツンデレでね、顔を出したらメイスで殴って来そうだ」


 聖女様を冒涜していない?

 いや、確かに"僧侶"や上位の"神官"の育成機関は聞いたことあるけど……。私も行こうと考えた事あるし。


 ノアが、テーブルに何かを置いた。

 それを手に取ってみる。


「……指輪。それもラケド王国の国旗が彫り込まれている?」


「それを見せれば、この国では誰でも頭を下げてくれるからね。便利に使わせて貰っているよ。

 それと、トイシュ帝国も似たようなものかな。ドルモア連邦は、建国時に手伝ったんだ。

 もっと遠い国のもあるけど、それは置いておこう」


 それを信じろと?

 でも、その証拠が目の前にある。


「話が逸れたね。王国の特産品でさ、『エリクサー』があるでしょ?

 材料が揃わなくて、あんまり生産できていないみたいだけど、そのレシピを作ったのは僕なんだ」


 なにを言っているんだろうか……。特産品とか言っても、年間100本程度の最高級品じゃない。私も購入しようと考えたことがあって、値段を調べたことがある。


「……そなた何歳じゃ?」


「体を取り換えて生き続けているので……、100歳くらい? いや、90歳くらいかな? もう数えるのも止めてしまったよ」


 もう人じゃないじゃない。


「話を戻すね。今はエリクサーの持ち合わせがなかったので、リディアには、スライムの溶解液とハイポーションの混合液を使ったんだよ」


「え? 溶解液?」


「うん、その時に虎の肉を混ぜた。リディアは、右腕だけだけど、虎の筋力を持ったんだ」


 右腕を触る。そうか、それであんなに速く剣を振れたんだ……。


「他生物の肉を混ぜる意味はあるのか?」


「うん、必要だね。説明が難しいけど、接着剤の代わりと言えば伝わるかな? 一度溶かして戻すだけだと、強度のない骨と筋肉になってしまうので、補強が必要なんだ」


「ポーションでは治らなかったのか? いや、持ち合わせていないのかもしれんが……」


「あそこまで古くて深い傷だと、上級ポーションでも無理かな。エリクサーだね」


 私達は、誰と話しているのだろう……。

 宮廷仕えの錬金術師かと思ってしまう。


「ふむ……。眼と耳は? それと皮膚じゃ」


「眼と耳は、先日倒した精霊種の素体を持っていたので、移植させたよ。

 皮膚は、僕の回復魔法かな。火傷程度であれば、なりたての僧侶でも回復できるでしょう?」


「ちょっと待って、精霊種ってなに?」


「少し遠くだったけど、ピクシーの変異種が、いたずらしまくっていたんだ。ある街で被害が出ていてね。

 ちょっと、手に余るレベルまで変異していたんで、討伐させて貰った。見る?」


 首を横に振る。

 変異種とは、外見もかなり変わってしまうのだ。それを移植された……。

 見たらトラウマになってしまうかもしれない。

 でも、ピクシーか……。怒らせて群れで来られると、軍隊でないと相手にできない魔物だ。

 そうか、ピクシーの見る光景ってこんなんなんだ。


「ちなみに人の眼を移植することは可能か?」


「……僕は人殺しはしないよ? それに、移植と言っても物質として移し替えたわけじゃないしね。魔物の眼球を移植しても見えるようにはならないでしょ?

 僕は、魔物の機能を人間に馴染ませる技能スキルを持っていると考えて」


 ノアという人物が、分からなくなった。

 今までの話を全て肯定するのであれば、人間じゃない……。

 そして、王国よりもはるかに進んだ、錬金術や医学、そして魔導具アイテム作成能力を持っている。


 私は、100年後に"賢者"とか呼ばれそうな人に助けられたのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る