第21話 雛那との出会いと関係
俺はどこにでもいる中学生だったと思う。
誰かと違う何かを持ってたわけじゃないし、自 人より努力するような人間じゃなかった。
ただ、自分の弱点のようなものは理解していた。
それは人見知りなこと。
人見知りが弱点かどうかは置いておいて、俺はそのことを少し気にしていた。
中学を入学してすぐはみんな友達作りをするためにいろんな人に話しかけに行くのをよく見ていた。
それを見て俺もあぁできたらいいななんて思っていた。
でも、俺はコミュニケーション能力が高くないしそれは無理だと決めつけて何もしなかった。
別に中学で友達を作らなくても小学校の友達がいるし大丈夫だろ、なんて自分に言い聞かせて。
でも、入学して2、3ヶ月経てばみんなグループが出来上がる。
もちろん俺はどこにも入っていなくて必然的に1人で過ごしている毎日が続いた。
莉沙は他クラスなのに話しかけに来てくれていてそれだけ救いだった。
そんなある日、初めて席替えをした時だった。
俺の前の席の男子がこちらに話しかけてきた。
「なぁ、お前なんでいつも1人なんだよ」
それが大輝だった。
なんで1人ってそんなの聞かなくてもわかるだろってこの時の俺は思っていた。
「友達作るのが下手だからかな?」
「友達作りに上手いも下手もねーよ。じゃあ試しに――」
「わたしが友達になってあげる!」
その時の俺と大輝の会話に入り込んできたのが小川雛那だった。
彼女はすごく明るい人で部活はバスケをやっていた。クラスのムードメーカーみたいな存在でいつも彼女の周りには自然に人が集まっているイメージがあった。
そんな人がなんで俺に……?
ネガティブ思考が大半を占めていた俺はそんなことしか思わなかった。
「いや……迷惑だと思うからいいよ」
だって雛那は人気者で俺は陽も当たらない人。
この人の周りにいたら周りの人に迷惑がかかってしまう。だって他の人は俺と友達じゃないんだから。
「おい、雛那割り込んでくんなよな。てか、なに? 迷惑? 誰がそんなこと言ったんだよ」
大輝はちょっとキレ気味だった。
「うるさい! 佐藤くんの隣はわたしなんだからいいでしょ! そうだよ、まずはみんなと関わらないと知ることができない。佐藤くんに友達が出来ないのは佐藤くん自身が作ることを拒否しているからかもしれないよ」
優しく語りかけるように俺の目を見てくる。
大輝とは大違いだった。
「なんでも最初は怖いかもしれないけど、踏み出したら案外へっちゃらだったりするんだよ。それにわたし達は君と友達になりたいんだよ」
すると、隣から手を差し出してくる。
「だから、わたしと友達になってくれないかな?」
「………………うん」
俺は遠慮気味にその手を取った。
この時、初めて友達が出来たって感覚になった。
小学生の時はなんとなくで友達が出来ていたけど今は違う。
それが嬉しくて心の中ではちょっと泣きそうだった。
それから、初めて胸の奥から知らない感情が湧き出てきた気がした。
多分、大輝と雛那が小学校が同じじゃなかったらこんな話になってなかったかもしれない。
だからたまたま偶然が重なって俺たちは友達になったんだと思う。
「そういえばさ! たまに佐藤くんに話かけにくる子いるでしょ? 岡本さんだっけ? すごいかわいーよね! 今度紹介してよ!」
「おい、俺をハブるな!」
こうして、雛那たちとの中学校生活が始まった。
雛那たちと友達になってから半年近くが経った頃だった。
その間に莉沙と雛那たちが友達になって放課後早く4人で遊ぶことが増えた。
雛那は部活をやっていたから毎日ではなかったけど土日とかは暇さえあれば遊んでいた気がする。
それくらい仲が良くなっていた時に気づいたことがあった。
多分、雛那のことを好きになっている。
俺は初めて感じる感情になんで名前をつければいいのかよくわからなかった。
明確にいつから、こんな感情が生まれていたのかはわからなくて初めて会った時からかもしれないしもう少し後かもしれない。
でも、雛那と話していると鼓動が早くなっている自覚があったし無意識に目で追っていることもよくあった。
自分でもなんで好きになったのかよくわからなかった。
ほら、ドラマとかだと誰かを好きになるのには明確な理由があったりする。
事故に遭いそうになったのを助けてくれたとか、いじめから助けてもらったとか、言い始めたらキリがないほどあると思う。
けれど、そんなイベントは俺と雛那の中にはなかった。
でも、今思えば中学生の頃の恋愛なんてそんな感じで好きになるものだと思っている。
一緒にいるうちに安心感を覚えるようになってたとか、そんな感じだ。
もしかしたら好きな理由を上手く言語化できてないだけかもしれない。
でも、出来ないのは変なことではないと思った。
だって好きな事実に変わりはなかったから。
そんなある日、4人で祭りに行くことになった。
暦はもう9月で夏祭りではなく、ただの近所の神社の祭りだ。
あんまり大きい祭りじゃなかったけれど、すごく楽しみにしていた。
迎えた当日、神社に行くといつもはすっからかんな境内が人で溢れかえっていた。
そんな中俺たちは中学生らしくお小遣いの中で頑張って楽しんでいた。
「ねぇ、響くん! あれ食べよ!」
この時の雛那は俺のことを『響くん』って呼んでいた。
なんでそんな呼び方なのかはよくわからないけど、雛那は友達のことを周りの人と違った呼び方をしていた。
莉沙ならりーちゃんとかだったな。
俺は雛那に言われるがままについていく。
雛那が食べたかったのはわたあめみたいで、すぐに買ってきた。
「あれ、2人がいない!」
最初に気づいたのは雛那で周りを見渡すと確かに2人の姿が見えなかった。
まぁこんな人混みだから仕方ないかもしれない。
「じゃあちょっと休憩するか」
俺はそう提案して神社のすぐ隣にあった小さい公園に向かった。
そこには祭りで買ったものを食べている人が多くて俺たちはたまたま空いていたベンチに座った。
「響くん、2人に連絡しといて〜」
「りょーかい」
雛那は携帯を持っていなかったから俺が連絡する。2人からは今並んでるのが終わったらこちらに向かうということだった。
それを伝えると雛那は「もう少しかかりそうだね〜」って呑気に言った。
「ねぇ、好きな人いないの?」
「は?」
急にそんなことを聞かれた。
脈絡がなさすぎて意味がわからない。
「ほら、2人が来るまで恋バナしようよ。それで、いるの?」
興味津々に聞いてくる。
確かにここの神社は小さいし結構人も並ぶからまだ2人は来ない。
雛那の視線の先には初々しい中学生くらいのカップルがいた。
暇つぶしに恋バナしようってことか。
それを理解した俺はちょっとだけ踏み込んでみようと思った。
「いるよ」
「え!? まじ? どんな人なの!」
隣に座っている雛那が思いっきり体を寄せてきた。もうこれだけで心臓がバクバクになっていた。
だからなるべく目を見ないように答えた。
「優しくて、ちょっとドジでなんでも一生懸命にやって、それで人のことをちょっと変わった呼び方する人」
「…………へぇ〜そうなんだ」
何かを考えているように深く頷いた。
最後のはバレてもおかしくないと思ったけど、その時はその時だ。
俺は反撃するように雛那に聞いた。
「雛那はいないの?」
「いるよ」
やっぱりいるんだ。
多分、すごく格好良くて運動神経も良くていい人なんだろう。
ちょっと怖かったけど、勇気を出して聞いてみた。
「どんな人なの?」
聞くと楽しそうに教えてくれた。
「まずね、すごい人見知りなのに仲良くなったらすごく自分から話しかけてくるような人でね、わたしがわがまま言ってもちゃんと聞いてくれて困ったら助けてくれる、それから人を思いやりすぎる人かな」
ちょっと早口気味に言われた特徴はちょっと予想してたのとは違ったけどいい人なんだろうなと思った。
「……告白とかしないの?」
自分でもなんでこんなことを聞いたなかいまだによくわからない。
だってそれは自分の首を絞めるようなことを言ってるから。
「うん……だってそれってすごく怖いことじゃない? フラれたらどう頑張っても今まで通りにできる気がしないし。響くんもそうだから相手に告白しないんじゃないの?」
「それもあるけど、俺じゃあ相手と釣り合わ……痛いって!」
俺が言い切る前に思い切り鼻をつままれた。
「それ! 響くんの悪いところ。相手がどう思ってるかは聞かないとわからないんだよ。それにさもし相手が響くんのこと好きだったらそれは失礼になっちゃうと思わない?」
「うんうん、わかったから! 離して!」
鼻をつまんだまま話されたから多分赤くなっている。俺がいうとすぐに雛那は離してくれた。
「雛那はさっき怖いって言ってたけど俺は大丈夫だと思うけどな……」
「どういうこと?」
「だって雛那から告られたら大体の人は頷いてくれるでしょ? 人気者だし」
雛那はみんなと距離感が近いし男子の好きな人なんか聞いたらよく名前が上がる。
今思えばすごい無責任なことを言っていたけどそう思うくらい雛那は人気だった。
「なにそれ〜。じゃあ……響くんはもしわたしが告白したら付き合ってくれるの?」
潤んだ瞳で聞かれた俺は咄嗟に答えてしまった。
「うん……………………………あ」
答えてしまったのに気づいた時にはもう遅くて雛那は固まっていた。
口をぱくぱくさせてだ。いつもだったら笑ってるところだったけどその時はそんな余裕がなかった。
やばい、どうしよう、好きとは言ってないけどほぼ言ってしまったようなものだ。
なんて頭の中でぐるぐる考えていると雛那がポツリと呟いた。
「そ、そうなんだ…………じゃ、じゃあさ!」
急に声が大きくなった、雛那にびっくりして思わず体が浮いた。
周りの人もこちらを見ている。
「ご、ごめん……、それで……その…………わ、わたしね」
急に指を絡めて視線を落とした雛那は顔を真っ赤にしてこちら見た。
「響くんのこと好きなんだけど……」
「は?」
意味がわからなさすぎて少し語気が強くなってしまった。
「あ! い、今のは聞かなかったことにして! 本当にごめん! 忘れて!」
慌てて否定する雛那。
頭の中は俺の方が慌てていたと思うけど。
「い、いやそれ本当?」
「…………………………はい」
もう俺から目を逸らしてショートカットの髪をくるくるいじっている。
最初は嘘だって思っていたけど反応を見るにそんな感じがしなかったしそれにさっきの雛那の言葉を聞いたから否定する気にはならなかった。
俺もそろそろ変わらないといけない。
いつまでも雛那に助けてもらってばかりじゃダメだ。雛那がこんなに勇気を出したんなら俺もそれ以上のことをしないといけない。
「そ、その……俺も雛那のことが好きなんだけど」
その時の雛那の表情は、お化け屋敷でびっくりした人みたいな感じだった。
声だけは出ていなくて顔だけがすごかったのを覚えている。
こうして俺たちは付き合うようになった。
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