3.お嬢様は生まれたときから天使でした
そのことに気付いたとき、私共は心から反省いたしました。
けれどもまた時を戻ってやり直したところで、同じことを繰り返してしまうようにも思います。
お嬢様はまさに天使でございましたからね。
いえ、今もお変わりなく天使なのですが。
今や女神と称した方が正しいように感じておりましてね。
え?よく分からないですか?
確かに美しい御方ではあるけれど人外のものでは……ですって?
仕方がありませんね。
まずは幼い頃のお嬢様の天使振りを語ることにいたしましょう。
幼いうちは泣かれることも多々ございましたけれど。
えぇ、それはもう泣き顔も泣き方も素晴らしく可愛らしい赤ん坊でした。
そんな泣いていた赤ん坊をお世話のためにと不肖ながら私が抱き上げましたところ、急に天使の笑顔を見せられるものですから。
私共は心臓がいつ止まるかと、冷や冷やしながらお世話をしていたものです。
そんなお嬢様は成長なさるにつれて、使用人らにも分け隔てなく美しき笑顔を見せてくださるようになりました。
「ありがとね、マリー」
その笑顔に乗せて。
まだ拙い喋り方の時分から、どれだけ同じ言葉を繰り返し掛けて頂いたことでしょうか。
私共への感謝など要らないと幼い頃から何度もご説明しておりましたけれど。
「マリーはわたしのありがとうがいや?」
瞳を潤ませて尋ねられましたら、私などに否やはございません。
え?そこは否と言うべきだったのでは、ですか。
ご安心くださいませ。
お嬢様は赤ん坊の頃より大変聡明な御方でしたので、すぐに私共使用人らとの関係をご理解いただけるようになったのです。
それでも何故、未だにお礼を言われているか、ですって?
それはお嬢様が、ご理解したうえでどうしてもお礼を伝えたいと言ってくださる、まさに天使の優しさを備えた御方だからに決まっておりましょう。
まだおわかりいただけていないようですね?
お嬢様から特に天使を感じたエピソードと言えば……。
日々感じておりますから、いくらでも語ることは出来ますけれど。
たとえば同僚の一人が給仕の際に皿を落としてしまったことがありました。
これは公爵家に仕える使用人としてはあるまじき失態です。
それなのにお嬢様は──。
「おわびはいいの。さわっちゃだめよ。われものはあぶないの」
謝罪は要らぬと仰い、片付ける手をお止めになるのですから。
お嬢様の優しさに感動し、私共一同どれだけ涙を堪えてきたか分かりません。
「われにくいおさらはないのかしら?」
その一言で旦那様を動かして、新しい食器の開発が始まり、この邸のお皿もある日から一新されました。
お嬢様はそれを大変喜ばれ──、え?もうその話はいい、ですか?
それよりも、皆様について知りたいと。
そうでしたね。お嬢様の皆様についてご説明するためにお話ししていたのでした。
大変残念ですが、話を戻すといたしましょう。
そのようなことで、お嬢様のお世話には私共も力を入れ過ぎたきらいはございます。
なんでも先回りして与えられてしまうと、欲というものは生じなくなってしまうものなのでしょうか。
私たちはお世話に徹するあまり、お嬢様に起きていた大問題に気付くことが遅れてしまったのです。
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