第8話 ダンス・マカブル⑤(終)
「ただいま」
「おかえりーミゲル」
警察署から帰ってきたミゲルを出迎えたのは、珍しくナギだった。器用に車椅子を後ろ向きに回しながら、ミゲルに手を振る。
「お疲れ。今キラとエラが買い出しに行ってる」
「あの二人が?珍しいね」
「うん。オボロとあぐりは内装担当だから。ミゲルも手伝ってよ」
「……内装?」
ミゲルがリビングへ入ると、いたるところに色とりどりの装飾が施されていた。
カーテンレールには、光に反射して輝く、ネオンカラーが眩しいリボンが隙間なく取り付けられ、テーブルの中央には束になるように花が生けられた花瓶が置かれている。極めつけに、窓にはテープで「HAPPY BIRTHDAY NANAO」という文字が、散りばめられた花や音符のシールと共に踊っていた。
口をぽかーんと開いたままのミゲル。既にドレスから団員服に着替えていたあぐりは、脚立の上から振り返ってミゲルを見た。
「あ、おかえり〜。見て、可愛いでしょ」
あぐりはピンク色の細長いリボンを折りたたみ、頭に当ててウサギの耳を作って見せた。
ミゲルはわなわなと震え出す。そして、持っていたバッグをどさっと床に落とし、やっと言葉を発した。
「ここ、賃貸なんだが!?」
「……今の声、なんか聞いたことある」
「そう?私は何も聞こえなかったけど」
家に帰る途中だったエラは、遠くから微かに聞こえた声に首を傾げた。キラは足を止めずすたすたと行ってしまい、慌てて後を追った。
「ああ、窓が、窓が」
力なくふらふらと、装飾された窓に近寄るミゲル。
ここまで動揺したミゲルは誰も見た事がない。思わず全員で吹き出してしまった。
ミゲルは顔を赤らめて憤慨する。
「な、何笑ってるんだ!他人事じゃないぞ!」
「あはは、大丈夫大丈夫、ちゃんと一枚噛ませてますって」
「悪役みたいに言わないでくださいよ。ミゲル、窓に触ってみてください」
ミゲルが言われた通りに窓に触れると、何故かサラサラした感触が指先に伝わった。
「これは……」
「透明なフィルムを垂らしてあるの。接着部分は上のフレームだから大丈夫よ。しかも養生テープ」
緑色の養生テープを自慢気に持ち上げて見せたあぐり。ミゲルは空気が抜けたように、ぺたんと座り込んだ。
「よ、良かった……」
「安心してる場合じゃありませんよ、ミゲル。もうすぐ七緒さんがいらっしゃいます」
飲み会という名目で呼んでおきました、飲み物を買って来てくれるそうです、とオボロが付け足す。どうやら、アジトでのサプライズパーティーを企画しているようだ。
「そうか、そういえば今日だったな」
まだ若干ふらつきながら立ち上がり、素早く着替えてミゲルも手伝いを始めた。
あぐりが近寄り、こそっと話しかける。
「ミゲル、女の子は?」
「僕も一緒に、あの子の家まで送られていった。無罪で済んだよ」
「そう、良かった」
本人が自白していた通り、少女の家は老朽化してボロボロだった。だからこそ、男の言葉により惹かれてしまったのだろう。そこまで含めて考えられた犯行なのだとしたら、ミゲルも男を一発殴ってやりたい衝動にかられた。
「いやー、焦ったよ、ほんとに。急に七緒に電話が来たと思ったら、あぐりが危ないとか言い出すし、そんな時にカメラは壊れるし」
テーブルで折り鶴を作り始めたナギがぼやく。
「う、し、しょうがないでしょ、投げ飛ばされたんだから。けっこう痛かったのよ」
ばつが悪そうにあぐりが言う。音声機能は無かったと言えど、なかなかに高そうなカメラだったので尚更だ。
「投げ飛ばされた?そんなことがあったのか」
ミゲルはあぐりと会って間もなく、警察署へと連行された。お互いの状況は何一つ分からないままだった。
「すまない、あぐり。俺がいるから大丈夫、なんて言ったそばから、危険な目に合わせてしまった」
しょぼんとしてミゲルが言う。怒られた子供と何ら変わりがない。
その顔で謝られても責める気になれないわよ、とあぐりは心の中で呟いた。
「……え、そんなキザなセリフ言ってたの?」
「ミゲル、意外と大胆ですね」
にやにやと顔を見合わせるナギとオボロ。あぐりは面倒臭くなったので、ひとつため息をついて手元に集中することにした。
自然と標的はミゲルへと移る。
「な、なんだ。仕方ないだろ、職業病みたいなものなんだから」
顔を赤らめながらミゲルが言う。照れた、と二人は視線を合わせ、さらに口角を上げた。
「へえ、職業病ねえ」
「うるさいな。小さい子を相手にすると、自然と身につくんだ」
「相手があぐりでも、ですか?」
「お前ら黙ってやれ」
「「「すみませんでした」」」
あぐりの一喝で再び静寂に包まれる室内。ちょうどその時、ガチャ、という音とともに、玄関から若い声がした。
「ただいま〜」
「買ってきたよー」
「うわ、天才みたいなタイミングだ」
ナギの一言を華麗に無視し、二人はリビングに料理を並べ始めた。
唐揚げやサラダ、一口大にカットされたサンドイッチなどが入ったオードブル、こんがりときつね色に焼けた脚付きの七面鳥。キラが正方形の白い箱を開けると、中からは真っ白い生クリームがたっぷりとのったホールケーキが顔を出した。大きなイチゴが飾り付けられ、中央には誕生日祝いのメッセージが描かれたチョコレートが乗っている。七緒の大好きなコーラも忘れずに、テーブルに置いた。
「美味そう……」
「七緒さんが来てからね」
空いた口から涎が垂れる寸前に手で制すことに成功し、キラに窘められたエラはさっそく席に着いてフォークを手に取った。食い意地だけは誰にも負けない。
「よし、こっちもオッケーかな」
脚立から降りたあぐりがリビングを一望する。我ながらいい出来栄えだ、と鼻を高くした。
そこへ、ピンポーン、とインターホンが鳴らされる。全員で振り返り、代表してミゲルが玄関へ向かった。
七緒がリビングに入った瞬間、頭上で爆音と共に大小さまざまな色紙が弾け飛んだ。驚いた表情の七緒の目には、六人分の笑顔が映っていた。
「うわ、何……」
「「「「「「ハッピーバースデー、七緒(さん)!」」」」」」
「七緒さんの席はここね」
ひとしきり騒いだ後、エラの腹が盛大な音を立てたので、一同は食卓を囲むことにした。
七緒に用意された席は、いつもミゲルが座っているお誕生日席だった。オボロが椅子を引き、七緒を待ち構える。
「なんか悪いな、祝ってもらっちゃって」
「そうよ、企画したあたしに感謝しなさい」
「もう十分感謝しただろ」
席に着いた七緒は目を尖らせるあぐりからの攻撃を警戒しつつ、持ってきたコンビニの袋から大量の酒とジュースを取り出した。セットで軽いおつまみのようなものも添えられている。
「あ、はい、コーラ」
「あ、なんだよ。コーラはいらないって言っただろ」
七緒は大好きなコーラを飲むと、お酒以上に酔ってしまうらしい。ミゲル以外、その姿を見た事のある人はいないのだとか。
と言うのも、いつかミゲルと飲んだ際に大変なことになった経験があるそうだが、本人曰く、その時の記憶が無いらしい。
「今日くらい良いじゃない。介抱してあげるわよ」
有無を言わさずコップに注ぎ込まれ、満更でもない様子の七緒は困ったような笑みを浮かべた。
唯一、七緒のコーラ事情を知るミゲルは、はは、と乾いた笑みをこぼした。
「三人とも、お疲れ様でした。楽しかったですか?ダンスパーティーは」
ありえない速度で七面鳥の脚に食らいつくエラに若干引きつつ、オボロはミゲルたちに向き直る。
「楽しかったよ、貴重な経験だった。本当なら、もっと料理を味わいたいところではあったけど」
「そうね、あたしも何とかダンスを踊らずに済んだわ。あの男は最低だったけど」
目を三角につり上げたあぐりの、サンドイッチを握り潰さんばかりの勢いと語気に、男性陣が震え上がる。幸い杞憂で済んだ。
「あぐり、モテモテだったんじゃない?」
カメラで見てても、あぐりより可愛い子一人もいなかったよ、とキラがケーキを口に運びながら言う。
身内愛が強いのか、ただ単に毒舌なのか。いや両方か、と七緒は自己完結した。
「そうそう、あの子も言っていたよ。綺麗で見とれてしまったって」
「え、ほんと?それはちょっと嬉しいかも」
ふふ、とにやけながら、あぐりはフォークに付いた生クリームを舐めた。疲れた時には甘いものが一番だ。
「でもやっぱり、貴族っていただけないわ」
料理を食べ終え、モモ風味の缶を開けたあぐりは呟く。コーラを目前にしてまだ躊躇っている七緒はあぐりを見た。珍しく真面目な顔をしている。
「何か言われた?」
「机に押し倒された時、髪が崩れて眼帯を見られちゃったのよ。その時に、『眼帯か、趣味はいいな』って言われたわ。気色悪すぎて反吐が出そう」
もう気にするようなことでもないんだけどね、と少し寂しそうに呟く。
これは趣味でもなんでもない、本物の眼帯だというのに。
「俺の大学にもいた、そーゆー奴。車椅子になったのは大学二年の頃だったけど、仲良かった友達は全員離れてった。見た目で判断すんなっての」
そういやあいつらも金持ちだったな、と、ナギはウォッカの残り少ないグラスをくるくると回す。溶けかけの氷がカラカラと鳴った。
「見せてやろうかと思ったわ、あたしの左目」
「それは、大分きついですね」
苦笑いをしてオボロが言う。片目を失った者同士、分かち合えることも多いのであろう。
「軽く失神くらいするわよね」
「ええ、怯えて逃げ出すかと」
「僕、これからそれで戦おうかな」
キラが、通す腕もなく揺れるTシャツの袖を左肩付近まで捲り始めたのを全力で止めた。キラは戦闘が得意ではない分、どうにか戦う術を模索しているようだ。
「早まっちゃいかんよ、キラ。これをお飲み」
早くも酔いが回ってきたのだろうか、意味のわからない言葉を口にしたナギが、ウォッカを注ぎ足したグラスをキラに差し出す。何故か受け取ろうとしたキラをエラが制した。
「こ、これを飲めば、僕も」
「絶対だめ、お願い、止めて」
ここまで必死なエラは見たことが無い。あぐりは思わず吹き出してしまった。と同時に、笑わせてくれたのかな、と密かに申し訳ない気持ちになる。
「あぐり」
そんなあぐりを見て、ミゲルは微笑みながら名前を呼ぶ。あぐりは自然と下を向いていた顔をあげた。
「心配はいらないよ。僕らのあぐりを傷付けようとするやつは、ここにいる皆が必ず仕留める」
五人に加え、仕留めるって言い方怖いな、と言いつつも、うん、と七緒も頷いてくれた。
危ない。あぐりは目元にぎゅっと力を込める。気を緩めると、何かが零れ落ちてしまいそうだ。
「なんかミゲルって、たまにキザよね。いい意味で」
辛気臭い話題は似合わない、と無理やり話題を変えた。本当は、慣れていないだけだけど。
「俺がいるからとか、俺が助けるからとか、女の子にも言ってたわ」
「僕がそばにいるーってやつだろ?」
七緒が笑いながらサラダをつまむ。あぐりは乗ってくれて少しほっとした。
「それ、今朝も言ってたよね」
「私も聞きました。笑ってみせてよ、とかなんとか」
そうそうそれ!とキラが笑いだした。
「可愛い見た目してやるよね」
揶揄われたミゲルは恥ずかしそうに顔を赤らめると、麦茶をぐいっと飲んだ。
「別に口説きたいとか、そういう訳じゃないぞ。あぐりがいつになく不安そうだったから」
「おい待て」
自分のところに火が飛んでくると思っていなかったあぐりは、ミゲルの言葉を聞いて、飲んでいた酒をタンッとテーブルに置いた。
「え、そうなの?珍しいね」
ニヤニヤするナギ。カメラに音声機能が無いと聞いて、自分から言わなければバレないと思っていたのに。
「それ、あたしにできるかな」
「やめろおおおおお!」
眉を下げ、あぐりの真似をしたミゲルに堪えきれなくなり、ガタッと立ち上がって掴みかかろうとするのを、オボロがすんでのところで止めた。
「あぐり落ち着けー。ウォッカいるー?」
「いる!」
いつもは面倒臭がって無反応でいるナギの言葉に、羞恥心とちょっとの怒りにまかせて乗った。おおっ、と場が盛り上がる。
注がれたコップを手に、ぐいっと一気飲みしようとしたところで、アルコールのきつい匂いが鼻腔をくすぐった。
「思い留まった」
「さすがあぐり、理性を保ってる」
二人して目を丸くするキラとエラ。
まだ高校生の二人に、こいつらの介抱を任せてはいけない、と、心の中にいるしっかり者のあぐりが囁く。急に素面に戻り、真顔でコップをテーブルに置いた。
「はは、でも心配はいらなかったね」
ミゲルはショートケーキを美味しそうに頬張る。幸せそうな笑顔だ。
「俺があぐりを見つけた時、男を押し倒してたし」
「怖」
「恐ろしいな」
「あなや」
オボロのあなやが出た。どうやら既に酔っているようだ。いつの間にそんなに飲んだのだろうか、と思ったら、あぐりの手元にあったウォッカのグラスが空になっていた。いやなんでお前が飲んでんねん、と関西弁にもなりたくなる。
キラが気を利かせ、いよいよ本戦へ突入したナギとオボロの分の水を用意する。
「あ、七緒さんの分も置いておくね。いつ酔っ払ってもいいように」
「あ、ああ、ありがとう」
未だコーラに手を付けられない様子の七緒。楽しくなってきたのだろうか、酒の回ったオボロがコーラの入ったコップを手にし、あろうことか七緒の口に無理矢理注ぎ込んだ。
「!、!!」
コンプライアンスなど、ここでは誰も気にしない。だってコーラだし、とミゲルは麦茶を飲みながら、コーラを飲み干して頭を抱える七緒を見つめる。
「ああ、もうどうなっても知らないからな!」
「大丈夫、ちゃんと介抱するよ」
「するのはあたし達なんですけどね」
ねー、とあぐりはキラとエラを向く。盛大に欠伸をかましたエラは、一足先にソファに横になった。
「あ、逃げた」
「お姉ちゃんは頼んだってやってくれないよ」
苦笑いで答えるキラ。
あぐりを見ていたその目が、一瞬で固まった。
「え、キラ?どうしたの?」
あぐりの背後を見つめたまま動かないキラの方を向き、戸惑うあぐりの肩に、ポン、と何かが触れる感触。恐る恐る振り返る。
と、七緒の顔が、鼻先が触れるほど近づいていた。
「!?」
驚き、思い切り後退するあぐり。一緒になってキラも後ろに下がり、背中を壁につけてあぐりの肩に手を置く。
ただ一人、ミゲルは面白そうにけらけらと笑っていた。
あぐりは頬を引きつらせる。
「な、七緒?どうかし」
「恥ずかしがらなくていいのに。もっとこっちにおいでよ、子猫ちゃん」
思考が停止する。子猫ちゃん、だと?
後ろでキラが堪えきれずに、ブッと吹き出す音が聞こえた。七緒の向こうで、面白そうな気配を感じて身を起こしたエラも、ソファをばんばんと叩いて爆笑している。
肝心のあぐりは動けないでいた。
何が起こっている?
「え、ミゲル、これ」
「こいつ、酔ったらホストみたいになるんだよ」
どこかのCMのパロディみたいなことを言い出した、とあぐりは逆に冷静さを取り戻す。あの某菓子を渡した方がいいのだろうか。いや、誰も買ってきていないはず。違う違う、そんなことはどうでもいいのだ。
「…っふ」
余計な動作をてんこ盛りにして、七緒が長いターコイズブルーの髪をかき揚げる。見たことの無いその妖艶な仕草に、あぐりも堪らず破顔して笑みを零し、そのまま皆で笑い転げた。当の本人は、不思議そうにその様子を眺めているだけだ。
「ほっといていいよ、何も危害は加えてこないから」
「誰が加害者だよ、まったく」
男性には反応しないようだ。七緒は、ふん、と鼻を鳴らしてコップを傾ける。一度コーラを口にして、抑えていた堤防は決壊したようだ。
「コーラでこんなんなる人いる?」
「はは、いとをかし。うつくしき弱点かな、守護の者なれど」
「もうだめだ」
完全に古文を話し出したオボロに、あぐりとキラは揃って頭を抱えた。言葉が通じる分、七緒の方がまだマシだ。
「もう寝かせた方がいいんじゃない?七緒さんも、ミゲルが酔いだして幼児化したら、勘違いして手出し始めるかもよ」
キラが呆れたように呟く。白けた目で、頬杖をついてピーナッツを摘む姿は、とても女子高生には見えない。
ナギとオボロは既に、互いに寄りかかって眠りについていた。寝たら静かで助かる。
七緒は何ともないような顔をしているが、出来れば早く寝て欲しい、という女性陣の希望は一致していた。
「そうね。七緒の寝る所、あるかしら」
七緒は泊まっていく予定は無かったのだが、この状態で帰せば被害者が出かねない。地域の安全のために、今夜はこの警察はここに監禁した方が良さそうだ。
いつの間にか飲み会ムードに突入していた誕生日パーティーも、これでお開きだ。楽しかった分だけ、寂しさが残る。部屋にはいつにない静けさが舞い降りていた。
「ていうか、今日は酔わないのね、ミゲル」
いつもは酒の匂いですぐ酔ってしまうミゲルだが、今日は珍しくまだ素面でいる。八つ切りにしたショートケーキの余った一個も残さず平らげ、満足そうに微笑んだ。
「ダンスパーティーの時のプロメタジンの匂いが、まだ消えなくてな。強い薬物ほど、鼻の奥に後遺症みたいに残るんだ」
「プロメタジン?あの薬のこと?あの男、青酸カリって言ってたわよ」
はぁ?と馬鹿にしたように、ミゲルはため息をついた。
「漫画の読みすぎだろう。青酸カリはよく毒殺シーンでよく使われているけど、致死性はあまり高くないんだ。少し唾液を落として匂いを嗅いだけど、青酸カリのアーモンド臭はしなかった。だとすると、あれはプロメタジンだろう。そんなことも分からないで使ってるなんて」
これだから教養もない貴族は。と、ぺらぺらと喋りだしたミゲル。薬物に詳しいとは知らなかった。
そういえばあの時、ミゲルは毒物の匂いを直接嗅いでいた。七緒は効かないと言っていたが、さすがに無害という訳にもいかないらしい。特にミゲルは鼻が利くので尚更だろう。
「それ、どんな匂いがするの?」
エラは攻撃性・致死性のあるものをよく知りたがる。
その恵まれた体格と鋭い野生の勘を利用し、攻撃専門の遊撃手として、遠近両用のスナイパーを得物に戦っているエラ。そんな彼女の、レモネード・ジャンキーの特攻隊員としての名に恥じない趣味だ。
「特に無臭だね、だから料理に混入させやすい。青酸カリもそのままだと無臭だけど、胃酸と反応するとアーモンドや桃みたいな匂いを放つんだ。俺は食べたことないけど、金属みたいな味がするらしい」
「ふーん、あんまり美味しくなさそう」
美味しい毒物はあんまり無いかな、と苦笑いするミゲル。あぐりとキラは立ち上がり、酒の缶や食べた後のゴミが散乱したテーブルの片付けを始めた。
その後、あぐり達が何度揺さぶっても起きなかった泥酔三人。翌日、揃ってかつてない頭痛に見舞われたという。
[ダンス・マカブル 終]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます