第7話 エピローグ

「ということがあったのよ」

 自分自身で焼いたチョコレートクッキーを口へ運ぶアリサ。


 ここはアリサの住むアパート。今日は土曜日。妹の見事みとこがアパートに遊びに来ていた。先日、バレンタイン用に購入した業務用チョコレートが余った。それを使用して、クッキーを焼いたのだ。それを可愛い妹・見事ちゃんに食べさせたいと考えたのが姉・アリサだ。


 アリサと見事は小さいテーブルを挟んで対面するように座っていた。

 見事もアリサの焼いたクッキーを堪能していたが、姉の話を聞いて手が止まる。

 ジトっとした目で姉を見る見事。その視線に気づいたアリサ。

「んっ?どうしたの?クッキー、焦げてた?」

「違うわ。また、お姉ちゃんが変な話をしているなって・・・」

 そう言う見事の表情には、不安と困惑が織り交ざっていた。

「見事ちゃんはお姉ちゃんの話を信じていないの?」

「だって、似たような話を前にも聞いたし・・・」

「本当だよ、見事ちゃん!お姉ちゃんは嘘を言ってないわ!」

 そう言って見事に抱き着くアリサ。

「わあっ!お姉ちゃんってば!苦しい!」

「お姉ちゃんは競輪の神様に連れられて並行世界へ行ってきたんだよ。今回は負けちゃったけど、今度は負けないように頑張るよ!」

「わっ、わかった!わかったわ!」

 見事はアリサを引きはがす。


 ふと、アリサは気づく。見事に抱き着いたとき、思わず『今度は負けない』と言ってしまった。競輪の神様は忽然と姿を消してしまったが、どうなったのだろう。もしかして・・・。

「まあ、そんなわけないか・・・」

 アリサは自分の焼いたクッキーをもう一枚手にする。我ながら上手く焼けたチョコレートクッキー。焦がすことなく、甘さ控えめにした。これなら砂糖もミルクも入っていないコーヒーのおともには最適だ。

「うん!美味しい!」

 のんびり過ごせる土曜日の午後。ささやかだが、至福のときであった。



「競輪の神様と非実在の競輪予想師2022 パート①」 完

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