第3話 気づけば、そこは―

「えっ!あれ?」

 自分のアパートで急に光に包まれたかと思ったら、既にどこかの競輪場内いるアリサ。一分ほど前までパジャマ姿だったが、今は防寒対策をしたお出かけコーデ姿で屋外にいた。

 今、身に着けている物は、全てこの時期に自分が着ている服。競輪の神様の力によって一瞬に着替えさせられたのだろう。しかし―。


「うわっ!寒っ!ここ、どこ?」

 アリサは現在地を把握しようとする。客の姿はあるが、そんなには混雑している印象がない。恐らく、ここは競輪の神様によってれられてきた並行世界の競輪場だろう。天候は晴れだが、風が冷たくてとても寒い。


「ここ、取手・・・?」

「正解じゃ」

 声がした方を振り返るアリサ。そこには競輪の神様がいた。先程、アパートの部屋で出会ったときと異なり、神様もコートを羽織って防寒対策をしていた。

 取手競輪場は、茨城県取手市に位置する競輪場。JR常磐線の取手駅から徒歩で十五分前後で着く。駅から近い競輪場だが、同じく近くには利根川が流れているため、冬場の風が一層寒く感じる。


「親王牌、競輪祭、競輪GPの順番だから、今回は全日本選抜のハズよね?」

「如何にも。ここ取手競輪場で、一年で最初のGⅠレースになる」

「で、今回はどんなルールで勝負するの?」

 神様に問いかけるアリサ。今回で四回目になる神様との勝負。それに慣れつつある自分自身が恐いと思う。

「今回は新年最初のGⅠレースじゃからな。少し軽めのルールにしてやろう」

 相変わらず上から目線の神様。しかし、このやり取りにも何だか慣れた気がする。

「今回も全日本選抜競輪の決勝戦で勝負じゃ。お前さんは決勝戦で二車単を的中させること」

「それじゃあ、簡単ね」

 神様からルールを聞かされて拍子抜けするアリサ。それなら簡単に当てられる気がした。


「ルールはそれだけじゃないぞ。優勝者も同時に当ててもらうことにする。条件として、二車単の買い目に優勝者を含んでいること。そして、軍資金は三千円じゃ」

「えっ!三千円?」

 これまでの三回はもっと神様から軍資金が提供されていた。しかし、一気に金額を減らされた格好だ。今回の勝負に限らず、普段競輪で勝負するときも軍資金は多めに用意するアリサ。軍資金三千円だと、かなり的を絞らないといけないことになる。


 一気に険しい表情になるアリサ。そんな彼女に神様は専門予想紙を渡す。

「これは無料タダで提供しよう。ワシからのギフトじゃ」

「ありがとう・・・」と、素直に専門予想紙を受け取るアリサ。

 専門予想紙も普通に買えば一部五百円から六百円はする。今の状況下では貴重なアイテムだ。


「では、小娘よ。この後、12Rの決勝戦前に会おう。時刻は十六時二十七分。投票締め切り時刻じゃ」

「ええ。わかったわ・・・」

 決勝戦の投票締め切りまで、ほぼ二時間半。ここから、アリサの一人予想会が始まる。

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