24.その王妃様は魔法を使えたか
王国の発展に大きく寄与した有名な王妃がいる。
彼女は女神の化身と称され、国王に愛され、貴族たちにも愛され、そして当時の民らから絶大な支持を得た。
最近はその有名な王妃に対して『先祖返りによる魅了の魔法を使えたのではないか』と疑う歴史学者が増えている。
その説を推す学者たちは、とりわけ彼女が悪い方向にその能力を使っていたとは語らない。
彼女は生まれながらに魅了の魔法を備えていたが、彼女自身は生涯何も知らぬまま気付かぬままに、その恩恵を受け取っていただけではないか、というのが彼らの一様な推論だ。
ご存知の通り、現代では魅了魔法は禁忌である。
ひとたび魅了魔法を使える者が現われれば、即拘束だ。
命を奪うようなことはないにしても、魔法を無力化する腕輪が付けられ、生涯に渡って厳しい監視下に置かれることとなる。
当時はまだその危険な魔法の存在が認識されていなかったとしても。
自分にそれが使えると気付いた人間ならば、悪用までとは言わずとも、自身の欲を満たすために使用してしまうものではないか。
ではなぜその王妃に関して、それは無かったと歴史学者たちが胸を張って宣言するのか。
それは彼女に関する種々の記録のすべてが、まさに女神と称された通りの清廉潔白な美しい人であったと語っているからに違いない。
だからこそ、魅了魔法所有説を有力視する歴史学者たちからも、今なおこの王妃は友好的に指示され続けている。
そういう意味では、現代においても我々は彼女に魅了魔法を掛けられ続けているのかもしれない。
そもそも残る当時の記録は、王妃に魅了された人間が残したものと考えれば、我々はその影響下にあるとも言えよう。
美しい肖像画もまた、描いた絵師が魅了されていたとすれば、本来の彼女の姿であったかどうかも定かではない。
魅了魔法は時を超えるか──。
答えの出ない問いはさておき、彼女が王国を発展させた歴史的事実は、いかに魅了された人間が記録していたとしても捻じ曲げようのない功績を現代にまで残している。
それはひとえに、彼女の興味があるものに偏っていたせいであろう。
他者からの愛情も称賛も願うことなく。
金銀財宝には目もくれず。
求めることのない彼女の愛は、一心に人でないものへと向かった。
それは彼女が公爵家の生まれであり、最初から恵まれた環境にあって、何かを求める必要がなかった、という理由も考えられた。
しかし彼女は生まれてすぐに母親を亡くしているという点において、生まれながらにすべてが満たされていたとも言えないだろう。
しかし彼女は亡くした人から受けられたものを外に求めなかった。
いや、求めたのかもしれない。
はたして王妃がそれらに自身と同じ愛情を求めていたか、それは分からない。
だが彼女の手記を読む限り、彼らといることで彼女が大層幸せであったことは確かである。
その王妃は生涯に多くの猫を愛した。
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