2.お嬢様の大切な皆様をご紹介する前に
お嬢様の大切な皆様をご紹介させていただきましょう。
まずはお嬢様がたった今愛でられておりますくーちゃんから。
光に透ける細い毛に包まれたくーちゃんは、全身が白く輝き、お嬢様の神々しさを別の形で体現したようなお姿をされております。
それはお嬢様という女神に仕える眷属としての聖獣あるいは……
え?ただの猫にしか見えない、ですか?
えぇ、猫でございますけれど。
お嬢様の猫なのですから、ただの猫であるわけがないでしょう。
このくーちゃんは、特別な存在なのです。
しかもこちらのくーちゃんは、お嬢様の最初の猫でございまして。
その出会いは、今からもう十年も前のこと。
当時、お嬢様は六歳。
王太子殿下とのご婚約が内定された直後のことでございました。
さっそく、お嬢様とくーちゃんの初顔合わせについて語りたいところでございますが。
その前にどうしてもお嬢様について語らなければならないことがございます。
ご当主様をはじめ、若様がどんなお気持ちで、お嬢様の皆様を受け入れられたのか。
そして私共がどのような気持ちで、お嬢様の皆様のお世話に力を注いでいるか。
お話しするからには、これをきちんとご理解いただきたいからです。
お嬢様の母上様であります奥様が儚くなられたのは、お嬢様がお生まれになってから半年後のことでした。
ですからお嬢様は、母親という存在を知ることなく、お育ちになられています。
悲しきお話をしようとしているわけではございませんので、お出しになったハンカチはお仕舞いになられても……いいえ、お嬢様の女神のような美しく清らかなお話に涙される可能性はございましたね。
そのままお持ちになっていた方が宜しいかもしれません。
お嬢様が淋しい想いをされないように、私共は力を尽くすことになりました。
旦那様がそのようにご命じくださったこともあり、お嬢様を優先して動けるようになっていたのです。
旦那様は公爵様としても素晴らしき御方ですが、お嬢様に対しても素晴らしい父上様でございました。
お忙しい身でありながらお嬢様との時間を長く取られるよう尽力されて、私共にもひとときも側を離れず、大切にお世話をするよう命じられたのです。
さらにお嬢様の兄上様であられる若様もまた、母上様を亡くされて淋しい想いをされていたと思うのですが、妹君を大事にしようとお考えになられ、幼いうちは常にお嬢様と共にあり、お嬢様にはとびきりの優しさを振り撒いてございました。
それがまさか、あのような事態になると。
誰がこれを想像出来ましたでしょうか?
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