第8話 危機4
剣を一振りしたら、魔物が3匹切断された……。なんなのこの剣の切れ味……。
でも、次の瞬間に前と左右から襲われる。
私は、その全ての攻撃を避けて、剣を振るう。
『視える……』
ノアに何をされたのかは、分からない。
でも、魔物の攻撃が、手に取るように分かった。
剣と盾、そして肩鎧で迎撃を行う。特に肩鎧だ……。攻撃を防ぐだけじゃない。ショルダータックルとでも言うのかな? 攻撃手段が一つ増えた感じだ。装備一つで、ここまで変わるなんて……。
魔方陣を背にして、移動しながら迎撃を行う。
そして、左手で魔法を起動させる。本来の私の戦闘スタイルだ。
魔物の動きが止まったら、最速で剣劇を叩きこむ。
「楽しい……」
怪我をする前以上に動けている。私が理想とした戦い方ができている。
ノアに何をされたのかは、本当に理解できない。でも、私は強くなっている……。
「リディア。一度下がって」
ノアの言葉で我に返る。
後退して、魔法陣に飛び込んだ。
「……2~3匹って言ったよね? 半分くらい倒したよ?」
苦笑いが出てしまった。夢中になり過ぎていた。
ここで、膝から崩れ落ちる。
「……あれ?」
「装備のエンチャント効果で、身体能力と思考加速を限界まで引き上げたんだよ。明日は筋肉痛と頭痛に苦しむと思ってね。
それと魔法に関しては、何もしなかった。氷と風魔法かな? 相性が良くないね……」
エンチャント? 限界まで引き上げた?
そんな装備は聞いたことがない。侯爵家の長兄と次兄ですら、筋力が僅かに上昇する装備を使っていたくらいだ。
篭手と靴を見る。
『これ、国宝級のアイテムなんじゃ……』
そして、何よりも驚いたのが……。
「……この剣、凄いわね」
「それ? 試作品なんだけどね。『不壊』を作りたかったんだけど、一歩手前の『自動修復』なんだ。
まあ、切れ味が変わらないだけでも、実用性はあるよね」
絶句してしまう……。でも、疑いようのない話だ。
そう確信できるほどの剣の切れ味だった。
「それでなのだけど、魔力が枯渇状態なのは自覚している?」
「……」
視える……。自分の魔力の流れが。浮かれていて、枯渇寸前まで魔法を使ってしまっていた。後数秒で、魔力切れを起こしていたと思う。
これは先ほど、ノアが『精霊の眼』と言った、その効果?
ノアを見る。
ノアの魔力の巨大さ……、その練度が視覚イメージとなって私を襲う。
S級冒険者とは、ここまでの差があるのか……。私が100人いても敵う気がしない。
「リディア? 大丈夫?」
ここで我に返る。確認しよう。
「……魔力の流れが見えるわ。これが、さっき言っていた『精霊の眼』の効果?」
「そういう事。人によっては、『ズル』と言うけど、先天的に持つ人もいるんだよ」
「私は、
ノアの表情が曇る。
「本物の
強くなるための足掛かり程度に留めたくらいかな……」
私には、とてつもない
「それでね、篭手や靴、剣にも魔力を吸われている事は、分かるよね」
それは感じていた。止まっている状況であれば、魔力は消費しないけど、動いている時は、ガンガン魔力を持って行かれていた。
一番魔力を消費していたのは、バレッタだけど……。
「その装備の魔力消費がなくなった時が、リディアの剣術の完成形と思ってね」
絶句してしまう。私は、エンチャント武具なしでも先ほどまでの動きができるっていうの?
剣術の練習をしていた時には、イメージすらできなかった動きだったのに……。
この装備は、普通のエンチャント装備ではない? 成長を促す効果も付与されている?
私が思案していると、ノアが小瓶を差し出して来た。
「魔力と体力の回復ポーションだよ。飲んでね」
ノアが、満面の笑みでポーションを差し出して来た。今の私に、この誘いを断れる理由がない。
──ゴクゴク
「ふう~。楽になったわ。ありがとう」
ノアは、とても満足そうな笑顔を見せた。
意識してはダメだ……。この笑顔に吸い込まれそうになる。
「おうおう……。リディアじゃねぇか。なんだ? 怪我を治療したのか?
それならば、娼館でも働けそうじゃねぇか」
ここで、結界の外から声をかけられた。そちらを向く。
「……ゲラシウス。あんたね! 今回の事は、ギルドに報告させて貰うからね!!」
「げへへ。まあ、そう怒るなよ」
周囲を見渡すと、魔物が一掃されていた。
半分を私が倒して、残った半分が逃げたのだと思う。残りをゲラシウス達が倒したと考えよう。
周囲を見渡すと、ゲラシウスを含めて5人……。
『餓狼の爪』の古参メンバーだ。
「怪我人はどうしたの? 20人くらいのパーティーだったよね?」
ここでゲラシウスが、汚い笑みを浮かべて、ノアを見た。
「……おめえが助けてくれたのかよ。まあ、礼は言わないがな。怪我した奴らは、置いて来た。まあ、使い捨ての奴らだし、少しでも動ける奴がいれば、今頃手当してるだろうな」
救いようのないクズだ。再確認できた。
「それで、怪我人を放り出して、なにしに来たの?」
……分かる。笑顔のノアだけど、魔力が怒っている。
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