水平化

 気づけば、全国ルサンチマン狩放題の旅も14都道府県目である。

 

 うざいしめ縄はいつのまにか殺した異形ルサンチマン(肉塊)のパワーを吸って、縄跳びくらいの大きさになっていた。


 人ゴミのきしょい海の中でルサンチマンを狩ったつもりが、生身の人を絞めたハプニングもあったが、しめ縄曰く、ツケは着実に払えているらしい。


 そもそも、おかしい。なんで僕だけがこんなことしなくちゃいけないのか。他にもいるはずだ。


 「いるけどまだ逢えないよん」

とは縄の談。

 

 陰湿な山に入るのは萎える。

 旅2回目の限界集落だ。


 井戸の蠱毒の名残が、ルサンチマンとして少なからず、都市圏へ魔の手を伸ばしているようである。


 具体的には発狂する人が増えるとか。無論、ルサンチマンに寄生されるとかなんとかが原因である。


 頭の上に肉塊がくっついてるかんじ。


 「今日は井戸の周りをおいちゃんで囲ってキュッとするだけー。簡単なのん」


 クソ輪っかに指示されてやってきたのはポツンと一件嫌のふたのされた井戸。


 キュッ。


 井戸の石垣を締めた縄のおかげか、忌むべき存在として祀られているように見えた。


 そしてそのまま…


「置いてくな」


 珍しく縄の怖い声がした。縄でミミズ腫れした時みたいな鋭い声だ。

 そして、何もないのに首が絞まる。


「ケホッ…冗談、冗談だよ…」


「ならいいだよー!」


 つくづくサイコな野郎だ。自分のペースになるようにしてやがる。


 ごごごごご…


 「?!」


 井戸の蓋が大きく震えている。嫌な予感がする。こういう時は大体予感通り…

 地響きがする。

 頭のおかしな音が井戸の底から這いずっている。


「あ、まずいニャン。今の戯れで調整ミスが…やだ♡、、増幅しちゃ…♡」


 蓋から流動性のある肉が溢れ出ている。縄が飛んできて手に戻る。


「^_^」


 と、無言で。


「このゴミ紐がぁぁああ!!」


 とにかく、規格外のルサンチマンから逃げなければなるまい。

 走って山を下る。木を巻き込んで追いかけてくる。

 なるほど、まるでタ●リ神だな。

 そんなことを言っている場合ではないのよ。


「ハッハッ、息続かないぞ!これからどうすんだよ!追いつかれる!」


「一つ裏技があるよ」


「じゃあそれをやるしかないだろう」


「でもにゃー」


「でも?」

 

「ツケが増えるにょん」


 こいつ絶対嵌めやがったッ!


「方法は?」


「至て簡単!おいちゃんで首を吊る!以上!」


「……」


 山を一定降り、コルに出て、身を翻す。

 山の斜面を伝う流サンチマンは見るだけでキモかった。吐き気がするザマス。


「うぉおおおおおお!!!」


 叫びながらヤケクソで縄を首に掛け、震える手で目一杯力を込めて縄を引っ張る。


 ゴリっ…


 鈍い音がして、白飛びした。

 次の瞬間、地面でうつ伏せになっていた。

 ルサンチマンは跡形もなく、井戸にもどっても井戸すら、何もなかった。

 山ごと消えて平らになったから。


「ハーイ!狩放題の旅がまた初めからだねっ!でもぼくのつよつよは変わってないから強くてニューゲームやで!」


「はぁ…」


 呆れて物も言えない…トボトボと日に2便しか来ないバス停まで歩き始めた。

 



バス停で待っている。



バス停で待っている。



バス停で待っている。




「ところでさ、この主張も何もない、地味戦闘だけの作業みたいな話をわざわざする意味なくないか?」


「そりゃにゃぁ、水平化だべ?ゴミになるに決まってりゃよ!」


 自分でも何を言っているか理解できない。ただ、それが僕の由縁だと、はっきりしている。


 僕は偶像として、それ以上は自分で成長できない。キャラクター消費をされに生まれてきたのだと、2度目の自殺の時に自覚したのだから。

 



 特異性は、殺される。

 




 

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