第6話 帰還

「えっ?あれ・・・?」

取手競輪場にす夕日。それに照らされて競輪の神様の体は、サラサラと宙に舞い上がる砂のように消えていく。

「えっ!えっ!何で!ワシ、消えていく―」と言い残し、競輪の神様は夕日の中に消えていった。


ようやくショックから立ち直ったアリサ。すると、既にそこに競輪の神様の姿は無かった。

「あれっ?競輪の神様は?」

当たりを見渡すアリサだが、神様の姿は見つからない。レース終了後、払い戻しに行く客。さっさと帰る客。そんな人混みの中に神様の姿はなかった。


「えっ?私、どうなるの・・・?」

アリサが困惑していると、今度は夕日がアリサの体を砂埃のように消していく。

「えっ!えっ、私、消えていく!えっ!どうするのよ、これ!私―」





ハッとしたアリサ。そこは自分が暮らすスアパート。ベッドの上でになっていた。

「まさかの夢オチ・・・?」

しかし、並行世界の取手競輪場にいたときと同じ衣服いふくを身に着けていることに気づくアリサ。少なくとも、並行世界へ行く前のパジャマ姿ではなかった。


「私、助かったの・・・?」

ベッドの上にはお菓子作りの本と、スポーツ紙があった。これも並行世界へ行く前のものと全く同じだ。

スマホの時計に目を向けるアリサ。時刻は十一時半を過ぎようとしている。並行世界へ向かった時刻から一時間程しか経過していないことになる。


「はあ・・・。助かった・・・」

再度、ベッドに身体をぐったりと委ねるアリサ。予想を外したとき、どうしようかと思った。だが、無事に自分の暮らす世界に戻って来れたようだ。

「何か、もう疲れた・・・」

アリサはお菓子雑誌を閉じて、柔らかいクッションに顔を浸すのだった。

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