第24話 それぞれの変化
あのあと、2人で花火を見終わってからみんなと合流することになった。
最初は花火の途中に戻ろうかと考えたけど、どうせ見るならしっかり見たかったし、おそらく人混みだろう場所で莉沙たちを探すのは難しい……というか無理だ。
そんな結論に至った俺たちは先ほどの場所のまま最後まで花火を見た。
あちらではどういう感じに見えているのかわからないけど、こっちは花火が海にも映って普段、空に打ち上げられているものよりも綺麗に見えた。
見終わった俺たちは、ゆっくりと立ち上がって合流の場所へ向かう。
莉沙から姫路さんに連絡が来ていて、合流場所はここにくる前にいた食事や休憩用のテントがある場所になった。
あとはそこに歩いて行くだけなのだが……。
「あの……なんで手離さないの?」
実は、さっきから俺が差し出した手を離してくれないのだ。
だから花火を見ている間もずっとこの状態だった。普通の人たちなら姫路さんと手を繋いでいる状況に喜ぶんだろうけどそれどころじゃない。
手汗がやばい……。
俺の感情よりも先に姫路さんに気持ち悪がられてないか心配だ。
でも、頑張って振り解こうとしても絶対に離してくれない。
「え、なんのこと?」
よく、スッとボケられるな。
手の感覚がないのか?
「この手だって。また変な勘違いされたくないし」
「変な勘違い?」
「ほら、付き合ってるとかあったでしょ。忘れたわけじゃないよね?」
初めて下校をした翌日、噂が広まったタイミングも相まって俺と姫路さんが付き合っていると噂されたことがあった。
今日いるメンバー的にあんまり心配はしてないけど、大輝あたりに変な勘ぐりはされたくなかった。
「あ、えぇ? え、えっと、そっかそうだよね………………………もうイケたと思ったのに」
「何か言った?」
「い、いや!? なんでもないよ」
俺の言葉に同意しつつも最後に何か呟いた姫路さん。なぜか、顔が赤くなっている。
それに同意してくれたはずなのに手を離してくれない。
「あの……手を…………」
「離しません!」
「えぇ…………」
俺からぷいと顔を背けて早歩きし始めた。
仕方なくついていく。
一体なんなんだ?
まぁ、ここは俺たちの地元からは離れているし今は人混みの中だ。誰かに見られる心配もないか。
5分ほど歩けばあっという間に目的の休憩所に着く。
花火が終わったからか先ほどよりも人は少なくてまばらに座っている人がいる感じだ。
少し周りを見ればすぐに莉沙たちがいる場所がわかった。
このままの状況だと色々面倒くさい。
でも、そんな俺の気持ちをわかっているのかいないのか手を引きながら莉沙たちの方へ連れていかれる。
もう莉沙たちも俺たちに気づいていて今、手を繋いでいるってバレてないのは姫路さんの後ろに俺がいるからだ。
このままじゃまずいと思っても、振り解くことができずにいるとみんなの前で止まる直前に手を離した。
「はぁ……」
助かった。
これで見られてたら帰りが面倒臭いことになってた。確実に。
あれ? みんな合流したのに何も言葉を交わさない。
不思議に思ってみんなの顔を見てみると全員ジト目だった。なんかしたか?
心当たりがないから、みんなと別れる前を思い出す。なんで俺たちは2人に…………あ。
ジュースだ! ジュース買ってこいって言われてそのまま姫路さんに言われるがままあそこまで行っていた。
どうしよう……。何も買ってない。
でも、そもそも理不尽なお願いだったから良かったのか? いや、一応謝るか。
「あ、あの……ジュースなんだけど」
「花火ちょー綺麗だったね!」
俺が謝ろうとするタイミングで莉沙が被せながら俺たちに歩み寄ってくる。
それに他のメンバーも続ける。
「本当だよね〜」
「うち感動した!」
「久しぶりに見たけどまぁまぁ良かったな」
「ツンデレか?」
「うっせーよ」
次々と並べられる感想に俺は呆然としてしまった。
なんかすごいわざとらしいような……。
でも、みんなが気にしてないならいいのか? そういうことにしよう。
大輝と昴生はなんかやり合ってるけど、それを無視して姫路さんが莉沙に話しかける。
「そっちは人多かった?」
「いや〜もうごちゃごちゃだったよ。それより!」
急にテンションが上がった莉沙が姫路さんの手を引いてみんなから少し離れたところに連れて行く。
こしょこしょとなにかを姫路さんの耳元で囁くとぽっと顔を赤くして莉沙から離れる。
「そ、そ、そんなんじゃないから!」
姫路さんは俺の方を見てぷいと顔を背けている。
俺、なんか悪いことしたか……? 確かに助けられたけど、嫌なことはしていない気がする。
そんな俺たちをニヤニヤしながらみんなは見つめていた。
◆◆◆◆◆◆
莉沙のおばあちゃんの家までみんなで歩くと既に莉沙のお母さんは帰ってきていてすぐに帰る準備をしていた。
今日は日曜日、今は21時前で今から帰っても家に着くのは23時くらいになる。
莉沙のお母さんがいるし、みんな遅くなるのを許容してこの祭りに来ている。
とは言っても、あまりにも遅いのは良くないし明日も学校があるから寝坊してしまったら困る。
だから、あらかじめ帰る準備をしていてくれたのだろう。
「みんな楽しんだみたいね〜! じゃあ帰るよ〜って……その格好じゃダメか」
莉沙のお母さんは女性陣の服装を見て頬を掻いた。
俺たちは私服だけど女性陣は思いっきり浴衣を着ている。このまま帰るのは莉沙のおばあちゃんの家から浴衣を取ってしまうことになるし、なにより動きづらい。
そういうことで女性陣が着替えるのを待ってから俺たちは車に乗り込んだ。
席は適当で前側に女性陣、1番後ろに男子3人が横並びに座る感じだ。
莉沙は車が発進するまでおばあちゃんに手を振ってからすぐに寝てしまった。
他の女性陣もみんな寝てしまって車内は静まり返っていた。
行きの時はみんなに話しかけていた莉沙のお母さんも帰りの時はみんなの疲れを考慮してから話しかけてくることはなかった。
こういうところがあるから憎めないんだよなぁ。
「それで? どこ行ってたんだよ」
左隣に座っていた大輝が窓側に肘を突きながら口を開いた。
どこ行ってた……とは、さっきの花火の時のことだろう。このニヤつき具合からなんとなくわかってるだろうに聞いてくるのか。
「どこって、ちょっと道に迷ってたんだよ」
「本当に?」
「そう。それでどうせなら見ちゃった方がいいって話になっただけ」
最近誤魔化すことが多くなったからか嘘をつくのが上手くなってきた気がする。
あまり良いことではないけど、変な誤解を招くよりはマシだよな……?
「ふ〜ん? まぁ素直じゃないのは昔からか」
「うるせ。それよりそっちはなんかなかったのか? 昴生とか」
俺はこっちのことで精一杯だったし、大輝たちの方がどんな感じだったかはわからない。
昴生と宮田さんいい感じだったから何かありそうだし気になる。
すると、大輝は思いっきりニヤついた。
「それがな、あいつら隣同士で花火見てたんだけどよ、ちょっと手があたったのかわからないけど急に2人で見つめ合い初めてさ」
「お、おう……」
なんだ? これ良くあるあの展開になったのか?
同じようなことがあった気がしないでもないけど。
「もうちょっとでキスするってところまで来たら、昴生が俺たちの視線に気づいて顔真っ赤でしゃがみ込んでたわ。宮田なんか一之瀬に抱きついて顔埋めてたし」
大輝はみんなに聞こえないくらいの声量で笑う。
だいぶ面白かったのかしばらく止まらなかった。
そんなことがあったのか。ちょっと見てみたかったな。
昴生もコミュニケーシ能力高いのにこういうところが初心なの可愛いよな。
昴生の顔を見ながらそんなことを思っていると顔が真っ赤になっていることに気づいた。
「おい、昴生起きてるのか?」
「は、まじ?」
俺と大輝でしばらく見つめると耐えきれなくなった昴生が目を開いた。
「大輝! なんで言うんだよ!」
「はっ。イチャイチャしてんのがわりぃんだろ!」
そんな大輝と昴生のじゃれあいを見ながら、長い帰り道を男だけで楽しみながら帰った。
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