第2話 あれでは人間が腐っていくよ
快速列車はスピードを上げ高架を駆けていく。水元が住む武蔵小金井に到着した午後7時半、彼は改札口で足を止めて再びホームに戻り、列車に乗り込んだ。急に気分が変化したのである。進行方向は新宿方面だ。〈さくらさくら〉の乗車チャイムが鳴り、扉が閉まる。吉祥寺あたりで学生の姿が増え車内が急にやかましくなり、温度も湿度も数分前より高まった。
目的は塩津社長の通うスナック〈残照〉に顔を出すことだった。水元は幾度か塩津に電話で呼び出され、そこで〈悲しみは雪のように〉を唄った。
新宿駅東口を出ると肌寒さを感じた。新宿通りを3丁目方面に向かって足を進めた。明治通りとの交差点を超えさらに東に進み、仲見世通りが左手に見えた辺りで路地に入った。胸焼けしそうな豚骨ラーメンの匂いが辺りに漂う中、自分と同世代なのに明らかに世界観が異なる男達の、悩ましげな視線を浴びながら、彼らと決して目を合わせないように、くすんだ白い外壁の雑居ビル、〈サンライズ二丁目〉を目指して歩いていく。残照はその5階にある。
雑居ビルの蛍光灯は黄ばんでいた。掲示板にはライブのフライヤーが無造作に貼り付けられている。赤い鉄扉が時代を感じさせるエレベーターは唸り声をあげ、中に入るとアンモニア臭が鼻を衝いた。5階に上がると、鉄扉が開いた正面に残照の名の記されたプレートが掲げられている。
「いらっしゃい」
白地に黒のストライプの入ったカットソーに瑠璃色のキュロットを身に着けた人間がこちらを見た。ウエーブのかかった栗色の髪が肩に触れ、両耳にシルバーのピアスが光る。面長の鼻筋が通った、やや釣り長の目もとにうっすらと隈が差す、どことなく憂いを漂わせた顔の表面には、やや茶色かかったファンデーションが厚めに、マスカラの漆黒が自らの嘘を覆い隠すかのように塗りたぐられていた。短髪の中年男性とカラオケに興じているところだった。
カウンターの奥から、口ひげを蓄えたスキンヘッドのやや小太りの男が現れた。彼は、脳内にあるアルバムの、その1枚1枚の写真と目の前の人物の外見を照合するような間をおいてから、口を開いた。
「いつか、いらっしゃったような、ごめんなさいね、この歳になると」
水元は以前、塩津という男と店に来たものだ、と明かし、カウンター席に座り、壜ビールを頼んだ。相手は店のオーナーだった。
「塩津さんねえ」
カウンター奥の冷蔵庫に向かいながらオーナーは言った。
「カレ、最近見ないわね」
「最後に来たのはいつですか?」
「2週間ぐらい前かしら。外国の方といらしていたわ。接待で見えてね。元気にしているの?」
「いや、それが」
事情を察し、オーナーは目を丸めた。
「なんなら携帯にかけてみましょうか」
「番号、ご存知なんですか?」
「あなたご存知ないの。お友達失格ね」
オーナーは携帯を首と肩にはさみながら、ビールの栓を開けグラスに注ぐ。
「つながらない。どうしちゃったんだろう。うちもツケあるし、困っちゃうわ。なんかご存じでないの?」
「知らないから、ここに来たんですけど」
「そうよね」
ばつが悪そうに笑った。水元は訊いた。
「塩津さんはいつからこの店に来るようになったんです?」
「10年ぐらい前よ。塩津さん奥さんと別れたの。原因は分かるでしょ。こういう店に来るぐらいだから。そのお相手がね、ちょっと耳を貸して」
オーナーの口ひげが私の耳に触れる感触がする。小声だったが、はっきり聞こえた。
「あそこにいるコだったの」
目配せした先にカラオケを歌う二人の人間の姿があった。
「どちら?」
「あなた鈍いわね。もう一回、耳を貸して。うちの店員よ、奈美ちゃん。でも随分前に別れたみたいだから、奈美ちゃんに居場所を聞いても、無駄かもしれないわ」
奈美はタンバリンを振っている。
この類の店に通うぐらいだから、塩津の性癖は想像に難しくはなかった。だが、事実となると生々しく感じる。知らないほうがよかったのかもしれない。
「塩津さんは今、お付き合いしている人がいるんですか?」
「さあ、分かんない。店には余程仲良くなった人しか連れてこないけどね。あんた狙われてたんじゃないの?」
「まさか。好かれていたとしても、僕はそっちじゃないです」
「別にどっちだっていいわ。あんたが好きなのが男だろうが女だろうが」
オーナーは頬を緩め、グラスを水元に渡した。
「そういえば外国の方といらっしゃったのは、この前が初めてだったわよ。英語を話していらっしゃったわ、塩津さん」
「どんな方でした?」
「忙しかったからあまり覚えていないけど、ピシッとしたスーツをお召しになっていたわ。っていうか、大丈夫かな。塩津さん、生きているかな」
寿司詰めの中央線に揺られ、武蔵小金井のアパートに戻った頃には日付が変わっていた。北に歩いて10分、築10年になる3階建てのアパートの、2階の南東角にある1LDKの部屋が、水元の住処だった。玄関で革靴とジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し、一直線にキッチンに向かい冷蔵庫を開けてビールを手に取った。
キッチンのテーブルに目をやると、メモが置いてあった。同棲相手の弓子の字である。
<ゴミ捨てお願いします。急遽出張が入ったので準備のためアパートに戻ります。明日の夜には帰ってくる>
リビングの32型液晶テレビの電源を入れると、語学番組が流れてきた。フランス語会話だった。
「オウジョルドュイ」
伊達男が何度も繰り返す「オジョルドュイ」。
口真似をしながら、ビールをガラステーブルに置き、赤皮のソファに腰をかけた。
「今日は疲れました、ジュスィ・ファティゲ オジョルドュイ」
伊達男に続き発音してみる。部屋は綺麗に掃除がされていた。
弓子は常に怒りを胸に潜めつつも、それを表に出すまいと常に無表情でいるような女で好んで黒い服を着ていた。水元とは大学生の頃に出会った。哲学専攻の弓子は2歳年上だ。音楽サークルで結成したバンド仲間だった。
アイリッシュロックの真似事のようなことをしていて、彼女がボーカルで水元がベースを担当していた。ギターとドラムの男2人を加え、デモテープを作っては音楽会社に送るなどプロ活動を目指していたが、これといった芽も出ず、弓子の卒業と同時に解散したバンドだった。以来、水元は目的もなくバイトに明け暮れ、周囲と同じように卒業し今の外資系工具メーカーの日本法人に就職した。
弓子はすぐに就職せずにニューヨークに飛んだ。音楽を学ぶため現地の専門学校に留学したのである。しかし自分よりも才能に恵まれた鼻息の荒い連中に囲まれるうちに、音楽を耳にするのさえ嫌になり、精神的に打ちのめされた状態で、日本に帰ってきた。
そんな彼女を励まそうと3年前にかつての仲間で、山梨の温泉街に泊る旅行をドラムの男が企画した。
弓子と水元以外の2人は、露天風呂から出るとそのまま、宿の近くに点在するコロンビア人女性らの働くスナック街に消えた。彼らが酒をあおりながら片言の日本語を話すホステスに煽られて、互いの陰茎を見せ合っていた時、水元は中華料理店で坦坦麺を啜りながら、弓子の苦悩に耳を傾けていたのである。
彼女が本音で自分の弱さを伝えたのは、この日が最初だった。この旅行を契機に2人は付き合うようになり、やがて彼女は水元のアパートで暮らすようになった。それを知ったバンド仲間の男達は自然と2人から離れていった。
アルバイトを掛け持ちしながら知人を頼りに就職活動をし、英語力が評価されて自動車部品メーカーの営業職に就いたのが2年前のことだ。勤務先のE社は埼玉県に本社があり、売上高の多くを自動車メーカー大手とのビジネスが占めている。得意先の幹部相手に愛想を振り巻きながら、会社同士の関係性を維持していくというのが彼女の役割のようだった。
「もう少し貯金しないとね」
30を超えた弓子は、時にそうした言葉を呟いて、彼と結婚する意志を仄めかしていた。一方の水元は、いまだもって仕事が満足にできずにいて、このままの自分で彼女を支えていくことができるのか、不安ばかりが先行し、そういうことを彼女に打ち明けることすらできない臆病な男として、所帯を持つことをためらい続けていた。
語学番組はフランス文化の紹介コーナーに移った。1970年代のアイドル〈フランスギャル〉が歌う〈天使なんかじゃない〉が流れてくる。その甘ったるい声をワンフレーズ聞いた後で、水元は彼女に携帯電話でメールを送った。
<今帰った。会社で問題が起きた。明日早く帰ってこられないかもしれない。ご飯どこかで食べてくる>
オフィスの自動販売機にあるいずれの缶コーヒーも売り切れの赤いランプが灯っている。午前8時半に出社したものの、宮川はいなかった。
営業が午前中に社内にいるのは心地良いものではない。約束が出来たことにして、ハローワークにでも行こうか水元は考え始めた。
同期は5人。彼は見事に出世競争のシンガリに位置していた。文系で学生時代まで音楽にのめり込んでいた人間など、そもそも工具になど興味がある訳がない。だが、モノやカネを右から左に流して手数料を取る商社とか金融機関に進めば、常に世の中の動向とか他人の動きに目を尖らせなくてはならず、あくせくした結果、狭隘で狡猾な間になるのは忍びない。そして、どうせならスタイリッシュでいたいと、外資を選んだのは、そんな単純な動機だった。
なぜ成績が芳しくないのか。理由は簡単だ。数字を競いあうゲームに興味が湧かないからだ。工具の売上を増やさねば、存在を認められない現実が社内にはある。目の前にいる顧客にサービスをしっかりと満足してもらえるような接触を心がけようと、ある時期からそう考えて仕事に臨むようになっていた。しかしこうした姿勢を貫けば貫くほど数字は寒々としたものとなり、彼に対する宮川の視線は死んだ鶏のように冷たくなっていった。環境を変えて一からやり直したい、という思いが彼の胸に膨らむばかりであった。
会社の業績が悪いことも背景にはあった。日本法人における今期の業績は3年連続の減益の見通しだ。競合する日本の大手工具メーカーが、G社と競合する欧州メーカーと提携し、国内で販売攻勢を強めていた。その後塵を拝していたG社の社内にはある種のニヒリズムが漂っていた。
不景気になると企業は総合力が試される。特に町工場の場合、バブル期は最新鋭の機械を導入し高品質な工具を用いて顧客が与える図面をその通りに形にするだけで儲かった。今は違う。限られた時間内でどのような段取りで機械を回せばより多くの仕事ができるかはもちろん、いい工具をどう使えば耐用期間を長くできるか、そうした細かいノウハウの蓄積によるコスト対応力のある企業に、注文が集まるようになっている。
塩津社長は山っ気がありながらも、工場全体をどう改善していくのかという点について確たる考えを持っていた。それでありながら自らの知見を高い位置から発言をするようなやり方で、業界紙で披瀝することもなかった。技術、営業、情報があれば、不景気でも儲かる、メディアとは付き合い程度の広告を出すにとどめておけばいい、という信念があった。
水元は午前11時すぎに会社を出た。薄雲が空に広がり社屋前にある国道はすべての車線が塞がっており、水蒸気を含んだガスが中空を漂っていた。牛丼屋やパチンコ屋がある一角に地下鉄の入口があった。そのすぐ近くに都が運営する若者向けの就労支援施設がある。水元は途中までそこに向かおうとしていたのだが、自分よりも若い人間が目を輝かせながら、施設に向かって道を歩いているのを見るうちに卑屈になり、質の悪い砂の匂いがする地下鉄の中で本でも読んで、時間を潰そうと考えるようになった。
ちょうどその時、携帯電話が鳴った。042から始まる番号だった。
「中村ですが」
昨日、工場前で名刺交換をしたあの男だった。
「塩津さんの件、どうなったか分かりました?」
「いや、こちらはあれから何も」
「どうしようかな。こちらも手がかりがなくてね」
「広告だったら、私ではなく広報に電話してくださいよ」
「まあまあ、そんなこと言わないでさ。ここはお互い困っているんだから協力をしましょうよ。今どちら?」
「ちょっと取り込んでいるんで、すみません。では」
粘着質な話し方が水元の気に障ったが、直後にぶっきらぼうな返答をしてしまったことを悔やんだ。業界紙が持つ情報網を持ってしても、塩津社長の行方が掴めないということは、想像以上に問題は厄介なものであるようにも感じた。いずれにしても数億円を損失として計上し、自分がどこかと飛ばされてしまえば済む話だ。それで済むならいいじゃないか、と心の中で呟いてしまう水元がいた。
幾度か地下鉄を乗り換えて、多摩センターに向かう急行列車に乗った。原宿あたりで人が乗り込んできた。電車が地上に出ると雲の切れ目から太陽が覗く。眠気を誘う車内でサマセット・モームを読んでいた。終点に到着しようとした時、宮川から電話がかかってきた。
「あれから、どう? 何とかなりそう?」
損失として処理しましょうよ、私を飛ばしても好いですから。そんな言葉が水元の喉元まで出掛かったが、宮川が畳み掛けた。
「今、うちの会社も厳しいからさ。正直、痛いんだよね。債権者集会とかはないの?」
水元は一つ呼吸をし、油を売っているのを悟られないように取り繕い、答えた。
「裁判所への申立とかはまだなんですよね。営業休止状態っていうんですか。そのうち弁護士が出てくるんじゃないかと思うんですけど」
「調査会社とかは?」
「いや。時間の問題だと思うんですが。次のアポ終わったらでいいですか?」
「了解。手掛かりが分かったら連絡ちょうだい」
話を終えると水元は面倒なことになったと思いつつ、このままでは一向に打開策を見出せないと考え、仕方なく中村に電話をした。無礼を詫びてから聞いた。
「塩津の取引先って当たっていますか」
中村は相変わらず馴れ馴れしい口調で答えた。
「この辺りの業者とは付き合いがないんじゃないかな。地元の信用金庫の職員にでも聞いてみようか」
数分後、中村から着信があった。
「こちらの信金とは口座はあっても融資とかはしていないようだね。とりあえず今日も工場にいってみようかと思うけど、どうする?」
「中村さん、今は会社にいるんですか? 僕は多摩センターなんですけど、そちらまで30分ぐらいでしたっけ、モノレールで」
「じゃあ、駅に着いたら携帯に電話をしてよ。車で行こう」
立川駅の近くで中村と合流した。横田基地を右目に白い営業車輌を走らせながら中村は言った。
「仲のいい信金職員に聞いたんだけど、塩津製造所は先代が群馬の人でメーンも群馬の地方銀行らしい」
「群馬の地銀なんて、この辺りをそんなに歩き回っていないですよね。取引先少ないから。他に当てはないんでしょうか」
「あればいいんだけどね」
塩津製造所の正門は昨日と変わらず、ひっそりしていた。2人は営業車輌を降りてポストに向かった。中には郵便物が溜まっていた。
「お宅、どちらですか?」
水元の背後に中村のではない声がした。
「塩津の方?」
「いや違いますが、お宅は」
「取引先のものです」
そう言って男は名刺を出してきた。株式会社多摩金属営業部、山本幹雄とある。どうやら私たちと同じ境遇に立たされた者らしい。
中村は名刺を受取って「本社は昭島なんですか?」と聞くと、山本は首を縦に振った。山本は中村から名刺を受取ると一瞥し言った。
「ああ、いつかうちに来られたことありましたね、別の方だったかもしれないけど、広告を出してくれと、あの時はしつこかったね」
中村は顔を赤らめ頭を掻いた。
山本が工場に着いたのは、30分ほど前だった。3日前に注文を受けた特殊な金属材料を納品するために来たのだという。社に人の気配がないことに気づき、上司の指示を受けて待機しているのだという。
「うちは気付くのが遅かった。せめて内部を知る社員がふらっとここに来ないか、それだけでもいいんですけど」
山本はため息混じりに言った。
「手がかりはなさそうですか」
水元の少々無礼な質問にも山本は腹を立てなかった。
「まあ、3日前に注文受けたときは、みなさんここにいた訳ですからね、社長も。私、直接電話を受けましたけど、携帯電話に表示されたのはこちらの建物の電話番号でしたから」
「最後に顔を会わせたのはいつぐらいです?」
中村が言葉を挟んだ。
「1週間前ですか。約束があって行った訳でなくて、立川の飲み屋街でばったりと会ったんです。女性を連れて酔っ払っていましたよ、あのクールなインテリ社長がですよ。取り巻きに見覚えなかったので接待かな、と思いましたけど。南口の場外馬券売り場の入り口近くにある雑居ビルに入っていったんです。私もあの時は会社の上司とへべれけになるまでやっていましたから、どんな言葉交わしたのかさっぱり覚えていませんけどね」
中村と私の目が合った。社長の居場所が分かったら互いに連絡を取り合おうと、2人は山本と確認し合ってから、車に戻った。
立川駅の南口に着いた頃には午後3時を回っていた。肌を刺す冷たい風が吹き始め、鈍い色をした雲が空を覆いはじめた。場外馬券売り場近くの駐車場に向かおうと路地に営業車輌を入れると、建物と建物の隙間から幾台もの警察車輌、救急車、消防車が赤い回転灯の光を周囲にちらつかせているのが見えた。
様子を見てくると言って車を降りた水元の目に留まったのは、白壁の雑居ビルに警察官や消防隊員が出入りする光景だった。その入口には〈立ち入り禁止〉と印字された黄色のテープが張られ、辺りに野次馬が集まっていた。火の気を感じさせる匂いはなかった。
10分ほど経つと、青いブルーシートが建物の入口と救急車の間の空間を囲った。
車を有料駐車場に停めた中村が携帯電話を耳に当てながらこちらに近づいてきた。
「何があったのか聞けば分かるでしょう、そのぐらい。分かったら連絡して」
乱暴に電話を切ると水元の方を向いた。
「今うちの記者に、警察に電話して確認してもらうよう頼んだから。ここ、さっきのお兄ちゃんが言っていた店の近くだよね」
雑居ビルは5階建てで、看板の数から見て10軒ほどの飲食店が入居しているようだった。中村が興奮した様子で話し続ける。
「うちの支局の記者、本当に使えなくてね。あれで俺よりいい給料貰って、取材と称して頭も下げることもしないで、あれでは人間が腐っていくよ。本当は電話さえしたくない位なんだけど」
「中村さんは、本当は記者になりたかったんですか?」
質問に中村の表情一瞬、固まったかのように水元の目には見えた。
「なりたいものか、あんな仕事。まあ、新聞売るのは大変だけど、まだ気楽だよ。業界紙だとお客さんは決まっているし」
救急車がサイレンを鳴らしてその場を離れた。続けて消防車、警察車輌がエンジンをかけて、立ち去っていった。水元は多摩金属の山本に電話をし、塩津が中に入ったビルと同じ特徴があることを確認した。そして周囲の状況から騒ぎが起きていたのが、ビルの4階にある〈いづみ〉というスナックであることを知った。
中村の忌み嫌う支局記者から連絡が来た。同業者から聞いたところでは、午後6時に警察署で管内の雑居ビルで発生した事案についてのレクチャーがある、とのことだった。先程運び出されたのが屍であり、それは塩津という名の男のものであったということが公になるまで、そう長く時間はかからなかった。
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