第4話 出会い

 今日もメグの店でシチューを頂いていた。私の好物になりつつある。栄養も満点だ。もちろん、何時もシチューという訳じゃないのだけど、メグの店のシチューとパンは、一日一食の私にはとてもありがたかった。

 もちろん、たまにだけど猪や兎が狩れたら、食材に使って貰っている。

 ここで店の扉が開いて、ある人物達が入って来た。


『ギルド長と新人受付嬢の……、ミラだったかしら? もう一人は知らない男ね。この時間は、冒険者ギルドは忙しいはずなんだけど……。異常事態?』


 それとゲラシウスでない事で、安心してしまった。


 ギルド長とメグの父親が何か話している。

 知らない男が、私の近くのテーブルに座った。


「パスタとピザをお願いします……」


 メグが反論する。


「顔色が良くありませんよ? 穀物料理だけでは、栄養が偏ります。お肉を食べましょうよ」


 男が私の方を向いた。

 そして、私を指差した。


「それなんて料理? まあいいや、それとパスタをお願いします」


「かしこまりました」


 ここで視線が合った。男が立ち上がり、私の方へ近づいて来る。右側なので、良く見えないんだけどな……。


「……怪我しているのかい? 結構深そうだね」


 睨み付ける。

 返事はしない。

 そのやり取りを見たメグが慌てて、シチューを持って来た。


「……気を悪くしたら謝るよ。気になっただけなんだ。それでは、活動がかなり制限されるよね?」


 カッと頭に血が上った。


「治療してくれるとでも言うの? 見たところ、学者みたいだけど、薬師? 錬金術師? 僧侶? 神官?」


 私は、まくし立てる様に言い放った。分かっている。痛いところを突かれたからだ。でも、私だって、必死に生きているんだ。

 メグが後ろでオロオロしている。


「……他意はないよ。失礼しました。……食事を続けてください」


 それだけ言って、男は座り、シチューを食べ始めた。その後、メグが大盛りパスタを持って来る。

 男を見る……。シチューとバスタって合うのかな? 胃もたれしそう……。

 私は食事を終えて、お店を後にした。



 これが、運命の出会いになるとは、私は思ってもいなかったな。





 次の日に冒険者ギルドへ行くと騒然としていた。

 何事かと、受付嬢のミラに聞いてみる。


「昨日の男性です。竜種を討伐して、このギルドに納めて来たんですよ。原型を留めないほどズタズタなんですけど、多分、風竜です」


 ありえない。竜など、王都のS級冒険者パーティーでないと勝てない相手だ。

 この街の近くにも巣があり、たまに被害が出ていた。冒険者ギルドでも、警戒と警報を出すくらいしか対処方法がない魔物なんだ。

 それを、討伐した?

 昨日のあの男は、S級冒険者なの?


「あいつ、何者だったの?」


「……それが、私には分からないんです。身分を確認する手紙を受け取ったギルド長が真っ青になって、メグのお父さんに確認しに行きました」


「冒険者ではないの?」


「ギルドカードも身分証も持っていないみたいです。ただ……」


 ミラが、キョロキョロと周囲を確認する。

 私は、顔を近づけた。


「王家に繋がる人みたいです。それも複数の……。家紋が入った指輪を出して来たんですよ。

 それも、王国と帝国と連邦の。あの様子だと、まだ持っていそうでした」


 ありえない……。

 私は、王国に住んでいるけど、王家の家紋の入った指輪など、S級冒険者が御下賜品として受け取る物だ。

 それを、複数持っている?

 いろんな国に功績を残している事になる?

 そんな人物は、聞いた事がなかった。S級冒険者は、大体把握してるはずなんだけどな。


「メグの父親は、なんて言ってるの?」


「……『認める』って、それだけでした。それと、王都や王家には伝えないで欲しいと。静かに暮らしているらしくて、各地を放浪しているみたいです。とにかく、情報の少ない人物でした」


 絶句する。どれほどの実力者だというの……。

 見た限りは、背も高くなく、痩せた学者と言った感じだったのだけど。

 近接戦闘タイプとは思えないので、上級の魔導師?


「まだ、街にはいるの?」


「しばらくは、滞在するみたいです。昨日は、冒険者ギルドの応接室で休んで貰いました。

 ただし、ギルド長曰く、『何時いなくなってもおかしくない』とも言っていました。

 竜の素材のほとんどを、ギルドの言い値で買い取る事になって……。最高の待遇でもてなすようにって」


「ココ!? あんた、昨日は!?」


「大丈夫ですよ。女性は要求して来ませんでした。ギルド長が娼館にまでかけ合ったのですが、『帰ってくれ』って。

 それと、衣食と睡眠にも固執していないみたいです。『食事はなんでもいい』でしたし、一晩中読書を続けたらしいです」


 ホッと胸を撫で下ろす。


「それで、今はなにしてるの? ギルドの応接室で休んでるの?」


「分かりませんが、掲示板を見て街の外に行ったみたいです。討伐を行うのかもしれません」


 疑問に思ってしまう。


「依頼は受けてないの?」


「依頼は受けないらしいです。素材の買取りのみだとか……。ギルドとしては、報酬を払わなくて良くなるので、ありがたいのですが……」


 ……見てみたい。そう思ってしまった。

 その後の、ミラとの話は覚えていない。

 危険な街の東側に行ったらしいと言う事だけは、聞いた。

 気が付くと私は、その足で街の東の門を出ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る