第2話 C級冒険者
私の名前は、リディア。ただのリディア……、家名は名乗れない。
元貴族だけど、自分の意思で家を出て、今は冒険者をしている。
これは、わたしが『あいつ』に出会う前の話。
父親は、珍しい氷魔法の使い手だった。
重歩兵団を傘下に置き、王国に貢献した侯爵家。
『王国の不滅の盾』と呼ばれて、数々の戦争で功績を挙げたらしい。
だけど、強敵に会い片手片足を失う……。
その後、戦場には行かなくなったけど、他国との国境警備を引き受けたとのこと。
辺境伯を名乗っていた。
たまに、他国が攻めて来るけど、全て撃退したと聞いている。
国王陛下の覚えも良いらしい。
厳格な性格だけど、手柄を挙げた兵士には、恩賞を忘れない。
また、統治も上手く、領民も懐いていた。
数々の特産品を作り出し、貧しかった領地を繁栄させて行った。
金鉱脈の発見は、他国を巻き込んだ騒動となったらしい……。
ここまでであれば、良い領主だ。
だけど、夫として、または父親としては、最低だった。
妻は、妾を含めて4人。
四大属性……、火・風・水・土の魔法を得意とする家系から妻を娶った。
それぞれ、一子ずつ子を成したけど、物心つく頃から特訓だ。
貴族の家なのだから、仕方がないと言えるけど、それは虐待でもあった。
兄妹は、上に兄が2人と妹が1人。
全員が、氷魔法と四大属性の素質を持っていた。
私は、氷と風の魔法の素質を持っていた。
毎日、力尽きるまで剣と魔法の特訓。それと、貴族としての礼儀作法や教養……。
私は、あの生活が普通だと思っていた。
そんな生活も突然終わる。
いきなり父親が、宣言したのだ。
「末子に家督を継がせる」
覚醒した妹は、誰も手が付けられないほどの氷魔法を放った……。
屋敷が半壊したけど、父親は満面の笑みだった。
2人の兄は、家を離れて王都の学園に通うことになる。成績はいいらしい。
そして、学園卒業後は、家に戻り重歩兵団の将兵となる事が決まった。
私だけが残された……。
「……好きに生きろ」
父親からは、それだけだった。
私には、婚姻の話が来たけど、断った。何のための、地獄のような幼少期だったのか……。
婚約者を名乗って来た相手を、ボコボコにして追い返した後に、父親に聞いた。
「母は、どうなされますか?」
「……金には不自由していないはずだが?」
それを聞いて、私は13歳で家を出ることに決めた。
母親は、逃げ出せない城の生活で、抜け殻の様になっていた。
それでも、旅立ちの時には、見送りに来てはくれたな……。
母親には、定期的に手紙を送っている。たまに簡素な返事が来るので、生きてはいそうだ。
私が、安定して稼げるようになれば、引き取ろうとも思っている。
◇
とにかく侯爵家より離れたかったので、遠くの辺境へと赴いた。
冒険者登録を行い、最下級のF級冒険者として活動を始める。
とりあえず、採集と街中の依頼からだ。
たまに、街の外で魔物に遭遇するけど、私の剣と魔法であれば、脅威となる魔物はいなかった。
でも、そこまでだった……。
1年でC級冒険者まで成り上がったけど、そこから先が進めなかったのだ。
無理をして、強い魔物の討伐を行おうとすれば、怪我を負い這う這うの体で逃げ帰る始末。
怪我の治療と、武器防具の整備で吹き飛んで行くお金……。
安定して稼ぐためには、街から離れない事だと思い知らされた。
そして、誘いを受ける。
「……パーティーに入れと? 魔狐の討伐?」
冒険者ギルドからの依頼だった。
郊外で、狐の群れが出没して荒らし回っているらしい。
即席で、C級冒険者でパーティーを組み早期終結を頼まれたのだ。
私は、ずっとソロで活動してた。理由は単純だ。元貴族のプライドが邪魔をしたのだ。
特に食事を見た時だった。
「……汚い食べ方」
ただそれだけで、誰とも組めなかった。
しかし、私も足踏みの状態だったし、他人の戦い方も参考になるだろうと思い、軽い気持ちで受けた。
魔狐は、一対一であれば問題ない相手だ。
パーティーメンバーも同じ、C級冒険者なのだし、実力はあると思う。
メンバーは、二刀流剣士(男)、僧侶(女)、魔導師(女)。
私は、前中後衛を熟せるオールラウンダーだ。
バランス的には悪くないと思う。
そして、その足で街を出た。
結果は、散々だった。
魔狐は、20匹の群れで襲って来たのだ。
二刀流剣士と魔導師は、囲まれて為す術なく餌になった。
僧侶は、障壁を展開して、私は剣と魔法で迎撃を行う。
互いに背中を守り合い、なんとか脱出に成功……。
大きな代償を残して……。
まず、生き残った僧侶は、片手を失った。その後、意気消沈して故郷に帰ってしまった……。
私はというと、顔を1/4ほど魔狐の放った炎で焼かれて、片眼と片耳を失った。
自慢だった美しい髪も側頭部から生えて来なくなり、今後は顔を半分隠して生きるしかなくなった……。
そして、致命的だったのが、右上腕を噛まれた事だ。
骨が砕けて肉を抉られた。
切断までは行かなかったけど、もう肩が上がらない。
もう二度と剣を振れない人生が決まった日だった。
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