2009年 チェーンメール集団自殺事件

・2009年11月21日 主要報道局による某ニュースより


【東京都○○区 都立高等学校にて集団自殺か】


21日未明、〇〇区にて高校生24人が通学する高等学校の屋上から飛び降りる事件が発生しました。


うち3名は死亡し21名は重傷です。本事件と同時期、その高校生らの間でいわゆる不幸のメールが流行していたとの報告もあり、警察は本事件との関連や集団自殺未遂の動機などを捜査中です。





・当時流行していたとされる不幸のメール


ごめん。。。

怖いよぉ。。。こんなの送っちゃってホントごめん・・・。



8/10(月)に東京都〇〇区で橘あゆみという19才の女性が

何者かに襲われ暴行をされた後、顔がぐちゃぐちゃになるぐらい蹴られ下腹部を

何度も殴られた後、自殺しました。


それはわたしの親友です。彼女は妊娠3ヶ月でした。

遺体からはそれぞれ違う体液が見つかったということです。

おそらく何人かの男が襲った後、お腹に子供がいることに気付き下腹部を殴打した様です。友人はその後流産し絶望の淵、飛び降り自殺しました。


・・・許せない。彼女とお腹の子供、二人を殺した犯人たちを彼女たち以上に苦しませ殺すと決意しました。


警察の情報などから犯人と思われる奴の名前を調査しましたがそれだけではなかなか見つけられそうにないので、私自身の手でメールを用いて犯人を探し、怪しい奴はみんな殺す計画をたてました。


このメールを見たら必ず24時間以内に5人に回して下さい。

パソコンや携帯のIPアドレスからあなたの位置情報を入手し、メールを止めた奴の居場所をつきとめ怪しいと判断した場合殺します。


深層ウェブから入手した解析ソフトにより、あなたがメールを回したかを判断できるようになっています。


信じる信じないは自由です。ですが、このメールを嘲笑い止めた馬鹿な男が高層ビルから飛び降り、首や手足がバラバラに飛び散りました。首からは目玉が飛び出し転がり、通行人が踏みつけてしまい悲鳴を上げました。この時は巻き込んでしまい申し訳なく思いました。腹も裂け内臓が四散し、腸の中の内容物が飛び散り、消化途中の栄養物の生臭いえづく様な匂いが漂いました。せいせいしました。やっぱり呪いの力は本当だった。で、次はお前かもな?


解析ソフトは止められません。

もしメールを24時間以内に送れば自動的に犯人候補リストから削除される様になっています。もし送らなかったら、時間の前に電話します。もしそれを無視した場合は・・・わかっていますね。


現在犯人候補は680人で、内被害にあった標的は14 人です。今も更新中です。


> > > > > >マジで死にそうな目にあったけん送るわ・・

> > > > > >迷惑なメールだけどほんとにコールきたので怖いから回す

> > > > > >次の人ごめん

> > > > > >シーンとした所じゃないと今日の夜…


[添付]囲炉裏の様なものに、お香と外国語の文字列が書かれた紙人形が載せられている写真




・自殺未遂を図った高校生の1人に対する、主要報道局によるインタビュー記録


自分でもどうしてあんなことをしたか分からないんです。


なぜか、あの時は飛び降りなるのが当たり前だ、と思っていたんです。恐怖に駆られてとかそういうのではなく、当然飛び降りるものだと思っていたんです。


自分でもどうしてそんな風に思っていたのか分かりません。




飛び降りた数日前、あのチェーンメールが回ってきたんです。何だか不気味なメールが届いたと思ったのですが、メールを回すと相手に迷惑がかかると思い、回さずにいました。




その次の日、起きて学校に行くとあのメールの話で持ちきりでした。「不気味だよね」とか「どうする回す?」とか。


ですがもう高校生でしたので、ほとんどの人がメールを信じず回さずにいたそうです。




2日後、学校ではもうメールの話はしていませんでした。


代わりに、「明日屋上から飛び降りようと思うんだけど一緒にどう?」とか「やっぱり飛び降りるなら渋谷スクエアがいいよな〜」とか、「むしろレトロ感のある雑居ビルで降りるのもオツなもんだぜ」などと話していました。


私もどこで飛び降りようかなと考えながら授業を受けていると、ホームルームの時間になりました。



その日のホームルームでは担任の先生が病欠でした。その日の議題は少なくプリントを集める程度でしたので、クラス委員長がホームルームの司会を担当しました。


その日のホームルームの内容が終わった後は、自由時間となりました。そこで委員長は、用意して来た議題について話したいと提案しました。


「最近皆の中でどこで飛び降りるかという話題が流行っていると思うんだが、そういう話題はどうかと思うんだ。」


そこでクラスの男子が、


「なんだ飛び降りるのを邪魔するのかよ。そんなの俺らの自由だろ。」


と言いました。それに対して委員長は、


「いや、違うんだ。どうせなら皆で飛び降りようじゃないか。死ぬなら皆一緒の方がいいだろ。」


「確かに良いなそれ。それで、どこで飛び降りるんだ?」


「それが今回話し合いたい議題なんだ。」


この様にして、クラス内でどこで飛び降りるかの話し合いが始まりました。この時私は、みんなで一緒に飛び降りられるだなんて考えたこともなかったので、とてもわくわくしていました。


候補としては、色々な場所が上がりました。せっかく東京にいるんだから高いビルから飛び降りて皆の目を集めようぜという様な意見や、周りの人に迷惑をかけてはいけないからひっそりと郊外のビルから死のうというような意見がありました。


さらに話は広がり、死ぬ時にライブ配信してネットの人たちにも飛び降りを楽しませよう、というような意見もありました。私はあまり人前にでる様なタイプではありませんので、配信はちょっと恥ずかしいなと思いました。


遺書はどうする?という様な話にも広がりました。別に私たちは楽しんで自殺するんだからいらないんじゃないの?と思いましたが、中にはやっぱり家族にお別れくらいはしておきたいなという人もいた様です。


他にも、別れの言葉を書くとかじゃなくて、ミステリー好きな人が不審な点を残して自殺に見せかけた他殺であるかの様に仄めかしてみようか、とも言っていました。さすがに迷惑すぎるだろ。


またオカルト好きな人は、陰謀論チックな内容を含ませてみようよ、あの鮫島事件の関与を醸し出してみようぜとも言っていました。さすがの想像力に驚きですね。別にやりたくはないけど。




話はざっくばらんに広がり続け、結論が出ないままホームルームの時間の終わりが近づきました。


そこでとある女子が、


「やっぱりみんなの思い出の場所だし、学校の屋上から飛び降りようよ」


と意見を出し、学校の屋上から飛び降りることに決まりました。




さて、飛び降りの当日です。前日はわくわくし過ぎてまともに眠れませんでした。


だって自殺って人生に一度じゃないですか。誰も死んだことがないから、死んだ後の世界について誰も正しい事を伝えていません。


プラトンやニーチェなど名だたる哲学者が死について考察してきたのに、結論と言えるようなものを導き出せていないんですよ。


その死について、真実をただの高校生の私が知ることができるなんて、好奇心が止まらないじゃないですか。


クラスのみんなは、深夜1時に学校近くのコンビニに集まりました。もちろん補導されない様に私服でした。クラスの中には、やめとくよと連絡して来た人もいました。


1時間ほど遅れて最後の1人がやって来ました。名前は山村と言い、野球部のエースの子で、甲子園のスカウトも来るんじゃないかと言われている人です。


「山村遅いじゃねえか。皆待ったんだぞ。風邪ひくわ。」


山村君はしばらく何も言わず、俯いていました。


「なんか言えよ山村〜。みんなにガリガリ君おごりな。」


と言いながら男子が肩を掴もうとすると、激しく払い除けました。


その男子は呆気に取られていると、


「おかしいだろ。」


と山村君は言いました。


「何が。奢るのが?」


「違うだろ。なんで集団自殺するんだよ」


「死にたいからじゃん」


「それがおかしいだろ。まだ高校生だぞ。人生これからだってのになんで死ぬんだよ。俺はプロとして野球をやりたいよ。


 みんなだって大学行ったり働いたりしてからやりたいこと山の様にあるだろ。バイトしたりだとか一人暮らししたりだとかさ。やめようよこんなこと。」


「まあそうだけど・・・。でも今飛び降りたくて仕方ないんだよ。」


「それがおかしいだろ。頭イカれてるだろお前ら。」


クラスがざわつきました。何言ってんだこいつと多くの人が口にしていました。


その中とある女子が、


「私も・・・おかしいと」


と言った瞬間、委員長が山村君の頭をバットで殴りつけました。


「まあ、屋上行こうよ。」


と言い、気絶した山村君を上着などで縛り付け、クラスの数人に運んでいくように指示しました。




屋上に到着しました。


「どこがいいかな。車の上に飛び降りて先生の車を破壊してやろうか。」


「いや、迷惑なだけじゃん・・・。」


「やっぱり校庭に飛び降りるか。無難に。」


という様な会話があり、校庭に向かって飛び降りることに決まりました。




クラスのみんなは湧き上がっていて、肩を組んで流行りの歌をみんなで歌っている人達や、通話しながら今から自殺することを熱心に語っている人、そしてどこから持って来たのか酒を嗜んでいる人もいました。


ギャルな女子は、これからもう一生この顔なんだから、キメとかないとやばくね?と言いながらメイクを直していました。またクラスのオタクはPCを持ってきてこれからのことをライブ配信していました。




「さて、飛び降りるか。」


とクラスの一人が言いました。各々が屋上の縁へ向かい、落下防止用の柵を越えました。


そしてみんなで手を繋ぎました。クラスの一人が、


「来世でも会おうな!」


と言い、飛び降りる準備をしました。


その時私は、死について思いを馳せていました。死後の世界って実際のところあるんでしょうか。


天国とか地獄って、結局は人間が死んだ先に何もないと思うのが嫌だから生み出す概念ですよね。天国・地獄に飽き足らず、餓鬼道だとか畜生道だとかと色々と考えて、ご苦労なことだと思いますよ。


科学的に考えれば、死後の世界なんてあるはずないですよね。でも何もないよりかは、地獄でもなんでも、何かが先にある方が寂しくないよね。




そこで山村君が目を覚まし、


「何してんだお前ら。やめろ。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!」


と言いました。同時に2人くらい泣き喚いていた人もいましたが、もう遅いです。


なぜならもう飛び降りていたから。





目が覚めると病院でした。


瞼を開いた先には、白い天井が広がっていました。手首を見ると点滴が刺さっていて、首にはギブスが巻かれていました。


医者によると、私は通っている高校の屋上から飛び降りた後、木の上に落下したそうです。木がクッションとなり、かろうじて一命を取り留めたそうです。


チェーンメールが届いてからの私は、私であって私でない様でした。なんであんなに死にたがっていたのか、全くわかりません。本当に生きていて良かったと思います。




クラスのみんなもほとんど生きていたそうですね。安心しましたよ。ただ山村君は亡くなってしまったそうで、本当に残念に思います。




身体が治ったら、またみんなと相談しないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る