カフェでの邂逅、生きるお前ら

 戦闘アイテム兼くそナビゲーターの縄は、僕なのだ。僕が内包しきれなくて、自殺の時に分離した僕なのだ。

 だから、ルサンチマン(肉塊の異形)狩放題の旅が終わった時に、殺した。

 彼は、自分は、また死ぬ。

 主観的な死ではなく、客観的に殺される。

 

 作家性を出す為に。自分を愛せるようにと要らぬ施しを受ける為に。


 頭のおかしくなった僕の顔がコーヒーに投げかけられた。


「おや、あなた私たち側に近いですね。お元気ですか?」


 相席失礼。と、声をかけてきた老紳士がいた。白い髭と髪を蓄えたロマンスグレーの。

 

「私たち側とは?」


「ほらほら、今まで戦ってたじゃないですか」


 そう言うと老人は頬を剥がした。


「あっ」


「わかりましたか?」


 頬はすぐに再生し、中に詰まっていた肉塊は見えなくなった。


「でも、今まで対話なんてできなかった」


「それはあなたが、超人に近かったからだ」


「超人?何がなんだか」


「とにかく、何にも縛られないモノだと思ってください」


「は、はぁ…」

 

 穏やかな笑顔で老人は続ける。


「話が脱線しました。すみませんね。見方が変われば、意外と気づかないことって多いんですよ。人は他人のことを当人は理解してるつもりでも、全く理解できてないものです。だから、人を超えたモノの超人は、我々の事を理解できないのです」


「つまり、とにかく僕は今、肉塊の異形に変性しかけていると?」


 糸目の老人はその間から少し鋭い視線を送ったような気がした。

 コーヒーを一口飲んで、ペースを保つ。


「まぁ否定はしません。実際、あなたはもともとこっち側ですよ。少なくとも自殺した瞬間は。そうでしょう?自殺未遂の原因だって…」


「やめていただけますか?虫唾が走ります。僕のことをなんでアンタが知っているのかはわからないが、他人を理解することがどうせ無理であるのならば、知ったような口をきかないでほしいなぁ」


「おっと、少し怒らせてしまいましたか?すみません。私は何も、争ったり怒らせたりするつもりはありません。」


「ではなぜ、人に寄生したり、僕を襲ってきたのですか?」


「我々は抵抗してきただけです。第一、仕掛けてきたのは縄です。唆されていたではありませんか」


 そうだ、思い返してみれば、いつもこっちから攻撃してきた。僕は何も言えない。


「我々は元来、争うなんて下劣なことはしません。生まれてきた時から、弱い」


「じゃあ戦ってきた意味は?」


「それは簡単ですよ」


 簡単…よくアイツがいっていた言葉…


「………」


「我々を消さなければ都合が悪いからです」


「その意味は?」


「知りません。でも、きっと意味のないことです」


 抽象的だな…僕が渋い顔をしていると、老人はニヤニヤしながら席を立ってどこかに行ってしまった。


「あの…」


「はい?」


 ウエイトレスさんが席にやってきて言った。


「お客さまのご迷惑となる行為はおやめください」


 僕はなぜかカフェを出禁になった…

 

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