第6話 危機2

 目の前の男性……、ノアが水筒の水を飲んだ。

 それを、私の前に差し出す。


「い、要らないわよ!」


 本当は飲みたいけど、拒否をする。こいつ、デリカシーがないな。


「そう? さて、それじゃこれからどうしようかな……。何かアイディアはある?」


 なにを言っているのか……。狼煙でも上げて、街から応援を呼ぶしかないじゃない。この状況で、2人でなにができるというのか。

 いや、まずノアの情報を聞き出そう。


「まずこの魔方陣は、どれくらい持つの?」


「うん? 12時間くらいかな?」


 絶句してしまう。

 かなり高級な魔道具になるはずだ。それこそ、迷宮探索とかに使用される物じゃない? こんな状況で使うなんて。


「そんな物を使ったの? ここの魔物を全て売却したとしても赤字になるんじゃない?」


「価値が分かるのかな? まあ、王都とかで売っている物だね。

 持ち合わせがこれしかなかったので、使ったんだけど……。もったいなかったかな?」


 馬鹿じゃないの? 街まで走ればよかっただけじゃない。

 後は、衛兵に任せればいいだけだし。でも、それだと街に被害が出るか……。

 う~ん。他にアイディアが思い浮かばない。

 いや、方向転換して、街に向かわせなければ被害も出なかったかな?


「あのまま、走れば良かったんじゃない? 方向転換すれば、街への被害も出なかったかもしれないし。ここで立ち止まった理由はあるの?」


「街に影響が出ていたよ? それに、方向転換してもその方向に誰もいない保証がないね。リディア嬢にも会ったんだし。

 人気のない場所で、大きな魔法を使おうと思ったのだけど、リディア嬢を巻き込んでしまった。本当に申し訳ない」


 これで、誤っているつもりなんだろうか?

 そして、ノアが考え始めてしまった……。

 思考の邪魔かもしれなけど、聞いてみるか。


「……魔法で、一掃できないの?」


 本当に竜種をソロで倒したんなら、これくらいの魔物の群れなど、一掃できるはずだ。


「……僕一人だけであれば、いくらでも方法はあるけど、それだと、リディア嬢も巻き込んでしまうね。

 地道に、一匹ずつ倒して行くかな……。それと、地形を変えると怒られそうだ」


「リディアでいい。私はもう、貴族令嬢じゃないから。それと、ノアって呼ぶわね」


「……わかったよ、リディア。今日だけパーティーを組もうか」


 分かっている。今はそれしかない。


「見て分かると思うけど、私は、右手が使えないの。それを踏まえて作戦を考えてくれる?」


「う~ん。武器は、手甲剣パタか……。100匹くらいいるけど、途中で折れそうだね。それじゃ、前衛には立たせられないよね」


「それじゃあ、私が後衛になって魔法で援護するわ」


 右手に風魔法を、左手に氷魔法を発生させる。

 それを見た、ノアの表情が曇る。


「……魔法のレベルが低いね。100発も撃てないでしょう? 威力も低そうだし、拘束系も期待できそうにないね」


 こいつ、腹立つ。なんでも見透かされていそうだ。





 ノアが、なにかを考えている。

 分かっている。私に選択肢はない。でも、ノアは命を預けるのに値する相手なんだろうか……。

 緻密なまでの魔力操作と、高級な魔道具を見せて貰えたけど、それだけで実力に直結するとは思えない。ただ……、不思議な人だとは思う。

 それと、竜種を倒したという事実はある。その方法が知りたい。


「よし! これで行こう!」


 なにかが決まったようだ。


「……教えてくれるのよね? 私を囮にして逃げるとか言うのであれば、魔法撃つけど?」


「リディアの傷を治して、君が魔物を倒す! これが最上だね」


 なにを言っているんだろう?

 満面の笑みのノアを、懐疑的な目で見る。

 ノアは気にもしないで、バッグに手を入れている。

 そして、色々と取り出した。

 容量の大きなマジックバックみたいだ。この魔方陣と言い、ノアは何者なんだろうか? 扱っている魔導具のレベルが違う。少なくとも、辺境で扱っている魔導具じゃないわね。

 ノアが取り出したものを確認する。


「剣に靴? 篭手と……、盾。あと肩鎧?」


 どういうこと?


「その前にこれね」


 瓶を差し出して来た。なにかしらの液体が入っている。

 回復液とでも言うのかな……。ポーション? エリクサー?

 その瓶に、魔物肉を入れると溶け出した。私の知識では、錬金術が近いと思う。

 そんななにかだ。


 ノアは、私の右側に移動して、肩の触診を始めた。

 何時もの私であれば、治療など拒否していたと思う。異性に触られるのも嫌だ。

 でも、ノアは真面目に傷を診ている事が分かる。

 少し恥ずかしかったけど、黙って治療を受ける事にした。


「服を肩まで破くけど、いいかな?」


「……任せるわ」


 ビリビリと袖が切られて行く。

 医者以外に見られたくない傷跡……。


「骨が、ちゃんと接がれてないね。それと、肉を抉られているのか……」


 ここで、ノアが魔法を使用した。瓶の中の液体が動き出す。

 水魔法だと思う。

 そして思ってしまった。


『魔力の流れが綺麗……』


 その液体が、私の右肩に触れた……。


「ぎゃあ!?」


 ノアの液体は、激しい痛みとなって、私を襲って来た。

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