26.最後に重要なアドバイスを


 王国を訪問したら、是非足を運んで欲しい場所がある。


 王都の中央広場だ。


 広場の真ん中にかの王妃の銅像が立ち、その周囲にはお腹をどんと出して寝ている猫がいくらも見られるだろう。

 実は同じ広場内には百を超える猫の銅像がそこかしこに立っているのだが、美しい花壇に隠れた生けし猫と共に探して歩くのもまた愉快なものである。


 ちなみにこの銅像となった猫たちは、すべて女神と称されたかの王妃に直接愛された猫だと言われている。

 彼らは時を重ねるうちに、女神に仕える神獣と称された。もちろん女神とはかの王妃のことだ。


 そういうわけで今日においても、王妃の像と共に猫像もまた民たちの手で自主的に磨かれて、常にピカピカに輝いており、王国の民らがどれほどにかの王妃を信仰対象として生きているかが分かるだろう。


 そう考えるとやはり、時を超えた魅了魔法というものが存在しているのではないかと疑いたくもなるが。

 いや、あるいは、本当に彼女は女神の化身だったのではないか──。



 あなたは王国のどこを歩いても、猫を撫でている人たちを目にするだろう。


 猫と会話をしている奇妙な人たちがごく自然に溢れ、むしろ話さない来訪者の方がよく目立つことを覚悟しておいた方がいい。



 猫の楽園。

 猫のためにある国。

 猫により発展した国。

 民が日々猫を愛でる国。

 世界一平和な国。



 王国に向かうならば、大事なことがひとつ。


 猫アレルギーの有無について、旅行計画を立てる前に検査をしておこう。


 それは王国へと旅行する計画を始めてしまってからでは遅いのである。


 王国について知り始めたあなたは、もう訪ねないという選択肢を選べない。

 自分の体質で断念せざるを得ない状況が後からやって来ても、あなたはこれを受け入れられないだろう。


 アレルギー薬をたっぷりと処方して貰い、勇ましくも王国に旅立った猫アレルギー持ちの勇者は後を絶たない。

 王国のどのホテルにも猫が居付いていることもまた、あなたに知らせておく。



 この書をすでに手に取っているあなたはもう手遅れであろうけれど。

 あなたが猫アレルギーでは無いことを心より願って。




※なお、万が一あなたが現地で猫アレルギーを発症した場合には、安心して欲しい。

 王国にもアレルギー体質の人間は生まれていて、どうしても猫を愛でたい彼らは強い意志で治療薬の開発に邁進し、それに成功した。

 現代でもそれは最良のアレルギー薬として生産販売されているから、旅行中体調に異変を感じたらすぐに薬局に足を運ぶことをおすすめする。

 また王国にはアレルギー専門医が他国より多く存在しているため、不足の事態を怖れることもないし、一般の人々もまたアレルギー持ちの人間の対応に慣れているため、あなたはすぐに助けて貰えるだろう。

 猫だけでなく旅人にも快く医療を提供する優しい国でもあるから、あなたが患者として受け入れられない心配も必要はない。



 だが事前検査はおすすめする。

 王国を心から楽しむために。





************



 本編はこれにて完結とします。

 ここまでお読みくださいましてありがとうございました。


 なお番外編として猫のお話が続くかもしれません。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】お嬢様だけがそれを知らない 春風由実 @harukazeyumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ