9話 真実

 ……そうだった。

 僕は、『君』を飼っていた。

 いつの日か死んでしまった『君』を、僕は縁側から見える庭の桜の木の下に埋葬したんだったね。

 触れた『君』の手は、水のように冷たかった。

 そうだよな、そうだとも。『君』は、あの時の『金魚ちゃん』なんだから。

 少女は優し気に微笑み僕の手を取っている。金魚を取ってほしかったのは、『君』がもう一度あの金魚鉢に入りたいという意味だったのかな。

 この金魚が『君』なら、僕はあの金魚鉢に『君』を入れよう。


「約束だ」


 僕がそう言うと『君』は笑った。

 彼女は、


 あ り が と う


 と口を動かすと、そのまま泡沫の先へと消えていった。

 同時に、祭りの目玉である花火が、空高く舞い上がった。

 それは母と見た花火。

 それは『君』と見た花火。

 三十年前の、最後に見たあの花火と、その美しさは変わらない。記憶の通りの美しさだった。僕の手元には、が入った透明のビニール袋がゆらゆらと揺れていた。

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