霊感
振り返った……はいいが……
「……蜜柑?」
真後ろから声が聞こえたと思ったが、声のした辺りを見ても蜜柑の姿はなかった。
「何?アキくん」
「うおぁ⁉︎」
再び耳元で囁かれ、飛び跳ねる僕。
「蜜柑⁉︎どこにいる⁉︎」
キョロキョロと声のした方を見てみるが、やはり姿は見えず戸惑う僕。
そこでようやく、声はするのに姿は見えないという考えに至った。
「今アキくんの目の前にいるよ?」
「えっ⁉︎」
今は亡き蜜柑の背丈を思い浮かべ、その位置まで目線を合わせて目を凝らす。
が、やはり何も見えない。
「どこだ?どこにいる?」
「……今にもキスしそうなくらい、ちょー至近距離で向き合ってる」
確かに、
目の前から声が聞こえてくる。
蜜柑の声、いつも聞いていたから分かる。この距離感、この聞こえ方、間違いなく今目の前に蜜柑はいる。
……って、
「キキキキス⁉︎」
慌てて飛び退く僕。
「ええ、私もびっくりしてしまいました……」
声だけでも驚き、緊張しているのが伝わってくる。
本人も予想外だったようだ。
「……私のこと、見えないんですね?」
いまだ思考がまとまらないのか、淡々と話を続ける蜜柑。
「ああ、すまん、見えないみたいだ」
なぜ見えないかと言われれば、そもそもこの状況自体説明するのは難しく理解できないものなので確証はないがおそらくは
「アキくん、昔から霊感なかったもんね」
霊感、
蜜柑は昔からたまに怖いことを言って来ていた。
「あそこに誰かいる……」とか、「先輩見えないの……?」とか、
今思うと、僕には霊感がないようで、そういうものは一切見えないタチのようだ。
「ああ、すまん、見えないみたいだ……」
誰も悪くないのになぜか申し訳なく思えて謝ってしまう。
「……そうですか……」
残念そうな蜜柑の声が聞こえてくる。
「いえ、いいんです。これはこれでなかなか楽しめそうなので」
「そ、そうか……楽しむ?」
先程の残念そうな声は何か考え事をしていて出たものだったようだ。
何やら思いついたらしい今の声は少し弾んで聞こえた。
「アキくんからは私のことは見えないけど、私からはアキくんのことは見放題‼︎ってことはもう、カメラとか盗聴器に頼らずともアキくんのあんなことやこんな趣味が直に見られるってことですからね‼︎今から夜が楽しみです‼︎」
姿は見えずとも大変興奮している姿が容易に想像できるほど早口でペラペラ喋り出す蜜柑。
……ん?
「なんか今、カメラとか盗聴器とか聞こえたような……?」
「気のせいですよ‼︎気のせい‼︎も〜、先輩、私のことは見えないくせに幻聴は聞こえるとか、意味わからなすぎですよ〜」
あくまで僕の聞き間違いを主張する蜜柑。
おまけに頭がおかしい扱いまでされた。
「まあ、そのことは後でじっくり話してもらうとして、プライベートの話をしようか」
これまでのことはともかく、これから見えない相手がどこから見てるとも分からぬ状況が続くのだ、ルールをきめないと気が休まる所がなくなってしまう。
「とりあえずトイレとこの部屋には侵入禁止、またはいる間はいることが分かるように声を出し続けること」
いくら付き合いが長く、勝手知ったる仲とはいえ、境界線は大事だ。
……この先この部屋には先輩を連れてくることもあるかもしれないし、そうでないにしても先輩への想いがいつ爆発するとも分からないのだから、安全地帯を確保しておくのは大事だ。
「嫌です‼︎そんなの先輩のただのわがままじゃないですか‼︎見えない方が悪い‼︎取り憑かれるくらい素敵な先輩の責任です‼︎責任取ってプライベートくらい晒して下さい‼︎」
当然のごとく反対してくる蜜柑。
「なら考えてみろ、逆の立場を……」
こういう時の対処法には慣れている。
自分がその状況になった時を想像させるのだ。
そうすることで、相手も嫌なんだと理解をして……
「私は大丈夫です……よ?」
「……んん?」
しかし蜜柑からの返答は僕の予想の斜め上を行った。
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