25.そこは猫の王国か
かの有名な王妃の時代に終わらず、王国の発展期において、猫の話は欠かせない。
猫によって成長を遂げた国と言っても過言ではないだろう。
王妃の考えに感銘を受けた当時の者たちは、すみやかに猫を優先する社会を整えていった。
たとえば食。
猫がいつでも美味しい食事を取れるように、良質な肉、良質な魚、良質な野菜の安定供給を求めた人々は、畜産業、漁業、農業のすべてを発展させた。
そのうえそれらを猫が食べやすいフードへと加工する技術が栄えれば、それはそのまま人間の食文化を向上させていく。
たとえば医。
猫が健康であるようにと動物医療が発展すれば、やはりそれがそのまま人間医療へと適用された。
はたまた家畜にも動物医療は適用されて、やはり人間の食事が整えられていく。
さすれば飢える者は減り、病による死者を減らすことにも繋がった。
たとえば住。
猫が安心して暮らせるようにと環境を整えていけば、どこもかしこも清潔に変わり、そう時間を掛けずに国民全員が美しく清潔な家で生活するように環境が変容した。
すでにあった家々も、猫をいつでも受け入れられるようにと、ある程度の広さと高さのある、たっぷりと断熱材を使った冬でも暖かい屋敷へと建て替えられていったのも大きい。
こうしてまた人々は飢えや寒さから遠ざかり、病に掛かる者が減っていった。
その病に掛かろうと、医療が発達しているおかげで、すぐに完治する者も増えていったのである。
総じて、人々は働く口にも困らなくなっていく。
猫の食事に関わる産業も、それを輸送するための人材も、医者も、研究者も、大工も……何もかもが繋がって民の暮らしが潤った。
多くが健康であるがこそ、民たちはよく働きもした。
それはもちろん、国の発展に帰結する。
猫のためにと始まった事業で民の暮らしが良くなった話については、まだいくらも語れよう。
たとえば王国には猫のために様々な商品が開発されてきたが、転じてそれらは人間の暮らしに役立つよう利用されている。
中でも世界一の寝心地を誇り、今では世界中に愛用者のいるベッドは、猫用ベッドの開発から始まったものだった。
猫の爪が刺さっても慌てず猫を抱いていられるものを、猫が引っ掻いても心を乱さず過ごせるものをと、開発された服が、服飾文化を様変わりさせてしまったこともある。
かつて貴族の男女といえば日常でもスーツやドレスといった礼装を纏っていたが、今や式典などの特別な場合を除いてそのような服装を好む者はいない。
今も当時のような重苦しい服飾文化が続いていたらと考えれば、誰しもがぞっとするのではないか。
その手の変化としては、人々の精神的な発展も上げられる。
猫を愛する精神を養うためにと教育機関が次々に整備され、幼いうちから国民の誰もが教育を受けられる社会が実現すれば、それは当然国の発展を支える人材をより多く輩出することになった。
不思議なことには、民の多くが猫を愛するようになると犯罪も減ったのである。
街が清潔になり、食べるのに困る人間がいなくなったことも大きいであろうが、猫には心を安定させる強い効果があるのではなかろうか。
あなたもご存知の通り、王国は今でも世界一平和な国と称されている。
それは現代においても猫を第一に考える国民性が深く関与していると考察出来るだろう。
街を歩けば至る所に猫、猫、猫……王国で猫を見ずに歩ける日はまず来ない。
どの家もほとんどが猫と暮らしているが、自由を好む猫はそのまま外に過ごした。
猫ともなれば畑や庭を荒らすこともあろうし、糞尿被害もそれなりのものであろうが、民たちは笑ってすべてを許容している。
だって彼らは猫だから。
そう言って笑うのだ。
その寛容さたるや。
たまに「こらっ!」と叱る声は聴かれるも、それは基本的に猫に危ないことが起きたときだ。
そうしてその後そのように叱った人間は「猫に危ないものを出しておくな」と他の人間から叱られることになる。
それにむっとして反論するような人間は王国にはない。
それどころか「この間は大きな声を出してごめんな」「つい焦ってな」「もう危なくないようにしておいたから好きにしてくれな」と次に会った猫へと謝る人間の姿を見られるだろう。
外の猫に関して、他国にあるような野良猫を想像してはいけない。
毛並みは美しく、安心した顔で寛いでいる彼らは、家で飼われている猫と相違ないのだ。
王国全体で猫を飼っていると考えてもらった方がいい。
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