第19話 みんなでのご飯
30分くらいだろうか。そのくらいかけて俺たちは食べたいものを買って集合場所の海沿いに来た。
莉沙が言ってた通りに食事用のテントが並べられていて中には簡易的な机とパイプ椅子があり、幼稚園児くらいの子からは老人まで様々な人が祭りを楽しんでいる様子が見えた。
「みんなどこだろーね」
姫路さんとテントの周りを歩いてみんなを探す。
携帯で連絡を取ろうと思ったけどこれじゃあ説明されてもわかる気がしない。それくらい人が多かった。
少し歩いてもう少しで1周してしまう、というところで莉沙に出会した。
「あー! やっと見つけた! 本当どこ行ってたの……ってもう口青いじゃん」
「あはは。我慢できなくて」
「まぁ、みんな今きたからいいけどさ。ほらあっち」
莉沙の指の方向をまだ追えば俺たち以外の全員が揃っていた。
軽く手を振りかえしてみんなの元へ行く。
「おっせぇーなー」
「みんな今きたって言ってたけど」
「ちっ、バレたか」
そんなに俺にいちゃもんつけたいのか……。
大輝の頭を軽く叩いて空いていた隣に座る。
姫路さんは俺の正面だ。
「みんな揃ったし食べよーってもう食べてる人いたね……」
みんなでその人物に視線を集中させる。
そこにいるのは宮田さんだ。
みんなの視線を感じて慌てて食べていた焼きそばを飲み込んだ。
「仕方ないじゃん! みんな遅いんだもん!」
「それにしても食べるよねぇ」
姫路さんが宮田さんに言う。
既に宮田さんの前には空になったパックが何個かあって、今食べている焼きそば以外にも胃に流し込んでいることがよくわかる。
「育ち盛りだからね!」
「それにしては全然でかくならないよな」
「うるっさい!」
「いってぇ!」
宮田さんの正面にいた昴生が多分、思いっきり足を蹴られたんだろう、すねを抑えて縮こまってしまった。
宮田さんの顔を見ると嫌なことを言われた感じではなくて楽しそうに痛がっている昴生を見ている。
これ絶対両思いだよな……。
昴生も好きな人をつい、いじりたくなってしまったのだろう。その気持ちはなんとなくわかるぞ。
そんな事情がわかれば微笑ましい光景を見て俺は自分の分の焼きそばを開けた。
ソースのいい匂いを感じながら、焼きそばを食べる。
屋台の焼きそばって普通のとなんか違うよなぁ。
ソースとかが一緒だとしても、鉄板焼きだからたまにちょっとだけ焦げてるところがあったりして香ばしさが違う感じがする。
周りを見れば悶えている昴生以外は俺と同じように買ってきたものを食べている。
「さっきさ〜射的やってきたんだけど全然当たらなかったんだよね〜。あれ欲しかったのになぁ」
食べながら莉沙がさっきまでの出来事を語る。
射的か……、そういえば他にも金魚すくいとかわなげとか色々あったな。
俺たちは食べ物しか買ってないけど。
おかけで俺たちの前だけ食べ物の量が違う。
「あんなぬいぐるみなら買えばいいだろ?」
「こういうところで取るんだからいいんじゃん! 本当なんにもわかってない!」
大輝と莉沙が言い合っている。
確かに、祭りとかゲームセンターのUFOキャッチャーとかって買った方が値段も抑えられるかもしれないけど、そこで取る喜びがよかったりするよな。
でも、1つ気になることがあった。
「射的でぬいぐるみって無理じゃない?」
だってそうだろう? 祭りの射的なんて威力はたかが知れてるし、どんな大きさなのかわからないけど倒すのは難しくないか?
「あぁ、ぬいぐるみは変わりの的があってそれに当てればいいだけなんだけどな……」
大輝は憐れむような目で莉沙を見た。
「なによ! あたしが1発も当てなかったからって文句でもあるの!?」
「ねーよ。ただ、下手くそだなって」
「うるさい! やってって言ったのにやらなかった大輝よりはマシでしょ!」
莉沙は悔しさを全面に出しながら、たこ焼きを食べている。
こういうところで必死なのがいいところなのかもな。
「そういえば響也って射的上手かったよね」
莉沙が思い出したように言う。確かに昔はよくやってたっけ。
最近は全然やってないからできるかわからないけど。
「昔はな」
「絶対、今もできるしょ! あとで取ってきて!」
「まぁいいけど……」
出来るかはわからないんだけどな。
でも、久しぶりにやってみるのもありだなと思った。
どんなコツがあったか思い出していると大輝が1人で笑い始めた。
「え、なに笑ってんの」
「いや、中学の頃さ祭りで響也が射的やるときにさ上手いって聞いてたから俺が『試しにあの店員の股間狙ってみろよ』ってふざけていっただろ?」
うわ……思い出した。
確か中学1年の頃だったはずだ。俺と大輝と莉沙とそれから雛那で――
あまり思い出したくないな。
だから夏祭りは来たくなかった。
思い出したのか莉沙も笑う。
「あー! それで大輝の言う通りに店員さんに向かって打ったんだよね!」
「そうそう。それで店員さんがうずくまっちゃってそのあとめちゃめちゃ怒られたな。響也だけ」
みんながこちらを見て笑う。
「響也くんってもしかして天然?」
「いや、言われた通りにやっただけだから!」
「だとしてもやんないでしょ!」
一之瀬さんも顔が赤くなるくらい笑っている。
宮田さんは食べながら笑っている。食べるの好きなんだな……。
確かに今考えたら結構ヤバいことをしている。
射的の銃とはいえ、それを人に向けて打ってるんだからな。怒るだけで済ませてくれた店員さんに感謝だ。
「まぁ、バカだもんね〜」
姫路さんがみんなの見えないテーブルの下で足を突きながら言ってくる。
「うるさいな。食べ物しか買わないで射的もなにもやってない人に言われたくない」
「なんだって〜? 私をデブって言いたいのかな?」
「そうは言ってないけど、食べ物にしか目がないって言いたいんだよ」
「ちょっと黙ってね〜」
思いっきり俺の足を蹴り上げてくるのが分かった。
俺はそれを予想してあらかじめ足を引っ込めて置いたから少しも当たってない。
からぶった姫路さんはびっくりしたようで目を見開く。
「おぉ、成長したね」
なんでそんな上から目線なんだ……。
俺たちのやりとりをみて姫路さんの横に座る莉沙が俺たちの前にあるたくさんの食べ物を見て姫路さんの肩を掴む。
「え、ちょっと待って姫奈。食べ物しか買ってないの?」
「え……? うん、だっていっぱい食べたいでしょ」
当たり前のような顔をしているけど、絶対これ全部は食べれない。
最初にかき氷を食べて、今俺たちの目の前には焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、チョコバナナそれからって……言っていくとキリがない。
おかげで、荷物持ちの俺の腕は限界に来るくらいだった。
莉沙は「はぁ」とため息をつく。
「ねぇ、こんなに食べたら太るよ」
「大丈夫だって……私太らない体質だから」
「そう言って去年――」
「言わなくていいから! 」
莉沙が何か言おうとすると姫路さんが慌てて莉沙の口を塞ぐ。
去年? 何かあったんだろうか。
その後、買ってきたご飯を食べながら雑談をしていると周りを歩いている人の流れが変わってきていることに気づいた。
それに気付いたのは俺だけじゃなく他のみんなもそうだった。
「ん? なんかみんな同じ方向に歩き始めたな」
さっきまでは色んな方向に歩く人たちが交わっていたけど、今は俺たちから見て右側さらに海に近い方に人が流れていた。
「あ! もうちょっとで花火の時間じゃん!」
慌ててスマホを見た莉沙は立ち上がる。
俺もスマホを見ると時刻は19時45分。花火は20時と聞いていたので本当にもう少しだった。
まだ、俺たちの前にご飯が残ってるんだけど……。
「響也ぁ〜。もう無理食べて!」
「だから言ったじゃん! 買いすぎだって!」
俺は仕方なく姫路さんが残しているお好み焼きを食べる。
そういえば今、響也って呼ばれたけどみんな気にしないのだろうか?
そう思って食べながら周りを見てみたけどみんな普通にしてた。
姫路さんは莉沙と何か話しているけどこちらには聞こえない。そんな余裕があるならちょっとは手伝って欲しい……。
「なぁ、お前ってそういうの気にしないんだな」
俺が一生懸命お好み焼きを食べていると大輝が意味のわからないことを聞いてくる。
「ふぉんなのって?」
「食べてから喋れ」
俺はちゃんと胃に流し込んでから改めて聞く。
「そんなのって?」
「姫路の残したやつ普通に食べるんだなって」
「え……」
俺は食べていた手を止めて持っているお好み焼きを見つめる。
これ、さっき姫路さんが食べてたんだっけ……?
だとしたらさっき気にしていた間接キスとあまり変わらないのでは?
理解が追いつくと急に顔が熱くなった。
そんな俺をみて大輝は笑っている。
慌てて大輝に聞いてみる。
「な、なぁ。これって普通じゃない?」
「普通かどうかは知らねーけど、気にする人は多いんじゃね?」
言っている間も大輝は笑っている。そんなに面白いのだろうか。
気にする人は多いってじゃあさっきのかき氷は……。もう、なにしてんだ俺!
かといって食べてしまったものは仕方ないので全部食べてきる勢いでお好み焼き食べる。
「これがやけ食いってやつか」
「黙れ」
「それにしても姫路もそれを気にしないんだから面白いよな」
そんな大輝の独り言を無視してゴミの処理をする。
5分くらいで全部を食べ切った俺を確認してからみんなを仕切る莉沙が言う。
「じゃあここじゃ花火見えづらいしちょっと移動しよ〜! 姫奈と響也はジュース買ってきて!」
「え? なんで俺らだけ?」
「さっき来るのが1番遅かったから! あたしたちがいる場所は姫奈に伝えてるから心配しないでいーよ」
なんだそれ……。軽い罰ゲームかよ。
莉沙の言葉を聞いてみんな口々に「俺はコーラ!」「うちはオレンジジュースで!」なんて言ってくる。
ちゃんと後で代金請求しよう。
「じゃあみんな行こ〜! 2人はよろしくね〜!」
俺と姫路さん以外の5人は人の流れに沿って花火がよく見えるであろう場所に向かっていく。
「それじゃあ行く? 早くしないと花火見えないよ」
「うん、じゃあこっち来て」
姫路さんに言われて俺は後ろをついていく。人の流れに逆らうように。
ここら辺でジュースを売ってる場所とか全然覚えてないから姫路さんについて行った方がいいだろう。
しかし、しばらく経っても屋台に着かないどころかどんどん人気のない場所に来ている気がした。
ここは普段は市場なんだろう。けれど今はシャッターが閉まっていてすぐ横には海がある。もうずいぶん遠くになった祭り会場には灯りとたくさんの人が見える。
「ねぇ、ジュース買わないの?」
「………………」
後ろから声をかけても姫路さんは黙ったまま歩く。
何か変だと思った俺は慌てて姫路さんの腕を掴む。
「こっち来たら花火見えないんじゃないの?」
こちらを振り向いた姫路さんはなんとも言えない表情をしていた。
「まぁここら辺でいっか」
「え?」
姫路さんが独り言を呟くと一度大きく深呼吸してから、俺の目を見た。
「私のお願いを聞いてもらうって約束したよね」
お願いって? なんて言わなくてもなんのことかはわかる。英語のテストで勝った方が負けた方に何でも1つ言うことを聞いてもらうと言うやつだ。
前の大輝に見られた頭を撫でたやつは入っていないらしいからまだ使われていない。
「うん」
「それ、今使っちゃうね」
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