第9話 事後処理1

 ノアの質問に、5人が笑う。


「死んだ奴には、報酬は払わねぇ。そういう契約なんだ。

 生き残った奴には、まあ払うがな。でも再起不能の奴も多いだろうな」


 本当のクズだ……。

 こうやって、報酬を増やして、功績を挙げて来たんだな。


 ノアが立ち上がる。


「リディア。僕は怪我人がいる所に戻るね。リディアは街に帰って人を呼んで来て……」


 ノアの魔力が、膨れ上がっている。


「分かったわ。ギルド職員を連れて来るわね」


「そうはさせねぇよ。そのために追って来たんだからな」


 ……口封じという事か。もう、蔑む言葉も出ない。

 ここで、ゲラシウスの斧が、魔法陣に触れる。


 ──パリパリ


「こりゃ、すげぇ結界だ。時間切れまで待つしかねえな」


 ……怪我人がいるんだ、時間はかけられない。

 ノアに強化して貰った今であれば、私のスピードにゲラシウス達が着いて来れる理由がない。


『一点突破かな。ノアは大丈夫そうだし……』


 私が、思案しているとゲラシウスが意外な事を言い出した。


「リディア。チャンスをやる。その男を殺せ。そうすれば、俺の情婦として美味しい思いをさせてやる」


 ゲラシウスは、現状が理解できていないらしい。もう、私から見てあんたは雑魚よ? それに、ノアが本気を出したら一瞬で塵になるんじゃないかな?

 魔力が見えるというのは、便利だけど、魔力感知でも分かると思うんだけどな。ゲラシウス達に、魔力感知の技能はないんだな。


「……もう、いいかな?」


 ノアが口を開くと、ゲラシウス達の嗤いが消えた。


「何をしたの?」


「うん? 会話中に魔法を構築しただけだよ? 拘束と麻痺、沈黙、意識混濁、非致死の毒の組み合わせ。ちょっと、無防備すぎるかな~。君達駆け出しの冒険者なの?」


 ゲラシウス達は、棒立ちで朦朧としている。無防備もいいとこだ。

 絶句してしまう。ノアは、どれだけの属性魔法を使えるんだろう……。

 それと、いままでの恨みを晴らしたいな~。


「もう一つ追加できる?」


「どんな効果?」


「『呪詛』で、二度と女性を抱けない体にして欲しいかな……。そうすれば、大人しくなると思う」


 ノアが笑った。


「リディアは、怖い発想をするね」


「散々、絡まれたんだもの。それくらいは仕返ししたいわ。ここで、首を刎ねてもいいのだけど、少し苦しんで欲しいかな~」


 互いに笑い合った。





 ここからの行動は、迅速だった。

 私は、冒険者ギルドへ走り、事の次第を説明する。

 ギルドから、街への応援要請が出ると、僧侶等の回復職が集まり、また、馬車が10台集まった。

 そのまま、街の東側から出発して行く。場所は、『餓狼の爪』の狩場である、東の街道沿いの崖だ。そこしかない。

 ノアの方は、これで大丈夫だと思う。

 私は、ギルド職員とB級冒険者を連れて、ゲラシウス達の元へ向かうことにした。

 ちなみにココには見せられないので、ギルド職員はベテランの男性のみを選ばせて貰った。


 ゲラシウス達は、動けないでいた。低級の魔物に絡まれており、傷だらけでもあった。

 その魔物をB級冒険者が蹴散らす。

 ゲラシウス達は、ノアのデバフ効果が切れておらず、今だ意識朦朧で突っ立っていた。もう一時間は経っていると思う……。


「かなり怖い魔法だな。ここまで強力で長時間続く状態異常魔法なんて、見た事も聞いた事もないし……」


 B級冒険者達も同様の様だ。

 質問されたのだけど、私も分からない事だらけなのだ。説明はできなかった。

 それと、私の怪我についても質問されてしまった。


『迂闊だったな……。ノアに追及が行くわよね。顔だけでも隠しておくべきだったかもしれない』


 とりあえず、その場はやり過ごし、「ギルド長に報告してから」と言う事で回答を先延ばしにした。良いアイディアは浮かばなかっけど、ギルド長ならノア関連で、皆が納得する回答を用意してくれる……、と思う。

 ゲラシウス達を縄で縛って、引きずって運んで行く。


 途中で、馬車が私達を追い抜いて行った。

 ノアと目が合うと、自然と表情が緩んでしまった。

 本当にすごい人だと思う。そして……、まだ良く知らないけど素敵な人だとも思う。

 少し、ぶっきら棒なところもあるけど、その……、人柄に魅かれると言うか……。口には出せないけど、興味が尽きない。


 道中私は、B級冒険者達に言い寄られてた……。

 でも人を顔で判断するこの人達に、私は興味を抱けなかった。


 今の私は、ノアへの興味で一杯なのだ。

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