元貴族令嬢は出会いを経て~自分だけの属性を見つけて世界を飛び回る~

信仙夜祭

第1話 プロローグ

 私は、冒険者ギルドのドアを開けて中へ入った。

 ギルド内は、いつも通り喧騒に満ちている。街になにも異常がない証拠でもある。

 だけど、うざったい……。


 喧騒を横目に、カウンターへ。

 重い荷物をカウンターへ置いた。


「お帰りなさい、リディアさん。この3日間なにをしていたのですか?」


 受付嬢が、意味のない質問をして来た。


「ココ……。討伐して来たから確認してね」


 ココは、営業スマイルのまま、引きつっている。

 器用な娘だな……。でも、冒険者ギルドの受付嬢は、ここまでメンタルが強くなければ勤まらないか。

 ココが、袋を開けた。


「え~と……。角ですよね?」


「街の北側に住み着いた雷竜を倒して来たわ。素材は、先に倉庫に運んでおいたから確認してね」


 ココが、ハッとして奥に行ってしまった。

 カウンターには、竜の角が置かれている。

 これだけでも、素材の価値としては、金貨数百枚になるというのに……。


「驚かせすぎたかな……」


 後ろを振り返る。

 冒険者ギルドが、静まり返っていた。

 私は、部屋の隅にある空いているテーブルに座った。

 今頃は、ココが雷竜を確認して、ギルド長への報告に行っている頃だろう。


「なにか食べますか?」


 ウェイトレスが、恐る恐る聞いて来た。


「そうね……。果汁とシチューを頂戴」


 ウェイトレスは、震えながら一礼してメニューを伝えに奥へ歩いて行った。私ってそんなに怖いかな……。

 そして、直ぐに戻って来た。


「お待たせしました」


「ありがとう」


 銀貨を3枚渡す。少し多いが、チップ代だ。

 ウェイトレスは、次のお客の所へ歩いて行った。


『新人の娘かな? まあ、私はそろそろ次の街に移動しなきゃだけど、名前くらいは聞いておこうかな……』


 シチューを一口食べてみる。

 美味しい……。

 そして、思い出してしまう。あいつの事を……。


『あの時も、私はシチューを食べていたな。そして言われた……』



「それなんて料理? まあいいや、それとパスタをお願いします」



 目の前を見る。当然誰もいない。


「本当に、今何処にいるのやら……」


 ため息と、独り言と愚痴が出た。

 そうして思い出に耽りながらシチューを消費して行く。

 ここで、ココが来た。ギルド長も一緒だ。


「はあはあ。リディアさん! 雷竜を確認しました。大きさから天災レベルです! これは、凄い功績ですよ?

 それと、ソロ討伐になりますか?」


「……もちろん単独ソロよ」


 ギルド内がざわつく。


「それでは、王都に報告して、承認して貰います。これで、S級冒険者認定確実ですね!」


 この雷竜だけで、10日間もこの街に足止めされた。移動速度が速すぎて、捕まえられなかったのが、時間のロスに繋がったな。それと、私じゃないと討伐も出来なかったとも言っている。

 まあ、ココと仲良くなれたのは良かったかな。他の街じゃありえない。


「あ~。報告だけでお願い。S級には上がらない事にしてるから。王家も理解してるし」


 ギルド長が、割って入って来た。


「リディア嬢。これで、功績はいくつ目じゃ? 他の街でも、街の脅威となる魔物を狩っておるのじゃろう?」


 匙をくわえながら、考える。


「10……くらい? いえ……20……、30?」


 依頼を熟しているだけなので、『功績』は一度王都に帰らないと、確認出来ない。

 ギルド長がため息を吐いた。


「なぜ、いつまでA級冒険者でいるのだ?」


「……依頼を受けているのよ。それも王族からね。S級冒険者になって身動き取れなくなるのは避けたいから、私はA級冒険者でいたいの」


「その依頼とは、なにか聞いていいのかの?」


「……人を探しているの。大物専門の狩人ハンター、聖女を超える癒しの力、もしくは魔獣を従える魔王……かな?

 世界を破滅させる錬金術師でもあるし、人を育てる教導者でもある。でも、勇者とか賢者ではないわね。

 王国、帝国、連邦の恩人でもあって、ごく限られた人のみが捜索に当たっているの。

 私もその一人ってわけね。

 そして、この街にはいない事が分かったわ」


 ココが大きく目を開く。


「リディアさんは……。他の街に移られるのですか?」


「……そうね。この街にはいそうにないから、明日出て行くわ。雷竜みたいに困った魔物が出たら王都に連絡して。

 場合によっては、私が来るから」


 残念そうな、ココとギルド長……。

 でも、一つの街に長居はできない。私の目的のためにも……。



 雷竜の角は、先行して王都へ送って貰った。本体の方は、明日以降、護衛付きで運ばれるのだそうだ。

 私は、討伐達成依頼の報酬だけ頂く。


「王妃様達の資金源にして貰おう。これで、捜索隊の懐も潤って、捜索範囲も広がるわよね。

 それにしても、本当に何処にいるのかしら……」


 食べ終わったので、金貨の入った袋を持って冒険者ギルドを出ようとした。

 ここで、ココに袖を掴まれる。


「あの、リディアさん……。その探している人ってリディアさんの大切な人ですか?」


 ……返答に困ってしまう。


「私は、ズルをしたの。今の私は、それを返しているだけ。

 でもそうね。見つけたら一発ぶん殴ってやろうと思っているわ」


 ココには、理解できないみたいだ。



 そのまま、街を出ることにした。引き留めが多いと思ったからだ。前の街でもそうだったし。

 歩きながら考える。


「大切な人……、か。あいつは、人じゃないかもしれないのよね。

 でも、『想い人』には変わりない。絶対、ぜ~ったい見つけてやるんだから!」


 もう、探し始めて2年になる。

 それでも、私の想いに変わりはない。王妃様達も同じだと思う。

 命を助けて貰った恩と、ズルを教えられた罪……。


 私は決意を新たに、次の街へと向かった。

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